第62話ランクアップ
伯爵の街に王都からやってきた執政官を置き、僕達は3日後にサースドレイン子爵領まで帰ってきました。
フローゼ姫は抜け道の出先が普通の森の中だった事に落胆すると、僕達の狩りに同行させろと辟易する位お願いされたので、エリッサちゃんとの狩りに同行を許可しました。
王都の王女様がこんなのでいいのでしょうか?
僕達が子爵城に戻ると――。
「おかえりなさい! ミカさん、子猫ちゃん」
翡翠色の瞳を輝かせ、エリッサちゃんが城門の入り口まで迎えに来てくれます。
僕達と会えて嬉しかった様で、モカブラウンの髪を揺り動かしながら駆けて来ました。
「今戻りましたにゃ!」
「みゃぁ~!」
「うふふ、2人共元気そうで良かったですわ」
ミカちゃんも、6日ぶりの再会に頬を緩ませます。
僕は姦しい2人の会話を隣で見つめています。
すると――。
「エリッサ殿、お父上は執務室かな?」
後ろに居たフローゼ姫から声が掛かりました。
エリッサちゃんはミカちゃんとの再会に浮かれていて、後ろのフローゼ姫に気づいて居なかったようです。
エリッサちゃんが慌ててフローゼ姫と騎士団長に挨拶をし、案内をかってくれます。
エリッサちゃんの案内で執務室に到着しました。
執務室では、伯爵領で起きた一通りのあらましを説明しました。
伯爵が死んだ事には、特に思う事は無いようで、伯爵領を新たに統治する貴族が誰になるのか?
そこに子爵様の興味はいっているようでした。
フローゼ姫も統治する貴族への任命権は持っていないので、王の判断次第になるという事でした。
騎士団長と王都の兵達だけ先に王都へ出立し、フローゼ姫は新たな伯爵領を統治する貴族が来るまで、子爵領から様子を見る事に決めたようです。
でも、それ絶対嘘ですよね?
仕事の為に残ると言っていたのに、騎士団長が王都に発つと直ぐに――。
「さぁ! 狩りに行こうではないか!」
そう言い出しましたから。
フローゼ姫は、その美貌は神の寵愛の賜物とも歌われる程の美人らしいのですが、どう見ても残念美人ですよ。
子爵領に戻って3日後に、フローゼ姫、エリッサちゃん、僕達の4人で狩りに行く事に決りました。
子爵様も、僕達に加えてフローゼ姫も一緒となると否は無く、エリッサちゃんの狩りを認めてくれました。
フローゼ姫は相変わらずの鎧姿で、エリッサちゃんとミカちゃんは、子爵様から頂いた魔物の革を使った防具を装備しています。
僕ですか?
僕のもありましたが、重いので置いてきました。
「それでどこの狩場に行くのだ?」
フローゼ姫が興味津々、とでもいう様に尋ねてきます。
まずは冒険者ギルドからですよね?
僕がそう思っていると、ミカちゃんが――。
「最初にギルドで依頼を受けないといけないにゃ」
そう言って、ギルドの方へと歩いて行きます。
「そういえば、ミカさんは冒険者ですものね」
ミカちゃんの隣を歩いている、エリッサちゃんがそう問いかけます。
「そうにゃ、まだFランクにゃ」
ミカちゃんが胸を張ってランクを叫ぶと……。
「ミカ殿でFランクは何かの間違えだろう?」
ミカちゃん達の後ろを歩いていた、フローゼ姫がそう突っ込みを入れます。
僕は、フローゼ姫の警護を子爵様に依頼されたので、フローゼ姫の一歩後ろを歩いています。
「本当ですにゃ。ちゃんとプレートにFと書いてありますにゃ」
ミカちゃんがギルドプレートを見せると、フローゼ姫が一言唸って考え込みます。
ちゃんと前を見て歩かないと、危ないですよ!
