第147話アンドレア国王の悪政
朝を何事も無く迎え、馬さんに餌を食べさせ僕達は出立する事となります。
結局、奴隷を助けてもその後の事を考えるとフローゼ姫が言った通り、延命にすらなりえない結果となる事は明らかだったので、このまま真っ直ぐに王都を目指します。朝にフローゼ姫が奴隷達を解放した後の受け皿を見つけるまでは手を出さない。
そう名言を吐いた事で皆も納得しました。
最も、その考えも全ては王都の情勢次第と言っていいでしょう。
エルストラン皇国の兵を倒せば済む問題なのか、それとも皇国を引き入れた貴族派を倒せばいいのか――その両方か?
フローゼ姫は、国王派は国民から親しみを持たれていた事で、多くの国民は現状に不満を抱いている筈だと言っていましたが……本当にそうならこんなに呆気なく国王派が敗れ貴族派が台頭していないと思います。
――そこに皇国の戦力が加わったとしても。
フローゼ姫もそんな簡単な話だとは思っていないでしょうけれど、一先ず王都へ行ってみなければアンドレア国に何が起きたのかは分かりません。
「ここから先は妾の顔を見知っている者も多い。ミカ殿に御者をお願いしたい」
「任せるにゃ。道案内は窓から頼むにゃ」
通常の馬車であれば3日で王都に辿り着き、王都から3日でサースドレイン子爵領まで着く筈ですが、僕の魔法と馬さんに掛かれば1日で王都まで行けます。
しかし急ぎの旅でも貴族と何ら関係の無い一般人の動向を見たいとフローゼ姫から申し出があった為に、馬車は通常通りの速度で王都を目指しています。
馬さんが疾走を使っている状態の御者であれば通りすがりの人に顔を見られる心配はありませんが、通常の速度ではすれ違う馬車、人々に顔を認識されてしまいます。
国の現状を考えれば、処刑された王族の生き残りが顔を表に出すのは問題が大きすぎます。そんな訳もありミカちゃんに御者を一任する形になりました。
エリッサちゃんが御者を覚えれば、ミカちゃんと交代で御者をする事も可能ですが、馬さんを手綱で叩く行為を忌避している為に、思う様にはいかない様です。
「それにしても戦があったとは思えない程穏やかですわね」
エリッサちゃんのこの発言からも分かる通り、すれ違う村人、行商人の表情からはつい2週間前に国主が処刑された国とは思えないほど長閑な景色、人々の姿がありました。
その表情からは国主が代わっても自分には関係ないといったものではなく、むしろ悪い統治者が退治され平穏な日常が戻って来たとでも言うような有様です。
「こ、こんな筈は――」
「本当に戦があったんですの?」
「アーン」
2人と1匹も懐疑的な面持ちでそんな様子を馬車から覗いています。
僕とミカちゃんは視覚と同じく聴力も発達している為、時折聞こえてくる元君主の話題に耳を傾けていますが、とてもフローゼ姫には聞かせられない内容でした。
鉱山から王都までは順調にいけばいくつかの村と2つの街があります。
サースネクサスの街とシーズネクサスの街で、この2つは国王派の重鎮で侯爵のネクサス卿が治めていた街でした。国王派が一層された後、誰が治めているのかは不明ですが……。
このまま王都を目指すか、街に立ち寄るか、その選択を迫られる事になります。
食事休憩の折、ミカちゃんが皆に尋ねます。
「そろそろ話しに聞いていた街にゃ。時間的に早いけど街に立ち寄るにゃ? それとも真っ直ぐ王都に行くにゃ?」
ミカちゃんも僕と同じで途中、元国王派の悪評を噂する人々の話を聞いています。困惑しながら尋ねると――。
「鉱山を出立する時に話したと思うが、今は仲間を増やすのが先決だ。幸い王都までの道中にある2つの街は元国王派の重鎮が治めていた街。ここならば奴隷となった国王派をかくまってくれる者も居るかもしれぬ」
「でも今は貴族派が統治しているにゃ。そんな中でそんな仲間が現れるのかにゃ?」
サースドレインで統治者である子爵様に対し、親しみを感じている民が多かった事を僕達は知っています。
それと同じく道中で元統治者の悪評も聞いてしまっています。
ミカちゃんが街に立ち寄る事に否定的な意見を述べると――。
「ミカ殿は何を知っている?」
流石に誤魔化せませんか。
この勘の良さは持って生まれたものなんでしょうかね。
ミカちゃんの態度と返答から、僕とミカちゃんが情報を仕入れて黙っている事を見破られてしまいました。
「私は別に……」
「いいですよ。ミカちゃん。聞きたいと言うなら話してあげましょう。僕達がすれ違った人々が話していた内容を――」
「子猫ちゃん!」
ミカちゃんはフローゼ姫の心情を慮って敢えて黙っているつもりの様ですが、僕にはそんな考えはありません。聞きたい事、知りたいなら教えてあげるべきです。
僕は道すがら聞いた噂話をフローゼ姫に聞かせてあげます。
アンドレア国の国王が民から徴収した税で私腹を肥やしていたと、民には将来的に働けなくなった時に生活を保障する為の貯蓄という名目で多額の税を徴収していた事。
エルストラン皇国に変ってからそれが廃止され、民達が治めていた税が35パーセントから20パーセントまで引き下げられ、その効果が既に現れている事を。
エルストラン皇国軍が王城へ攻め入った時には既にその貯蓄という名目のお金は使いこまれ残っていなかった事を――。
それを聞いたフローゼ姫は美しい顔を真っ青に変えていきます。
流石に政務を執り行って居なかった王女様は、父である国王がどんな政治を行っていたのかまでは知らなかったようですね。
そんな父上が……と呟くと頽れる様に倒れこみました。
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