第六話 蜘蛛の糸の使い方


「余を、倒す……? 貴様ごときがか? 思い上がるなよ、人間風情が! ラクシャルの魔力を得た程度で、余に勝てると思っているのか!」


「ああ。勝つよ」


 純粋な戦闘力で言えば、今の俺ではゼルスに一歩及ばないだろう。

 しかし、俺が奴よりも優れていることがある。それは――。


「【サイクロン】!!」


 俺はレベル7の風魔法を唱える。

 目の前に竜巻が現れ、張り巡らされた蜘蛛の糸を風の渦へと巻きこんでいく。


 だが、俺の魔法の威力では弛んだ糸を揺さぶるのが精いっぱいで、蜘蛛の巣を千切ることはできない。

 ゼルスはわずかに顔をしかめたが、次の瞬間には余裕の笑みを浮かべていた。


「無駄なことを! その程度の魔法で、余の糸を引きちぎれるとでも……ん? い、いない!? 貴様、どこに消えた!?」


 魔法の発動に気を取られ、俺の姿を見失ったゼルスが狼狽の声をあげる。

 俺はその様を高みから見下ろし、次の魔法を唱えた。


「【エアロ・ウィング】!!」


 空気の翼を形成し、俺の体は空中で静止する。

 詠唱の声でこちらに気づいたゼルスが、驚きに目を見開いた。


「き……貴様、自分の起こした竜巻に乗って……!?」


「当たり」


 俺は竜巻を発生させると同時に、自らその竜巻に身を任せ、宙高く舞い上がったのだ。

 一歩間違えばそのまま蜘蛛の巣に巻き込まれかねないところだが、ある程度近づいたタイミングで【エアロ・ウィング】を使えば、風の翼で自在に移動することができる。


「風魔法の応用を知らないようだな。能力では勝てなくても、実戦経験なら俺の方が上というわけだ」


「ふ……ふざけるな! 【ライトニング・ボル……】」


「遅い」


 俺は疾風のように宙を滑り、ゼルスに肉薄する。

 ゼルスは糸から飛び降りて逃れようとするが、もう遅い。


「俺の勝ちだ! 【クロスアウト・セイバー】ッ!!」


 眼下のゼルスに向かって、手刀を振り下ろす。

 ゼルスの纏う服やマントに光の亀裂が走り、そして──弾ける。


 俺とゼルスが互いに着地した時、既にゼルスは一糸まとわぬ姿となっていた。


「……? 何だ、今の技は? 余の体には、傷ひと……つ……」


 自分の体を見下ろし、硬直するゼルス。

 見守る俺。


 やがてゼルスはゆっくりとこちらへ振り向き…………吼えた。



「……ヴァァァイィィンンンッ!!」



【システム】ゼルスは状態異常「怒り(極大)」になった!


 例のシステムメッセージが視界の端に浮かぶ。

 怒りというと、攻撃力が上がる代わりに他の全ての能力が下がる状態異常だ。

 これだけ聞くと良さそうにも思えるが、命中率と回避率も大きく下がるので、紛れもなくバッドステータスと言えよう。


「貴様ァ!! ラクシャルのみならず、余まで辱めようというのか! 許さん、断じて許さんぞ! 殺してやる!!」


 鬼のように激怒しながら、ゼルスは殴りかかってきた。

 動きは早いが、所詮大振りのパンチだ。

 俺は努めて冷静に拳をかわして、ゼルスの懐にもぐり込む。


「まあ、落ち着け。──ほいっと」


「ひにゃっ!?」


 太股の内側をさわさわと撫で回してやると、ゼルスはがっくりと膝を折った。

 さすがは性技カンストの一撃。効果は抜群だ。


「それでは、お楽しみタイムだ」


「く、くるなぁ……しねぇっ……」


 ゼルスは諦め悪く、俺の胸を拳で叩いてくる。

 快感で脱力させているとはいえ、ちょっと痛い。


「往生際の悪い女だ。それに、さっきから『殺す』だの『死ね』だの、言葉遣いも悪すぎるんじゃないか?」


「だ、だまれっ……きたない手で、余にさわるなぁ……」


「ふむ。こいつは……お仕置きが必要だな」


 俺はその場に正座すると、ゼルスをうつ伏せに押さえつけた。

 ゼルスは俺の膝の上で四つん這いになり、尻を高く上げる姿勢になる。


「な、何をする気──」



 バシィィンッ!



