纏ノ章/マトイノショウ

纏ノ章 マエ書き

 自分の、命の価値をしらなかった。考え得なかった。どうして、この永劫、誰の役にも立たない命に、何かしらの意味とか報いがきまっているだなんて、思い込んでいたのだろう。――確かに、最後に決めつけられるのは自分だけかもしれない。でも、生きているあいだに判断をつけていいのは、断じて、第三者のはずだ。生殺与奪さえ、つまり公的には私に認められていない。


『ここが、幸福の――、』


 それは、意味ある生と死の、定められた価値観。秩序ある場所。だれに、自分にさえ、制約されない自由意思。そのすべてが揃ってないと、とても、「世界」だなんて呼んで居られない。見留め、続けられない。


「いいよ。買ってやる」


「俺は、もう上にも下にも戻れあしないのさ。完全に閉じ込められてる。俺自身がいつかにくだした、向こう見ずの所為で、な」


「はは、だいじょうぶだよ。たとえ忘れていたって、タカラモノまでの道を閉ざさないでいてくれるのが、『とう』なんだから……」


「ぼくの……盤石ばんじゃくな、ジンセイを。成績を。人間関係を、全部、ぜんぶっ、壊したのはっ、酒だ! そうだよ! ぼくは人並みがよかったのに、なんでこんな、」


人類わたしたちは、いつまで救われ続けなければいけないのだろうね?」


「わたしで、いいの?」


 キリカサネとは、統べていざなえる者の名。そして、物語。

 終着の1つ。

 もし、弱さを見せられない、自覚できないままで、君は息絶えてもいい。彼らはそれを望んでいた。しかし――死を、全うしただけで、本当に死ねるとは思うな。無為のエニシはつきまとう。本当の君は、知られないままで。





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