第3話 ミッション

私こと花園サクラは生真面目だ。


例え一瞬でも気になった和葉さんの力には

なりたい。それが全く別の人でも同じだ。

頼まれたことはそつなくこなす。


サクラはこっそりフキタメモを取る。


1、紅茶派

2、キリミちゃんのトートバックを愛用

3、毎日アサイードリンクを飲む

4、好きな芸能人 ディーン藤岡 多分

5、ハマってること 占い ゲーム


サクラは和葉さんを呼び出した。

自分に気のない男性にお洒落する必要もなく

普段着で出向く。なにやらやたら気楽でいい。

着まわしたニットセーター、ウエストゴムの楽なロングスカンツ、フラットなブーツ。

髪は後ろで100金の花柄ヘアーゴムで縛る。

数年前のダウン羽織って行く。


呼び出したのは当然カフェ。

オフィスに近いみなとみらいのサンマルクは

落ち着いていて観光客が少ない。何より

コーヒーが濃い。チョコクロも美味しいけど

ソフトのあるデニッシュも美味しい。


着席した和葉さんに勝利選手のように

「はいこれっ」と得意げにメモを差し出す。

『今日は随分雰囲気違うね。」の言葉もどこ吹く風で口角のクリームを遠慮なく拭う。

「うん?」キョトンとする和葉さん。


『まだ情報足りないの』思わずキッとする

サクラ。


「大した情報ではないです。でも自分の目と足使ってる確かなモノです。」上司に報告する部下のように淡々と説明するサクラ。


大爆笑する和葉さん。

今度はサクラがキョトンとする番。


「ごめんごめん、つい笑ったりして。

サクラさん、この前ぼくが相談したいって話したら能面になって「分かりました」って踵返して帰っちゃったでしょ?」

「はぁ」確かにその通りだった。

「ちゃんと最後まで聞かなかったよね、

僕の話…その亜李酥さんを気にかけてるのは

僕の奥手の古い友人だよ。」

「えっ!そ、そ、そうなんですか?」固まる

サクラ。

「だ、だって和葉さん、えーっ!てことはクキタさん狙いじゃないんですか?」


コツン。額を優しく小突かれる。

「僕は初めからサクラさんしか気になっていないよ」

頬からデニッシュが落ちそう…でも堪える。

『そうなの?』思考がフリーズ…惚けた顔して

まじまじと和葉さんを見る。

「サクラさんは早とちりな人だ。」

魅力的に笑う。さらに少しトーンを下げて落ち着いた声色で続ける。

「僕はね、例え相談でも好きではない人と

2人きりで会ったり食事したりしないよ。」


チーズフォンデュのチーズになった気分だ。

嬉しくて、恥ずかしくて俯いてしまう。


クキタメモをいそいそしまおうとする。

その手の甲に手を重ね

「ダメダメ、奥手の友人相沢に持ってく。」

和葉さんの手の温もりは優しく温かい。

思わず顔面紅潮…心拍数アップ…


「なんで…和葉さんはてっきり彼女のこと

をって…」

和葉さんは正面からサクラを見据える。

そして落ち着いた穏やかな口調でキッパリと

言った。

「僕にはあんな風にちやほやされ慣れてる

彼女より、どこか放っておけないちょっと

不器用なサクラさんの方が気になった。」

思考がまとまらなくて難しい顔をしていたに

違いない私にさらに問いかける。


「サクラさん、コーヒー好きなんだね。

今度は花園サクラメモ 、作ってきて欲しいな。」


着古したスカンツに握り拳を乗せて

「はい。」と 生真面目に答える。

どこまでも色気ナシ、体育会系が抜けない

そんな花園サクラ すっかり和葉さんに陥落…


『春だ ♪⤴︎』

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