第2章 迷子編
第65話不思議な穴
僕の名前は子猫ちゃんです。
強くて可愛い子猫ちゃんです。
真っ白な毛に灰色の毛が混ざった、綺麗な毛並みの子猫ちゃんです。
僕はお婆さんの家から程近い、河原の橋の下に捨てられていました。
そんな僕を拾って、育ててくれたのがお婆さんでした。
でもお婆さんは、出掛けたきり帰ってこなくなり、お腹を空かせた僕は食べられる物を探して河原にやって来ました。
鼠を追って入った穴から、この世界に入り込んでしまったのですが、そこで運命的な出会いをします。
僕には初恋の子ができました。
猫獣人のミカちゃん10歳です。
薄い青色の瞳をキラキラ輝かせ、とても綺麗です。
ミカちゃんは耳と尻尾が無ければ、普通の色白美白な人間です。
尻尾は真っ白な毛で覆われています。
小さな頭の上にちょこんと乗った耳は、白地で先っぽだけ茶色です。
山頂に雪が積もる様に、茶色いココアが積もっています。
ミカちゃんは村長さんの養女だったのですが、伯爵の陰謀で村は崩壊。
そこから僕とミカちゃん、2人の生活が始まりました。
現在はサースドレイン子爵の子爵城に滞在しています。
最初は伯爵から身を隠す為の滞在でした。
伯爵が亡くなった為、今は――。
子爵令嬢のエリッサちゃんに、魔法を教える家庭教師として雇われました。
モカブラウンの髪を肩より少し伸ばして、翡翠色の大きな瞳が印象的な将来が楽しみなお嬢様です。
この子爵城には現在、この国の第一王女フローゼ様が滞在しています。
その美貌は神の寵愛の賜物と、吟遊詩人に歌われる程の美人です。
王家の象徴の銀髪を肩で切り揃え、大きな青の瞳は透き通る海の如く綺麗です。
男勝りな性格が、その美貌を台無しにしている感じがしますが……。
そんな4人で、これからの冒険が始まります。
僕とミカちゃんが新しい魔法を取得した翌日の午前中の出来事です。
朝はいつもメイドさんが朝食の時間を知らせてくれます。
でも、その日は違っていました。
僕達が滞在している部屋の扉が急に開き、僕もミカちゃんも身構えます。
でも中に入ってきたのは、綺麗な若草色のドレスに身を包んだエリッサちゃんでした。
「エリッサちゃん、どうしたにゃ?」
ミカちゃんがベッドから起き出し、声を掛けます。
「ミカさん、やりましたわ! 昨晩だけで3つも覚えましたの」
余程嬉しかったのでしょう。
瞳を潤ませながら、僕達に感謝の言葉を伝えてきます。
どんな魔法を覚えたのか興味はありますが、まずは腹ごなしですね。
食堂で朝から贅沢な食事を頂いた僕達は、早速魔法も使える訓練場脇のスペースで紅茶を楽しみます。
「ここなら魔法が使えますわね!」
満面の笑みをたたえながら、エリッサちゃんがはしゃいでいます。
さてどんな魔法を覚えたのでしょうか?
メイドに的を用意させると、それに手を翳します。
次の瞬間、ボワッ、と音が鳴り響くと的が燃え出しました。
これは僕も使っているファイアですね。
次の的を用意してもらい、再度手を向けると――。
的に水滴が付着し、刹那――的が白くなり凍ります。
これも僕達が使えるブリザードですね。
後一つは何でしょう?
僕とミカちゃんが両手を叩き、拍手をしていると、
「もう一つは、前にミカさん達が筆頭執事のフェルブスターに使ってくれた回復魔法ですわ」
そう語り破顔しました。
これだけの魔法があれば、エリッサちゃんは一流の魔法師の仲間入りです。
この付近の魔物から取れる魔石では、数をこなさないと新しい魔法を覚えるのも大変そうですね。
僕達3人が、魔法の試射を行っていると、メイドを伴って綺麗な女性が屋敷の方から歩いてきます。
誰でしょう?
近くまで来て良く顔を確認すると――。
ブルーのドレスに身を包み、髪を後ろで結わえたフローゼ姫でした。
いつもの鎧姿で無いだけで、人はこうまで変われるものなのですね……。
ミカちゃんも、エリッサちゃんも昨日一緒に狩りを楽しんだ仲間なのに、緊張から体を硬くしています。
「ここで魔法の試射を行っていると聞いて見に来たのだが……」
言葉遣いは残念美人のままでした。
その口調を耳にした少女2人にも、笑顔が戻ります。
「はい。先程、私が覚えた魔法を試しておりましたの」
エリッサちゃんが、フローゼ姫にそう伝え、まだ凍っている的を指差します。
それを見たフローゼ姫が――。
「昨日の今日で、もう新しい魔法を覚えたのか?」
訝しげな面持ちで確認してきます。
「そうにゃ。エリッサちゃんは天才にゃ!」
ミカちゃんは魔法取得が早いのは、能力のお陰という事にした様です。
「ほう――それにしては早いな」
尚も、懐疑的な視線を向けてきます。
でも流石にお姫様に本当の事を教えたら、皆が真似して魔法使いだらけになっちゃうじゃないですか!
それだけは阻止しないとですよね!
その日は結局、庭園を回って新しく咲き出した花を観賞して過ごします。
明日はまた狩りに行く予定です。
エリッサちゃんも、新たに覚えた魔法を早く実践で使ってみたい様です。
翌朝、冒険者ギルドで討伐依頼を受けた僕達は、森にやって来ます。
今日もメンバーはミカちゃん、僕、エリッサちゃん、フローゼ姫です。
一昨日倒し過ぎたからでしょうか?
魔物が居ません。
僕達はどんどん奥へと入っていきます。
この森の奥は広葉樹になっていて、日の光が微かにしか入ってきません。
「なんだか薄気味悪くなってきましたわね……」
薄暗くなった森の中です。エリッサちゃんが不安そうな声音を漏らすのも仕方が無いでしょう。
僕とミカちゃんは夜目が利きますから、まだ平気です。
でも他の2人が視認出来なくなっては、狩りも出来ません。
「この辺で街の裏側を通って戻るにゃ」
ミカちゃんが安全を考え、そう告げると――。
「――きゃっ」
短く悲鳴をあげ、エリッサちゃんの姿が穴の中へ落ちていきました。
こんな所に穴なんてあったかな?
「エリッサちゃんを助けるにゃ!」
エリッサちゃんが落ちた穴に、ミカちゃんも入っていきます。
僕も後を追います。
「なんだ、この穴は……」
フローゼ姫は、その場で待機したようです。
フローゼ姫が呟いた声を背中で聞きながら、僕も穴へ飛び込むと――。
急に視界が明るくなります。
穴は地面から2m位高い場所に繋がっていて、地面には沢山のお花が咲き誇っていました。
ミカちゃんと、エリッサちゃんは柔らかな地面に尻餅を付いています。
僕は宙返りをしながら着地し、周囲を警戒します。
視認出来る範囲では、生物の気配はありません。
良く周りを見渡しますが、見覚えがない場所です。
「痛いにゃ。お尻をぶつけたにゃ」
ミカちゃんが、お尻を擦りながら立ち上がります。
エリッサちゃんは膝小僧を擦りむいている様ですが、お尻の方が気になる様で、ひたすらお尻にヒールを掛けています。
そんな2人を微笑ましく見つめながら、僕が質問をします。
「みゃぁ~?」
ここは一体、どこでしょうか?
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