遠足の様に皆で楽しみながらしばらく歩くと、正門の側にある冒険者ギルドの前に到着しました。
ここに来るのも何だか久しぶりですね。
「ここにゃ!」
ミカちゃんが先頭に立って、ウエスタンドアを押して中に入ります。
中に入ると、カウンターに見た事が無い、若い女性がいました。
「いらっしゃいませ! ようこそ冒険者ギルドへ……御用向きは依頼ですか? それとも登録ですか?」
何だか聞いた事がある台詞ですね。
ミカちゃんが苦笑いを浮かべながら、
「依頼を受けたいにゃ」
そう言うと……。
「少々お待ち下さい」
これは間違いありません。新人さんですね。奥の椅子に座って何か書き物をしているギルドマスターの確かイゼラードさんに声を掛けています。
「マスター、子供が依頼を受けたいって来ているんですが、帰って貰った方がいいですよね?」
ここまで聞こえていますよ!
ミカちゃんも、エリッサちゃんも、フローゼ姫でさえ苦笑いです。
イゼラードさんがチラリと顔を上げて、僕達を認めると――。
「よぉ! お譲ちゃんじゃねぇ~か!」
若い女性は、口をあんぐり開けて呆けています。
イゼラードさんが受付に駆け寄ってきたので、本題を告げます。
「今日は狩りに行くにゃ。依頼はあるかにゃ?」
ミカちゃんが尋ねると、ミカちゃんと一緒のメンバーを見たイゼラードさんの顔色が青くなります。
「なぁ、お譲ちゃん。まさかこの4人で狩りに行くのか?」
何でしょう……いつもべんらんめい口調なのに大人しいです。
「そうにゃ! 皆で行くにゃ!」
ミカちゃんの言葉を聞いたイゼラードさんは、王女様と子爵令嬢が同伴っていいのか? と小声でブツブツ言っています。
当然、その声は皆にも聞こえていて……。
「妾の事なら心配はいらんぞ!」
「私もミカさんと子猫ちゃんが付いていますから」
そう言って取り成します。
「王女様や子爵令嬢様がそう仰るなら……お譲ちゃん達には温い討伐対象しかいない事だしな」
そう言って、ランクC向けのオークとゴブリン、スライムの討伐依頼を持ってきました。
「この中で好きなものを選んでくれ。それからお譲ちゃんはギルドプレートの更新をしないとな……」
ギルドプレートの更新とか、まだ片手の数すら討伐していませんよ?
ミカちゃんも不思議に思ったようで、
「もうプレートを更新するにゃ?」
小首を傾げながら、イゼラードさんに伺いました。
「あぁ、普通はこんな短期間で更新はしないんだけどな、街の英雄をこのままFランクのままっていうのは問題が多くてな。特例で今日からお譲ちゃんは、猫ちゃんとのペアでCランクに昇格だ!」
本当はBランクでもいいらしいのですが、国から有事の際にA、Bランクだと召還される恐れがある為に、Cランクで留めたらしいです。
イゼラードさんがその話をミカちゃんにしていると、フローゼ姫の透き通る様な青い瞳が光ります。
「王女様、別に反意がある訳じゃありませんぜ? ただ……」
「分っておる。まだ子供のミカ殿を戦場に出そうとは妾も考えてはおらん」
イゼラードさんの話を途中で遮り、フローゼ姫の考えを述べていました。
駄目ですよ!
ミカちゃんは戦争なんかには行かせませんよ!
「みゃぁ~みゃぁ~!」
僕が苦情を伝えると、皆も雰囲気で気づいた様です。
「子猫ちゃん、分っておる。その様な場所には連れて行かぬ」
フローゼ姫が確約してくれたので、僕も大人しく引き下がります。
「にゃは、子猫ちゃん。有難うにゃ」
ミカちゃんは僕を抱き上げ、頭を撫でてくれました。
その後、僕達は、イゼラードさんからCランクのプレートを受け取り、オークとゴブリンの依頼を受けました。
さて、久しぶりの狩りです。
楽しみましょう!
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