「きゃあああんっ!?」


 強烈な音を立てて、俺の手のひらがゼルスの尻を打ち据えた。

 真っ白なゼルスの柔尻に、紅葉のように真っ赤な手形が咲く。


「やめろ、何の真似……痛ぁっ! 余にこんな……きゃふっ!」


「尊大な魔帝様に、愛の折檻を加えてやってんだよ。ほら、まだ行くぞ……っと!」


 ゼルスの抗議にも容赦せず、鞭を打つように平手で尻を叩き続ける。


「や、やめ、ろ……きゃうっ! こ、こんな、屈辱……ひぐうっ!」


 最初は真っ白だった尻が全体的に赤みを帯び、ぷっくりと腫れて一回り膨らんできた。

 肉体以上に精神的なダメージが大きいのか、ゼルスは急激に抵抗の意思を失い、抗議も声だけになっていく。

 そしてその声にも、徐々に変化が表れ始めていた。


「きゃん! はぁ、はぁ……っ……ふああっ♪ や、やめ……たたくの、待っ……んんんぅっ♪」


 尻を平手で打つたび、ゼルスの声に甘いものが混ざってくる。

 半分、試すつもりでやってみたのだが、この反応を見る限り、どうやら尻を叩くのも性技のうちに入っているらしい。


「おい、ゼルス。やめてほしかったら、頼み方ってものがあるだろう。『やめてください、お願いします』くらいのことを言えれば、許してやってもいいんだぞ」


「だ、誰が……貴様などに、そのようなことを……」


 ──パァンッ!!


「きゅぅぅぅんっ♪」


 背を反らせて、ゼルスは押し殺した声を漏らす。

 もう完全に、痛みより快楽の方が勝っているようだ。


「まったく、どうしようもない魔帝サマだな。もっと叩かれたいから謝らないのか?」


「そ……そんなわけ、あるものか……」


「へえ。お前の股ぐらがどんなコトになってるか、直視しながらでも同じセリフが吐けるかねえ?」


「股、ぐら……? って……!? い、いやぁぁぁっ!?」


 自分の下半身を見下ろして、ようやく気がついたのか、ゼルスは転がるように俺から逃れた。

 しかしやはり体に力が入らないようで、尻を高く上げた姿勢から動けなくなる。

 大事な部分を隠すように擦り合わされたゼルスの太股から、にぢゅっ、と粘度の高い水音が響いた。


「それで、どうなんだ? 認める気になったか、ゼルス閣下?」


「み、認めるわけがなかろう、変態めっ! 失せろ! こっちに来るなぁっ!」


「強情な奴だな。何か、もう一押し……ん?」


 ふと、逃げたゼルスの向こうに、一本の糸が渡っているのが目についた。

 粘り気はないが強度の高い【剛糸】という糸だ。

 リングロープのように宙を繋ぐその糸を、しばし眺め……俺は、いいことを思いついた。

 即座に実行すべく、ゼルスの体をひょいと抱き上げる。


「ひゃっ!? き、貴様、今度は何をする気だ! 下ろせ、下ろさぬかぁっ!」


「慌てなくても、すぐ下ろしてやるよ。そう、ら……っと」


 抱き上げたゼルスの脚を開かせ、下ろしてやった。

 空中の【剛糸】に、またがらせるようにして。


「――っんんんんん!?」


 自分の全体重を一本の糸に受け止められ、股間に食い込まされて、ゼルスは唇を噛んで喘ぎ声を漏らした。

 反応を見る限り、今の行為にも【性技】の補正効果は乗っているようだ。


「どうだ、ゼルス? ご自慢の糸の座り心地は。さすがに自慢するだけあって頑丈だな、これだけ揺らしても切れる気配がない」


 糸を掴み、ぐいぐいと上下に揺さぶってやる。

 ゼルスの小柄な体が何度も宙に浮き、落ちる。その度に、ゼルスの自重で糸が股間へと食い込む。


「ひっ♪ あっ、あ、ぁっ! やめ、やめぇぇ、っ……!」


「よく聞こえないな」


「き、さまっ、ころ、すっ! ころ、して……んんくっ!」


「まだ言うか。もう少しお仕置きが必要らしいな」


 五指を広げた手で、再びゼルスの尻を打つ。


 パシィィィンッ!!


「んはぁああああっ♪」


 今までで一番大きく、快楽に蕩けた声が、ゼルスの口からほとばしった。

 何事かと観察してみると、どうやら尻を叩いた衝撃で腰が前に押し出され、股間を糸に強くこすりつけてしまったらしい。


 今の一撃で、ゼルスは悪態をつく余裕もなくしたらしく、かすれた速い呼吸を繰り返すばかりになっている。もう限界だろう。


「そろそろ楽にしてやる。俺のものになれ、ゼルス」


 宣言とともに、最後の一発……渾身の平手で、ゼルスの尻を打った。


「ふぁああああああぁぁっ!!」


 ゼルスはえび反りになって、あられもない声をあげた。


 ほどなく全身から力が抜けてしまい、ピンと張ったままの糸に体を預ける形で倒れる。

 柳のように垂れ下がった細い脚から、泡立った半透明の液体が、ぼたぼたととめどなく滴り落ちていた。


【システム】ゼルスは絶頂(大)を迎えた!

【システム】ゼルスのEPが0になった! 一定時間行動不能!

【システム】ゼルスのテイムに成功! ゼルスがあなたの仲間に加わりました!


「……よし」


 俺は表示されたログを確かめて、しっかりと頷いた。

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