EP.1-2 特異な存在

 中学校に入学すると、そこは小学校とは全くの、別次元の様な場所であった。


 私が通っていた中学校は、市内の3つの小学校から進学した子供が通う、市立の学校である。1クラス40人程度の規模で、男女比も6:4くらいだ。


 そんな学校で、私は、入学早々に登校を拒否した。



*****



 中学に進学し、私は似合わないセーラー服を身に纏っていた。1番小さいサイズを買ったはずなのに、裾も袖もつんつるてん。スカートの丈は、脛までしっかりあった。


 お母さんは、1つ大きいサイズのセーラー服を買ってみないかと提案してきたが、私は静かに首を横に振った。もう、薄々分かっていのだ。私はもう成長しないのだと。


 身長は変わらず、143cmのまま。誰がどう見ても、小学3、4年生にしか見えないだろう。私はセーラー服の袖に腕を通す度に、溜息をついていた。


「制服を着れば、中学生になれる訳でもないのね・・・」


 いくら鏡を見ても、妹がお姉ちゃんのセーラー服を着ているようにしか見えない。そんな風にしか、自分が見れないことが悔しくて、悲しかった。




 私は、変な人。人とは違う、変わった存在。そんな存在が、皆と一緒にいていいのだろうか。




 そんなことを考える必要がないことは分かっていた。頭では分かっていた。人間は皆平等であると、学校でさんざん教わってきた。けれど、いくら頭で分かっていても、心はそうは簡単に理解してくれなかった。自分は、自分なんだって、いくら人と違えど、私は私という一人の存在であると、どんなに頭で言い聞かせても、心はそれに追いついてくれなかった。その原因は、周りの環境が大きかった。


 まず、同じ小学校出身の子は、私のことを知っているから、最初は問題なかった。けれど、市内の他の2校から来た人達は、私を見る度、白い目を向けてきたのだ。自分よりもはるかに背の低い私に、指を指しては、こそこそと何かを言っている人がたくさん現れた。


 今までは、私のことをからかっていたのは、男子ばかりで、それも失礼なくらい、面と向かって思っていることを発していた。けれど、中学に上がると面と向かって言ってくる人が減ったものの、陰口が増えていった。


 私は、皆が私のことをどう思っているのかが分からなくなった。そして、どう思っているのかが、気になってはいけないと分かっていながら、気になって仕方なった。


 誰も、私と目を合わせてはくれない。まるで、目を合わせてはいけない存在のように、私は君の悪い存在になってしまっていた。


「何で、あの子あんなに小さいの?」


「きっと、病気なんじゃない?」


「可哀想に───」


 そう、私は、いつしか「可哀想な存在」になっていたのだ。




 中学に入学して1週間が経ったある日、新入生を対象にした健康診断が行われた。私を含める女子の皆は、体育で使うジャージに着替えると、保健室に向かう。体重や、座高、そして、身長が測られる。けれど、私が身長の計測器に乗った時、保健室の先生の動きが一瞬止まったように思えた。それまで、流れ作業のように、目盛りを読み上げていたのに、私の時は、頭に下ろす棒を持つ手を止めていたのだ。


 理由は分かっている。私の身長が他に比べて、うんと低いからだ。


 その翌日、私は保健室の先生に呼び出され、病院に行くことを勧められた。


 本当は行きたくなかった。何故なら、私は、自分のことを知るのが怖かったのだ。もし、病院で私の背が伸びないことが病気だと診断されれば、自分が本当に、他とは違う存在だと突きつけられることになる。


 背丈以外は他の人と何も変わりはしないのに、ただそれだけで、それが特別であるがために、私は特異な存在になってしまう。そして、それが原因で私はより一層疎外されるかもしれない。それが怖った。


 けれど、現実は私に味方などしてくれはしなかった。


 母に連れられ、渋々やって来た県内でも有名な総合病院で、私は医師にこう告げられた。


「あなたの背は、これ以上伸びることはないでしょう」


 そして、私は特異な存在になった。

 


 

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