第十一話 まどろみの中で


 眠りは深く、まるで泥の中を泳いでいるかのように意識が鈍い。

 わずかな月明かりで照らされた天井が、おぼろげに見える。


 俺はどこにいるんだっけ……。

 そうだ、思い出した。ここは学生寮の自室だ。


 ――もぞ。もぞ。


 ふと、何かに体をまさぐられる感触がある。

 痺れたような手を動かし、シーツをめくってみた。



「……あっ。お目覚めですか、ヴァイン様……?」



 ……シーツの内側に、全裸のラクシャルがいた。

 しかも、俺の服に手をかけ、脱がそうとしている。


 …………こんなところにラクシャルがいるわけがない。

 ということは、夢だ。

 俺はシーツをかけ直し、目を閉じた。


「あ、あれ? ヴァイン様ー?」


「……俺は眠いんだ。静かにしろ……」


「はい……静かにしていれば、続けてもいいでしょうか……?」


 続ける……?

 何のことかと思ったが、何でも良かった。ひたすらに眠い。


「好きにしろ……」


 俺はたぶん、そう答えたと思う。

 意識は混濁していた。



 ……ふと、何か温かいものに股間を握られた感じがした。

 握られたといっても、強い感触ではない。

 おっかなびっくり、その部分をくすぐられるような、撫で回されるような……そんな感触だ。


 やがて要領を掴んだように、それを握った何かが上下し始める。

 ……気持ちがいい。


「あっ……すごい。硬くなってきました……想像してた以上に、たくましいです……」


 嬉しそうなラクシャルの声が聞こえた気がする。

 それに伴って、股間への刺激も徐々に速く、激しいものに変化してくる。


 シーツが膨らんで捲れ、もう一度、ひょっこりとラクシャルが顔を出した。

 俺は起きているのか眠っているのかわからないような頭で、それを見ている。


「……痛くないですか? 私、上手にできてますか? ヴァイン様……」


 こちらの顔を覗き込んで、俺の上でラクシャルが身をよじらせる。

 俺もいつの間にか、服を全て脱がされていた。

 胸板にのしかかった柔らかな弾力が、むにゅりと胸板を押してきて、ただそれだけで胸の内側がぞくりと震える。


 俺はうとうとしながら頷き返した。

 こんな気持ちのいい夢を見るのは初めてだ。


「……よかった……あっ。ふふっ、本当みたいですね……♪」


 ラクシャルは下の方に一度視線をやって、嬉しそうに、妖艶に微笑んだ。

 細い指先が絡むたび、にぢゅ、ぬちゅ、と粘着質な音が立ち始めている。


 快感が俺の体を震わせ、熱くする。

 熱に浮かされたように、頭がぼうっとしてきた。


「私、頑張りますから……味見も、させてくださいね……」


 そう囁いて、ラクシャルは再度シーツに潜り込む。

 味見とは何のことだろう、と考えた時……。


「……はむ、っ♪」


 ぬるりとした感触に、先端を咥え込まれた。

 熱い粘膜が、いやらしい音を立てて吸いついてくる。

 ちろちろと蠢く舌が、こちらの弱点を探るように這いまわり、快感を高めていく。


「んっ……ちゅぷっ、ちゅっ、れるっ……ぷぁ。はぁ、おいひい……♪」


 先端を強く吸われながら、根元の辺りをしごかれる。

 貪るような激しい愛撫を受けて、無意識に腰が浮いてきた。


「もっふぉ、くらふぁいっ……んんっ、んっく、ちゅっ、ちゅうううっ……」


 限界が近い。

 このまま出したら、起きた時には絶対に夢※している気がする。あまりにも感覚がリアルすぎるのだ。

 だが、こんな快感を前に我慢できるはずもなく――。


 次の瞬間、欲望が弾けた。


「――んぷっ!? んっ、んくっ、こきゅ、んっ、こくっ……♪」


 突如噴き出した白※液を、ラクシャルは咥内で受け止める。

 嬉しそうに飲み下す声が、俺の耳にまで届いてくる。

 俺は久方ぶりの放出感に酔いしれ、ただラクシャルに身を任せた。


「ん……っ。残しちゃダメ、れふ……れろ、ちゅっ……もったいない、です……」


 やがて絶頂の波が過ぎ去ると、こちらの形をなぞるように丁寧に舌が這わされ、欲望の残滓を綺麗に舐め取っていく。

 達した直後の敏感なモノを舐められるのは、何とも言えないむずがゆさがあったが、それも含めて未知の快感があった。


「ヴァイン様……」


 ラクシャルが膝立ちになって身を起こし、シーツを跳ね上げた。

 月光に浮かぶラクシャルの体は、興奮からか赤みがさして桜色に染まっていた。蕩けた瞳に宿る光も、情欲を湛えているようだ。


「最後まで、しましょう……? 私、ヴァイン様と……ひとつに……っ」


 ラクシャルが腰を落とすと、未だ硬いままのモノの裏側と、ラクシャルのそこがぬちゃりと擦れ合った。

 そのまま自分を慰めるように、ラクシャルは何度も腰を前後に揺らす。


「あっ♪ あぁっ♪ ヴァイン様、っ、ヴァイン、様ぁ……!」


 ラクシャルが前後に動くたび、俺も腰が浮きそうな快感を味わわされる。

 もう我慢の限界だった。

 ラクシャルの腕を引き、体勢を入れ替えるようにして下に組み敷く。


「あっ……」


 俺を見上げるラクシャルの目が、期待と喜びに揺れる。

 迷いはなかった。今見ているものが夢でも現実でも、同じことをするだけだ。


 欲望のまま、ゆっくりと腰を突き出した。




   # # #




「はぁ……っ、愛してます……ヴァイン様。心から愛してます……」


 事を終えた後、ラクシャルは甘えるように抱きついてきながら、うわごとのように何度も「愛してます」と繰り返した。

 俺は言葉の代わりに、ラクシャルを抱きしめ返すことで返事をする。


 ラクシャルの温もりを全身で感じるうちに、体は急速に眠りへと落ちていった。

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