特別編 奴隷のお世話

 シーフェンの街を発ってから、十日ほども過ぎただろうか。

 半ば観光気分で徒歩の旅を楽しんでいた俺たちだったが、いよいよ、大陸を南北に隔てる山脈の麓までやってきた。


 ここから先は山越えになる。

 今日はもう昼を回っていることもあり、麓にキャンプを張って、明日の朝一で出発することにした。


 テキパキとテントを張りながら、タマラが授業のような口調で喋りだす。


「あの山一帯はツェッド山脈っていうんだよ。山脈を越えたらノースモア王国に続いてるんだけど、去年地滑りで山道が塞がってからは、とても往来できない状態だったんだ。あたしたちがシーフェンを出発する直前に、やっと復旧したみたいだよ」


「復旧ねえ……」


 エナは、俺のステータスが一定値を超えたからフラグが立って、大陸の北側へ行けるようになったのだと言っていた。

 だとしたら、もし俺のステータスが低いままだったら、その山道は永遠に塞がっていたんだろうか?

 ……さすがにそんなことはないと思いたいが。


「それで、タマラ。そのノースモア王国ってのはどんな国なんだ?」


「うーん……あたしも行ったことないんだけど、山脈のこっち側より少し寒いらしいよ? 凍えるほどじゃないはずだから、だいじょうぶだいじょうぶ」


 楽観的に笑うタマラ。

 その意見には何だか嫌な予感がするが、俺も北部のことは知らないので何も言えない。


「ゼルスはどうだ? 何か知ってるか?」


 話を振ると、そのへんから拾ってきた丸太を【斬糸】で薪のサイズまで切り分けていたゼルスが、手を止めてこちらを見る。


「余もあまり詳しくは知らんな。ここより寒いのは確かじゃが」


「なんだ、その既出でしかないテキトーな情報は。魔族を統べる魔帝ともあろうものがそんな理解力でいいのか」


「やかましい、愚物が。余がいちいち世界中を見て回っておったら、それこそ配下の管理ができなくなるじゃろうが。基本的には、ある程度の実力を持つ配下を幹部として配置し、その自治に任せておる。現地に着いたらその者に訊けばいいじゃろ」


 俺の文句に、苛立たしげに薪を細切れにしながら噛みついてくるゼルス。

 つい難癖をつけてしまったが、その言いようからすると、大陸全土に配下を散らしているらしい。

 どの程度まで支配が及んでいるのかは知らないが、活動地域の広さだけをとっても、さすがは魔帝と言うほかないだろう。


「ラクシャルは? どうだ?」


 最後にラクシャルにも訊ねてみる――が。


 野宿の準備を進める他のふたりと違い、ラクシャルはボーっと虚空を見つめていた。

 聞こえなかったのかと思い、もう一度訪ねてみる。


「ラクシャル? おーい?」


「――はっ!? も、申し訳ありませんヴァイン様っ! 何でしょうか?」


 ラクシャルは夢から醒めたかのようにハッとして、早口に聞き返してきた。

 熱でも持っているのか、その顔が赤い。


「お前が俺の声を聞き逃すなんて珍しいな。風邪でもひいたんじゃないか?」


 俺は何の気なしに、ラクシャルの前髪をかき上げ、額に触れる。

 ラクシャルは「ひゃうっ」と短い悲鳴を漏らし、ますます顔を真っ赤にした。


「ヴァ、ヴァイン様……! 今触れられたら、私は……私は……っ」


 ラクシャルは何かをこらえるように目を伏せ、太腿をぎゅっと閉じた。


「み、水を汲んできます……! 失礼します、ヴァイン様!」


 一歩たじろいで頭を下げると、ラクシャルは逃げるように、近くの川の方へと走っていった。

 止める間もなく、俺はその背を見送るしかなかった。


 一部始終を見ていたゼルスが、驚きに目を丸くしてタマラの袖を引っ張る。


「お……おおおっ!? 見よタマラ、ラクシャルがヴァインから逃げたぞ! もしやラクシャルの奴、ヴァインを嫌いになったのか? とうとう正気に戻ったのか!?」


「え、えーっ……? あたしはヴァインくんにベッタリなラクシャルちゃんしか知らないから、正気って言われても違和感しかないけど……でも、どうしたんだろう? 本当にどこか悪いのかな?」


