第148話慈善事業と介護保障
フローゼ姫が倒れてしまった為に、僕達は移動を断念しその場で野営を取る事にしました。
「先程の話は本当なんですの? 私、お父様からは陛下の執政は素晴らしい。貧しい民や怪我を負い働けなくなった民を飢えさせる事なく生涯安泰した暮らしを行える様にする為に税率を上げたと聞いておりましたわよ?」
子爵様は、ゆくゆくは子爵領に婿を迎え愛娘であるエリッサちゃんに跡を継がせる為それ相応の教育を施していた様で、元国王が行っている執政の話も聞いていた様です。先程の僕が語った話の真偽を問いただしてきます。
「僕も詳しくは知りませんよ。でもすれ違う人々がそんな話をしていたのは確かです。それはミカちゃんも知っている事ですよ」
エリッサちゃんがミカちゃんに視線を投げ、ミカちゃんも僕の話が真実であると頷いて同意してくれます。
「でもおかしいですわね。陛下がそんな見え透いた嘘で税を引き上げるとは思えませんの。仮にも賢王と呼ばれた御方ですもの」
王が悪政を行ったと戦略として噂をばら撒かれた可能性もある訳ですね。
でも偽の噂だとしたら大量に集められた税金は既にエルストラン皇国に渡っているでしょうし、税を引き下げられた事で民達の信頼も得ていますよね。
ここから巻き返す事は出来るんでしょうか?
アンドレア国王より税率を上げる事が無ければ、国民はエルストラン皇国を布いては貴族派を信用します。これ詰んでいるんじゃないでしょうか?
どうりですれ違う人達の表情が明るかった筈です。
「皇国が仕組んだ策にしてもよく考えられているにゃ。将来の保証なんて先の事は、今直ぐには分からないにゃ。国民が分かっているのは、集められた税は王家が私腹を肥やす為に使われたという情報だけにゃ」
「確かにミカさんの言う通りですわね。将来の保証を行うために残しておいた税金も、存在しなかったと言われれば国民は占領までしておいて税率を引き下げた皇国側に恩義を感じますわね。保障を既に受けていた国民がいてそれが止まったと騒ぎ立てても少数でしょうから……簡単に口封じをする事も。陛下があの税の使い道としてどこまで資金を投入していたかが分かれば、その資金が滞った事で今後影響が出る人々が現れれば皇国側の主張を覆す事も出来ますが、短期では分かりませんわね」
僕達が焚火を囲みながら推測を立てていると、馬車の扉が開きフローゼ姫が降りてきました。
顔色は依然すぐれない様子で、僕達と目が合うと申し訳なさそうに俯きます。
「フローゼ姫、先程の話を私達で検証したのですが、陛下の取られた政策の弱点を相手側に付かれたと思わざるを得ませんわ」
「そ、それはどういう……」
僕達はフローゼ姫が眠っている間に話した内容を説明します。
説明を聞き終わるとフローゼ姫はどこに視線を向けるでもなく、ただ宙を見つめています。しばらくすると朧げな瞳を向け、
「事実がどうであれ、既に国は落ち父も母も兄も――この世には居ない」
「それじゃ、王女としてこの国を見捨てるのかにゃ?」
「そんな――それではサースドレインの民はどうなるのです」
国を滅ぼされ、家族を失い、拠り所も失ったフローゼ姫は真実を隠蔽され、濡れ衣を着せられて処刑された父、母、兄の無念を晴らすでも無く諦めると言います。
その姿は、神の寵愛の賜物とも歌われる程の美人であっても腰は自信無さげに折れ曲がり、肩で切りそろえた王家を象徴する銀髪は旅の疲れからか痛み、大きな青い瞳は濁り今にも消えてしまいそうです。
今の姿ならエリッサちゃんの方が綺麗に見えますね。
ミカちゃんは――ダントツで一位ですが。
フローゼ姫のそんな姿を見て、皆も掛ける言葉が見つからずただ黙って焚火の炎を見つめていました。例年通り、旧アンドレア国にも薄っすらと雪が積もっていて森で焚火用の薪を拾っていなければ野営など無理でした。冷たい湿気を含んだ枯れ葉は燃えず、木々を切って燃やすにしても大分時間が掛かる有様です。僕のファイアで一気に熱すれば一瞬で消し炭はおろか灰になってしまいますけどね。
木が燃える時に発するパチパチという音だけが聞こえてくる中で、高音のかわいらしい声音が響きます。
「フローゼ姫は国王様の政策や、それが齎した効果を聞いた事はないのかにゃ?」
それを知っていたら先程の様に気絶したりはしないんじゃ?
そう思いましたが、どうやら違った様です。
「父の行った慈善事業や介護保障の為に税を引き上げた話は聞いておった。だがそれが裏目にでたのであろう?」
気絶したのは政策の欠点を付かれた事に気づき絶望したからで、国王が王女に内緒で私腹を肥やしていたといった捏造の話からでは無さそうです。
「慈善事業って言うのはわたくしも初めて聞きましたわ。なんですの?」
怪我や高齢で働けなくなった者への保障が介護保障で、それとは違う事にも税を割り振っていた様です。子爵様までは話が行っていない事から恐らくまだ行われていないか、王都で実験的に行われているだけだったのでしょう。
「王都にはこれまで大勢の移民がやってきていた。その者達は安定した職に就けず、目立たぬ場所にスラムを築きそこで細々と生活をしている。その者達が飢えない様に食事を補助していたのだ。また親の居ない子供達の受け皿として孤児院の運営を行い成人までの面倒も見ていたはずだ」
「それじゃ、その資金元が無かった事にされましたら――」
「当然、孤児院の運営は立ち行かず孤児は浮浪者へとなり下がり、スラムの住人もまた同様であろうな」
「それは一大事にゃ! こうしてはいられないにゃ!」
ミカちゃんも元は孤児ですからね。
孤児院の運営を国が行っていた事を知らなかったミカちゃんが、孤児達の置かれた状況を思い出立を促しました。
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