第64話新しい夜明け
狩りを終えて、子爵城に戻ると心配そうな面持ちの子爵様がフロアで待っていました。
「エリッサ、大丈夫だったか? どこも怪我はないか?」
余程心配だったみたいで、僕達を見つけると早歩きで近づいてきます。
「お父様、何も心配するような事は有りませんでしたわ」
そう言葉を漏らすエリッサちゃんの表情は、恥ずかしそうです。
レディーを気取っているエリッサちゃんからすると、子爵様に心配されるのは気恥ずかしいのでしょうね。
「子爵殿、エリッサ譲の魔法は中々のものであったぞ!」
フローゼ姫がエリッサちゃんを褒めると、子爵様も満足したのか首を何度も縦に動かし良くやったと賛辞を送っています。
フローゼ姫は浴びた返り血を早く洗い流したいとの事で、皆で浴室へ向かいます。
今日半日とはいえ、森を駆け回りましたからね。
身奇麗になると直ぐに食堂へ案内されました。
食事時には、皆で狩りの話で盛り上がります。
子爵様は娘の逞しい様子を創造し、瞳を潤ませています。
エリッサちゃんは終始笑顔を絶やさずに、初めての魔物討伐の感想を伝えています。
フローゼ姫は、親子のそんな会話を温かな眼差しで見つめており、
僕とミカちゃんは、テーブルの上のご馳走に舌鼓をうちます。
フローゼ姫が、流石に今日は疲れたから休むと言うので、賑やかな場は早々にお開きになりました。
僕達も滞在先の部屋へと戻ります。
戻ってすぐに、僕はミカちゃんに尋ねます。
勿論、この前の街壁を飛び上がった件です。
「みゃぁ~?」
僕が問いかけると――。
「あれは多分、稀に得る事が出来る神様からの贈り物だにゃ」
ミカちゃんの話では、人間は生まれた時か? 成長の段階でユニークスキルと言うものを授かる事がある様です。
それが街で、伯爵の家来から逃げる時に授かったと話してくれました。
僕にはそんな便利なものは無いですが……。
でもミカちゃんが強くなるのは賛成ですね!
神様、有難う御座います。
僕は見た事が無い神様に感謝しました。
さて、次の件です。
今頃はエリッサちゃんも新しい魔法を覚えた筈ですから。
僕達も新しい魔法を覚えましょう!
「みゃぁ~!」
「分ったにゃ! 今出すにゃ」
ミカちゃんは僕の言葉に頷くと、バックから魔石をいくつか出してきます。
伯爵のアンデットから出た魔石をミカちゃんが、僕はオークの余っている魔石を食べます。
ミカちゃんの体が薄っすらと光り、何か覚えた様です。
僕の方は1個では覚えませんでした。
何個か食べてみましょう。
6個目の魔石を食べて備え付けの、瓶から水を飲み喉の奥に流し込みます。
すると僕の体も薄っすら輝きました。
僕とミカちゃんは見つめ合い、同時に声をあげます。
「みゃぁ~!」
「覚えたにゃ!」
ミカちゃんは今度はどんな魔法を覚えたのでしょう?
流石に室内では魔法を使うのは禁止されたので、次の狩りの時にします。
でも僕の魔法は、攻撃系では無いみたいです。
「みゃぁ~?」
僕が魔法の事を話すと、
「子猫ちゃんもにゃ? 私も攻撃系じゃ無かったにゃ」
それなら部屋で使っても問題無いのでは?
「みゃぁ~?」
僕がミカちゃんに提案すると――。
「何も壊れないなら使っても平気だにゃ」
苦笑いを浮かべてそう返答してくれます。
じゃ、僕から行きますよ!
僕が魔法を発動すると――全身がシルバーに変わります。
「子猫ちゃん! 色が変わったにゃ!」
「みゃぁ~!」
僕のこの魔法は、全身に鎧を纏った様に硬質化するというものです。
これなら子爵様に頂いた、革の防具を付けなくても良さそうです。
しかも体に馴染んでいて、とても軽い!
でも何の役に立つのでしょうか?
僕が首をかしげて考えていると、今度はミカちゃんが魔法を使います。
ミカちゃんの全身も輝いたと思った瞬間――。
僕の正面にいた筈の、ミカちゃんの姿が消えました。
でも何処かに居なくなった訳ではありません。
僕はミカちゃんの匂いを感じています。
僕がトコトコと歩いて、ミカちゃんの足があった場所に体を擦り付けると、
「にゃは! 子猫ちゃんには、ばれちゃうにゃ!」
そう言って、消えていた姿を現しました。
どうやらミカちゃんの魔法は、姿を消す魔法の様です。
でも使い道に困りますね。
「子猫ちゃんは、全身が固くなったにゃ! これで怪我をしなくなるにゃ!」
ミカちゃんは僕がオーガと戦った時に、死に掛けた事を気にしてくれていたようです。
「みゃぁ~!」
これで怪我をしなくなるよ。と伝えると、
満面の笑みで僕を抱き上げて、高い高いをしてくれました。
明日は、お茶会の予定です。
エリッサちゃんが、何を覚えたのか楽しみですね!
小鳥の囀りと共に、爽やかな朝を迎えます。
僕が目を覚まし、ミカちゃんの寝顔を見ようとすると――。
「おはようにゃ! 今日は私が勝ったにゃ!」
瞳を輝かせながら、勝ち誇ったように言葉を漏らします。
どうやら毎回僕が、ミカちゃんの寝顔を眺めていたお返しに、今日は早起きをしたようです。
「みゃぁ~」
僕がミカちゃんの鼻先に自分の鼻をくっ付けると、面映ゆい表情を浮かべます。
僕の寝顔を堪能したミカちゃんは、とても幸せそうです。
僕は少し残念でしたが、ミカちゃんが嬉しそうなので、
僕も嬉しいです。
「さぁ、今日も一日が始まるにゃ!」
「みゃぁ~!」
僕達は、これからもっと幸せな時間を過ごします。
見詰め合う僕達を、窓から差し込める朝日が照らし出していました。
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