 ゼルスは目を輝かせ、タマラは心配そうにそれぞれの見解を口にするが、俺が受けた印象はそのどちらとも異なっていた。

 ラクシャルのあの様子、もしかすると……。


「……ラクシャルの奴、水汲みって言っておいて桶を忘れていったな。ちょっと追いかけて渡してくる」


 俺は一応の口実に、荷物から桶を引っ張り出しながら言う。


「早よう戻ってくるのじゃぞ? 水がないと料理の支度もできぬからな」


「ああ」


 ゼルスの言葉に生返事をしつつ、ラクシャルの後を追った。




 川のほとりに近づくと、ラクシャルの気配がした。

 押し殺した喘ぎ声と、荒い息遣い。

 くちゅくちゅと、何か粘度の高いものをかき回すような水音。


「はぁ……あ、ぁっ……ん、ぁっ……ヴァイン様……ヴァイン様ぁぁ……」


 俺はできるだけ物音を立てないように近づき、ラクシャルの姿を捉えた。

 ラクシャルは木を背にして座り込み、自らの下半身を覆う僅かな布地の中に指を突っ込んで、一心不乱に股間をまさぐっている。

 漏れ聞こえる甘い声から察するに、多少の快感を得ているようだが、それはどこか物足りない切なさを感じさせる声でもあった。


 やはり、予想通りだった。

 ラクシャルは今、欲求不満の状態にあるのだ。


「……んう、ううっ……足りない、です……ヴァイン様にしてもらえた時は、もっと、もっと……すごく、良かった、のにっ……ぐすっ、ううっ……」


 とうとう泣き言を漏らし始めるラクシャル。

 俺は回り込むように背後から近づき、その肩を軽く叩いてやった。


「ふぇ? ……ヴァ、ヴァイン様……っ!?」


 ラクシャルが慌てて立ち上がると、閉ざされた両脚の付け根から、にぢゅっ、と水音が響いた。

 真っ白な太腿を、とろりと濃厚な雫がいくつもの筋に分かれて伝い落ちる。


「……ううぅっ……も、申し訳ありません、ヴァイン様……私、その……はしたないところを……」


 火が出そうなほど赤くなった顔を伏せ、謝るラクシャル。

 俺はラクシャルの顎を指先で持ち上げて、強引に顔を上げさせた。

 むしろ詫びるべきは俺の方だ。


「悪かった、ラクシャル。もう街を出て十日以上経つんだもんな」


 俺としても色々と溜まってはいるのだが、他の2人(特にゼルス)の目があることを考えて、目的地に着くまでは我慢するつもりだった。


 しかし、ラクシャルは俺の手で初めて性に目覚めたばかりなのだ。

 それほどの長期間、我慢できるわけがない。


 奴隷化テイムした者の責任として、俺はもっとラクシャルの状態に気を配らねばならないだろう。

 自分で処理させているようでは、主人として失格だ。


「今、お前の欲を満たしてやる」


 ラクシャルの顎に触れていた手を下ろし、すべすべとしたラクシャルの腹に触れる。

 あっ、と小さく漏れたラクシャルの喘ぎを聞きながら、そのまま布地の下へと手を差し込み、ぐしょ濡れの股間を撫でさすった。


「あっ! ああぁぁぁ……っ!!」


 待ち焦がれていた刺激に、ラクシャルは腰をビクンと跳ねさせ、軽く達してしまう。

 すがりつくように、ラクシャルの細指が俺の手に絡む。


「は、ぁぁっ……もっと……もっと、擦ってください……欲しかったんです、ヴァイン様の指……っ、んっ、んんんぅっ!! 自分の、と、全然、違……っふ、ううううっ!!」


 ラクシャルは俺の手を掴んだまま腰を前後に動かし、その部分を俺の指に擦りつけて、快感を貪る。

