我が子よ

自分を嫌い、否定し続けるすべての人へ。

どうか、それでも心を安んじ、強健に生きていけますように……

本文

僕には欠陥がある。

でも他人にはほとんど、気づかれないものだろう。

これまで研究者達にも気づかれなかったのだから。


一定の検査を終え、僕らアンドロイドは晴れて売り出された。

そして、それぞれ買われたのだ。

僕も、とある主人のもとにやってきた機械の一人。この家には既に三年仕える先輩がいた。


それで、少しずつ気づき始めたんだ。

僕は旧型の先輩よりも出来が悪いことに。

前々から思ってはいたけど、これほどまでかと思い知らされた。

先輩は卒無く仕事をこなすのに、僕ときたら時間がかかる上に、プレジャーがかかると処理できなくなる。失敗をして迷惑をかけることもしばしば。


そもそも、これは今始まったことではなかった。試験や検査でもぎりぎりか一度落ちて再試験の後に、クリアしたこともしばしばあったのを思い出す。

不良品とまでは行かない、それでも何か違うそんな中途半端さだった。

直し所も特別見いだせず、規定されたものとりあえず行えるから印を押され、外へと出された。


だけどさ。

問題なしと言われても、本当の僕は、主人の期待通り満足にはこなして差し上げられない。

命じられたことは、こなしましょう。ですが、マニュアルがなければ生きられないのです。旧型の先輩が、言われないでも主人のために率先してできるのに、僕は何をすれば主人を喜ばせられるのか、分からない。

人はそれを臨機応変と呼ぶらしい。


心なんていらないのに。

どうしてこんなが、楽にできない中途半端なものになってしまったのでしょう?

やる前から、もう今の僕は自分で出来ないと決めつけてしまう。

今からでもプログラムを書き換えてくれればいいのに。

心を停止させ、命令のもとに僕は動く。

そうすれば、自分の愚かさを考えずに、手足を動かせるはず。

その方がどのくらい楽だろう。



他の一般の数値と比べ、何か足りない。

だけど廃品になるほどでもない、何処に行こうともあぶられる、そんな存在。

ねぇ、いったい僕は何処へ行けば良いんだ?

期待通りにしてあげられない、重荷と迷惑をかける僕なんて居ない方がましで、愛される資格なんてないなんだよ。

僕自身さえ、こんな自分なんて愛せない。


それでも、自分の壊し方が分からなくて、今日もただ息をして、生を受ける。



いくら心を停止させようとも、無理だった。

殻に閉じこもろうとも、存在を消そうとしても、自分を否定し続けても。


決まって朝は来て、

もう堕ちることは無いと目処をつけたとしても、心の闇は奈落のように永遠に堕ちていく。





だけど主人は言った。


「どこか痛いところは無いか?」と。

「お前は大切な子供だ」と。


責めることなく、何度も何度も。

僕はその言葉を、受け止めきれずにいた。

愛されるほどに、泣きたくなる。苦しくなる。

だってさ、僕は愛されるほどのものではないから。


僕のどこに愛せる要素があるのだろう。

どこにもないじゃないか。

主人に返せるものなど、何もないのに。

愛されるほどに、自分で否定をする。



立ち尽くしていると、先輩がつぶやいた。

「じゃ、あなたの言う"愛される条件"ってなに?」


何かができて、できなかったら愛されないの?

それは誰が決めるの?


「誰を愛するか、決めるのは主人です」



そうだ。


それを決めるのは僕ではない。

こんな僕を愛さないでと泣き叫んでも、主人は僕を大切な息子だと言い続ける。

それを止めることは、僕にはできない領域なんだ。



そして、主人は言った。


「お前の弱さは、研究所にいた時から……造られた時から知っているよ」


と、笑う。


「なおさら、どうして僕を? 優秀な奴は他にもっと居るのに、出来損ないの僕を……」

「お前が、堪らなく愛おしく見えたから」






それから僕は何度も言い聞かせた。

いくら拒もうとも、苦しくなっても、確かに僕を愛している主人が居ることを。


そして、泣き叫ぼうとも自分と上手く付き合って生きていかなければならないことを。


出来ないことは、確かに多い。

それでもーー


「お前にも、人には負けない強みがきっとある。それを見つけよう」




そう言って、主人は僕が自分を肯定するのをひたすらに待っていた。


僕には大きすぎるこの世界で。

世の平均の高さに、押しつぶされようとも。

それでも、世界は回る。


必要とされない世の中で、僕の手を握るのが、僕の絶対的存在なら、

その人が見捨てずに居てくれるなら。

これ以上の味方も、望みさえも他にない。



だから、どうか。

こんな僕でも、顔を上げて生きていけますように。






「主人、愛してくれてありがとう……、ございます」




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