EP.1 大人になれない女の子
EP.1-1 神様の呪い
私は、神様を信じていない。
神様が本当に存在するならば、きっと私のことを助けてくれたはずだ。なのに、神様は私の前には現れなかった。私がどんなに涙を流そうが、どんなに声を枯らして叫ぼうが、私の元に、神様は現れなかった。
私には、呪いが掛けられている。それも、とてもとても厄介な呪い。正確には、非常に珍しい病とからしいが、私には、それが呪いに思えて仕方ない。神様がいるならば、この呪いだって解いてくれるはずだ。それなのに、私はずっと呪われたまま。だから、私は神様を信じない。
私は、大人になれない。
それが、私に掛けられた呪い。どんなに、泣いても、叫んでも、解けることのない、厄介な呪い。
これは、私が『団長』と呼ばれるようになるまでの物語。
神に見放された、小さな妖精の物語。
*****
私が身体の異変に気が付いたのは、小学校3年生の時だった。成長期の友達は、日に日に背丈が伸びていくのに比べ、、私ときたら、日に日に、皆を見上げる様になっていた。
そうなると、どうなるのか。単純な話だ。私は、周りの皆からから、かわれるようになっていた。「チビ」や「ガキ」。自分たちだってそうだと言うのに、「おこちゃま」などと、指を刺され続けてきた。
それでも、私には友人がいた。小学校に入学した時からの大の仲良し、同じクラスになることも多かった女の子。その子の名前は、
「ねえねえ!ともだちにならない?」
太陽のように弾ける彼女の笑顔は、私が抱えていた不安や緊張を一瞬で消し去るほど、眩しいものだった。
「うん!」
それから私達は、ほとんどの時間を共有していた。偶然にも、彼女の家が私の家と近所ということもあり、登下校も一緒だった。たわいもない、無邪気な会話で、ただ笑い合えた日々。日に日に難しくなる学校の授業も、彼女とならやっていける気がしていた。私は決して頭がいい方ではないが、彼女はとても頭が良かった。国語の授業では、すらすらと文を読み、算数の授業では、難しい計算もいとも簡単に答えていた。私は、そんな彼女が羨ましくもあった。成績優秀、容姿端麗、おまけに社交性もある。小学校低学年ながら、完璧な人間とまで思えていた。
私には彼女のような頭脳も、容姿もありはしなかった。それでも、彼女が隣にいてくれることが嬉しかった。
月日流れ、私達は小学生3年になっていた。小学校での日々は、当時は永遠に続くのではないかと思えるほど、ゆっくりと流れていたが、思い返せば一瞬出来事のように思えてならない。
そう、私はこの時から、自分の身体の異変に気が付き始めていたのだ。私だけ時の流れがゆっくりなんじゃないかと思えるほどに、周りの皆は成長していった。勿論、友人である冨永千明ちゃんも例外ではない。入学当初は同じ目線であったはずの彼女が、いつしか、私を見下ろすまでに成長していた。
私は怖かった。私だけが取り残されているんじゃないかという恐怖と、私だけが皆と違うという疎外感が。普通なら、他の皆と同じ位の背丈になっているはずなのに、下級生と見間違えられる程の自分の容姿は、自分という存在がここにいてはならないという、自己否定の感情を生み出させていた。
しかし、私がどんなにその恐怖心を押し殺そうにも、幼さが故の言動が、私を更に苦しませた。
「何で、お前背伸びないの?」
そんなの、私が聞きたい。
「お前、全然背伸びねぇな!もしかし、ずっとこのままなんじゃね?」
やめてくれ。そんな事を言わないでくれ。
「お前、変だよな」
その言葉は、私の心臓をナイフで刺したような、そんな鋭い痛みを私に与えた。人と違うということは、自分の姿を見れば分かった。それでも、必死に自分は皆と同じだって言い聞かせながらきたのに、そんな私を一瞬で否定するような拒絶の言葉。お前と俺は、違うんだよ。一緒にしないでくれないか、当時、私に変だと言った男の子は、私をそんなふうに思っているのではないかと考え、呼吸が苦しくなった。
「大丈夫だよ!まだ、成長期が来てないだけだから!」
そんな私に、唯一優しい言葉を掛けてくれなのが、彼女だった。小学校6年生になっても、ほとんど背が伸びず、身長143cmで成長が成長が止まった私を、ずっと友人だと言ってくれた彼女。彼女の太陽のような笑顔は、この時だって、私の心の不安や緊張を消し去ってくれた。
彼女と一緒なら、これからもずっと一緒なら、私は生きていける。周りと違っていても、きっと彼女なら受け入れて、優しく笑って側にいてくれる。
私は、本気でそう考えていた。けれど、人は成長をする。そして、成長することで、変わってしまう。
私は、中学校に上がって間もなく、学校に行くことをやめた。
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