紀ノ章/カナメノショウ

紀ノ章 マエ書き

 最初の話を、知っているか。

 何に? 当然、「世界」の組成についてである。どうしてそれはつくられた。どうして、そこに在る。なぜ、その少女を人外じんがいへと、仕立て上げたのか。

 かの小説家はたいそうな変人だと言う。しかしそれだけでない。因果、と言えばいいか、まず彼が作品を手掛けるまでには、根拠となる意思のひとつがあった。詰まるところ、みずからの幸福になれる「世界」をつくろうと、そういう意思である。だから彼は「世界」創造のそれ以外をないがしろにして、今に変人と言われるようになった。

 平俗の、一心による救済――彼は自著でそのような、宗教的なフレーズをヒロインの少女のセリフに用いた。また、それこそ「世界一価値のある宝物」の継承される価値だ、とも。

 彼は、フィクションにおける妥当性にどこまでもこだわった。結果、「世界」を題材にした問題作が生まれたわけなのだ。これこそが出来事。


「それで。やっぱりおれの手には、お前を――殺してしまった感覚がまだ、残ってるんだよ。罪悪感もな、」


「帰ったら、『IMMORTALE《イモー・テイル》』にわたしを書いてほしい」


「無理、だよ。わたしはもう君の創造物ものじゃない。君の、願いの上には立てないっ……!」


「外傷は痛みを、誘発する。痛みは苦悶を。苦悶は、やまいを。やまいはやがて死を招く。そのはず。では――傷を得ない吾々われわれに、死は、どこからあらわれ出るのでしょうね」


 キリカサネとは、統べてもたらせる者の名。そして、物語。

 終着の1つ。

 果たして真理は遠いし、やって来る日はない。こちらから行くばかりだ。けれどその、進んだ分だけ、みずから至ったときの感動は計り知れない。

 つまり、極論すれば、自分で解釈をつけてしまうのが手っ取り早い。真理は決して、事実とかぎらないから。誰かがずっと正しいことは有り得ないのだ、絶対に。





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