第十七話 あたたかな夜明け
……ぷに、と何かに頬をつつかれる感触で、俺は目を覚ます。
重い瞼をこじ開けると、既に朝の陽射しが部屋を照らしていて。
同じ布団の下、裸のゼルスが、俺の頬をつついてニヤニヤと微笑んでいた。
「おっ……目覚めおったか。そうやってずっと寝ておれば、貴様も多少は可愛げがあるというものじゃが」
「……お前に言われたかねえよ」
手で自分の顔を軽く叩いて、眠気を覚ます。
「いつから起きてた? ……ふわ……最近は毎日ラクシャルが起こしてくれてたから、寝坊するクセがついてる。直さないとな……」
「余も、つい先ほど目覚めたばかりじゃ。それにしても……昨日はよくもやってくれたのう。余が人間なら、今日一日動けなくなっとるところじゃぞ」
足腰立たなくなるまで交わったことを言っているらしい。
俺も最後の方は無我夢中だったので、あまりハッキリと覚えていないが……。
「それだけお前の体が気持ちよかったってことだ。誇っていいぞ」
「くたばれ」
昨日のムードはどこへやら、いつもの調子でゼルスは吐き捨てた。
俺の不満を表情から察したのか、ゼルスはジト目で睨んで釘を刺してくる。
「よいか、ヴァイン。余は、ラクシャルのように貴様を甘やかすつもりはないぞ。貴様を叱る役がいなくなってしまうからの」
昨晩、俺に好き放題甘えまくっていた奴のセリフではないような気がしたが、そこをツッコむと怒られそうなので流しておく。
「要するに、今まで通りがいいってことか?」
「そういうことじゃ……もっとも、余が貴様に甘えたい時は、遠慮なく甘えさせてもらうとするがの」
「何だそりゃ……ずるくねえか?」
「貴様が言い出したことじゃ。責任は取ってもらうぞ」
ふふん、と得意気に笑うゼルス。
そう言われると、俺としては返す言葉がないので、話をそらすしかない。
「……で、結局、お前に力を返すかどうかって話はどうする?」
「ああ……今は返さずともよい。貴様に預けておく」
それは意外な返事だった。
今の状況で、断る理由はないと思っていたんだが……。
「考えてみれば、貴様に力を奪われてからというもの、余は鍛錬を怠けておった。今の状態で鍛錬しておいて、いざという時には貴様から力を返してもらえば、以前より強くなれるじゃろう?」
「……なるほど。そういう考え方もあるか」
普段から重りなどのハンディキャップを自分に課しておいて、戦闘時にはそれを外して戦う、というような鍛錬法はよく見る。少年漫画とかで。
それで俺は納得したのだが、ゼルスは顔をそむけてぼそりと付け加えた。
「……それに、余が弱いままじゃったら、その間は貴様を頼れるからの……」
「そっちが本音かよ」
「んなっ!? こ、こういう時は聞こえなかったフリをするのが礼儀じゃぞ、貴様!」
「どこの世界の礼儀だよ……」
顔を真っ赤にして怒るゼルスに、だったら言わなきゃいいのに、と呆れる。
と……その時突然、俺たちがかぶっていた布団の中から影が飛び出し、背後からゼルスの首に腕を回して――。
「ゼルス様、おめでとうございまぁーーすっ♪」
むぎゅうううっ、と思いっきり抱きしめた。
……言うまでもなく、ラクシャルだった。しかも、全裸の。
「ひょわあぁっ!? ラクシャルっ? ど、どうしてここにおる!?」
「お二人がお目覚めになる前に起こしに来たのですが、裸で寄り添って気持ちよさそうに眠っていらしたので……邪魔にならないように、混ざってみたいと……」
「んな、なあっ!? で、では、今の会話も聞いておったということか?」
「はい、ゼルス様! これからはもう遠慮なく、私とヴァイン様に頼って、甘えてください! もちろん夜も、ヴァイン様と一緒にたくさん甘やかして差し上げ――」
「あああああっ!! 言うな、言うなぁぁっ!!」
顔を赤らめて悶えるゼルスと、それを笑顔で後ろから抱きしめるラクシャル。
「なんか楽しそうだな。俺も混ぜろ」
「こ、こらっ、そんなにくっつくでない……って!? な、なんで朝っぱらからこんなに大きくしておるのじゃ、この変態が!!」
「ゼルス様、それは違います。男の方は朝には生理現象で……」
賑やかになってきた俺たちのやり取りを、不意に遮るようなノックが響いた。
返事をする間もなくドアが開けられ、タマラとキアがなだれ込んでくる。
「ヴァインくん、ここにいる!? 部屋に姿が見えなかったから……って、わあっ!? な、なんで三人で、裸で、ベッドで……!?」
勢いよく飛び込んできたタマラは、状況の理解が追いつかず尻餅をついてしまう。
タマラに代わって、この状況でも動じないキアが前に出てきた。
「ヴァイン、大変。今は交尾してる場合じゃない」
「今日はまだしてねえよ。大変って、何があったんだ?」
タマラとキアが血相を変えて飛び込んでくるほどの事件――となると、今の俺には、ひとつしか思い浮かばなかった。
そして、その予感は的中していた。
「魔王リジールが接近してる。緊急会議を開くから、すぐに来てくれって」
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