6.父娘の再会
銀色の無機質な扉が開かれる。
エストレの目に飛び込んできたのは、真っ白な部屋と、その中央に配置された手術台。そしてそれを取り囲む大量の機械だった。
「……あまり趣味が良いデザインではないわ」
一瞥して感想を述べたエストレに、レーヴァンが肩を竦めた。
「実用性とセンスは相容れぬものだろう」
「えぇ、そうね。でも私みたいな年齢の娘には、センスのほうが大事なのよ」
黒い瞳を手術台の奥へ向けたエストレは、そこに佇む一体のアンドロイドを見る。
「そうでしょう、パパ?」
白い部屋の中、アンドロイドは足音を響かせて二人へと近づいてきた。
量産型の身長と体格。風格を出すために移植されたグレーヘアと口ひげ。上等なスーツと革靴を身に着けたそのアンドロイドは、エストレには全く似ていなかった。
「その通りだよ、わが娘。だがそれは人間的だ」
「いいじゃない、人間的で。私は人間のつもりだもの」
ヒューテック・ビリンズの社長であり、エストレの父親でもあるカイン・ディスティニーは、娘の言葉に首を左右に振る。
「可愛いエストレ。お前を人間と呼ぶには無理がある」
放たれた言葉は低く、Sの発音が掠れていた。エストレにとっては耳慣れたものだったが、今更懐かしいとも思わなかった。両足でしっかりと床を踏みしめた少女は、恐れもせず顎を上げて父親を見据える。
「どうしてママを殺したの?」
「あれは事故だ。不幸な事故だよ、エストレ」
「防犯システムを壊して侵入して、ママのお腹に銃弾を何発も撃ちこむのが事故で済むなら、この世に悪意なんて存在しないことになるわ」
「そんなにパパをいじめないでおくれ。ただパパは、お前を相応しい姿にしたかった」
「アンドロイドに?」
エストレは鼻で笑うと、銀色の髪を背中へと払う。
「お断りだわ。パパのことは好きだけど、それより私は私が好きなの」
「お前は何もわかっていないんだよ、エストレ。パパがどれだけ苦悩して、ママからお前を奪い返そうとしたか」
カインはあくまで淡々と話をする。聞き分けの悪い子供を諭すように、あるいは導くかのように。エストレのその態度を、反抗期か気まぐれの産物として扱っていた。
しかしエストレは、それに気を悪くする様子も、まして抗議をする様子も見せなかった。
「何もかもわかってるわ。パパもママも、私を人間かアンドロイドのどちらかにしなくちゃいけなかったんでしょう? だって、私は失敗作だもの」
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