 俺はラクシャルの好きにさせてやりながら、空いている方の手で自分のズボンを下ろし、硬くいきり立つモノを露わにした。


「欲しいのは、俺の指だけか?」


「あ……っ♪ 違いますっ。ヴァイン様のそれが……硬くて太いのが、欲しいですっ……」


 食い入るように俺の下腹部を見つめて、ラクシャルは自ら下半身の服をずり下ろした。

 前回交わった時はお互い裸だったが、今度はお互い半脱ぎの状態だ。


 ラクシャルを抱きしめながら、閉じた太腿の間に俺自身を挿し入れる。

 スリットをなぞるように先端を擦りつけると、ラクシャルは唇を引き結んで嬌声を押し殺した。


「んんっ♪ ヴァイン様……あ、ぁ、あぁっ♪」


 互いの局部を擦り合わせる、いわゆる素股だが、これはこれで中に挿れるのとは違った刺激がある。

 ラクシャルの太腿は、鍛えられているのに肉付きが良く、素肌はきめ細やかですべすべだ。

 擦りつけているだけでも、背筋が震えるほど気持ちがいい。


「ふううっ♪ あっ、イ、イっちゃいますっ、ヴァイン、さまっ……んーーっ!! あっ、あーーーっ♪」


 ラクシャルはいつも通り、少し擦られるだけですぐ絶頂に達してしまうが、その度に太腿をきつく閉じて、俺のモノをぎゅうううっと圧迫してくる。

 隙間なく締め上げてくるような強い圧迫に、俺も絶頂を堪えることができなかった。


「っ、ラクシャル、イくぞ……ぐ、ううぅっ!!」


 ラクシャルの脚に包まれたまま、どぷどぷっと欲望の塊を撒き散らす。

 それと同時に、ラクシャルもまた背を反らせ、高く喘いだ。


「ふぁぁぁっ♪ あ、熱いっ……ヴァイン様のが、いっぱい出て……っ、は、ぁぁ……」


 ラクシャルは自分の下半身を見下ろして、快感に蕩けた、しかしまだどこか切なげな声を漏らす。


「はぁっ……ん……もったいない、ですっ……ヴァイン様の……私の中で、受け止めたいのに……」


 とろんとした目で俺を見上げ、大胆なことを言い放つ。

 ラクシャルは木に背を預けたまま、柔軟に自らの片脚を大きく上げて、股ぐらを露わにした。


「こっちにも……注いで、くださいっ……」


 考えるまでもない。

 俺は再びラクシャルを抱きしめると、その飢えを満たしてやるべく、行動に移った。




   # # #




「はぁ……す……少し、頑張りすぎたな……」


 事を終えると、激しすぎる交わりの後の虚脱感が全身にのしかかってくる。

 ラクシャルも俺も、全身すっかり汗だくだ。


「ふぁぁ……んっ……ふふっ♪ でも、とっても気持ちよかったです……♪ ありがとうございます、ヴァイン様……私は奴隷思いのご主人様を持てて、本当に幸せ者ですっ」


 こちらに抱きつき、頬ずりをして甘えてくるラクシャル。

 どうやらこれで、欲求不満は解消できたようだ。


 有事の際に支障が出ては困るし、これからは、こまめにラクシャルの欲望を発散させてやった方がいいだろう。

 いつかゼルスやタマラに現場を見られるかもしれないが、その時は仕方ない。


「それにしても、汗かいちまったな。川もあることだし、少し水浴びでもしていくか?」


「いいですね。……あれ? 私たち、何のために川まで来たんでしたっけ?」


「あっ」




 水を汲んでテントに戻ると、予想通り、痺れを切らしたゼルスに「遅い!」と文句を言われることになった。

 奴隷の世話はなかなか大変だ。

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