証拠横取り

 「おいちょっとこい」仙道が翌朝一番に伊刈を呼びつけた。

 「どうしたんですか」

 「お前には悪いんだが六甲建材の現場で集めた証拠を全部警察に引き渡せ。昨日のエタの検査の分も全部だ」

 「いきなりどうしたんですか」さすがの伊刈も驚いた。

 「どうもこうもない。警視庁が動き出したんだ」

 「どういうことですか」

 「はっきりしたことはわからんが警視庁をその気にさせたってことだろう。もう俺らの手の出せるレベルじゃないぞ」

 「今さらどうして警視庁が出張るんですか。バッチがらみの圧力でもあったんですか」

 「俺にはなんもわからん。もともとこのヤマは県警に任せることになってたんだ。とにかく手を引くぞ」

 「そんな一方的じゃないですか」

 「ちょっと小耳にはさんだとこじゃ元公安庁総監の娘婿の実家がやっている会社が絡んでるんだとよ」

 「つまり総監の縁者の会社ってのは布袋ってことですね。それで手心を加えるんですか」

 「おい他言は無用だぞ」

 「禁足令の次は緘口令。いったいどうなってるんですか」

 「とにかく証拠はそっくりプレゼントしてやれ」

 「理不尽じゃないですか。暑い中みんなで苦労して集めた証拠なんですよ」

 「恩を売っておけば役に立つ時がある」

 「恩に感じればですけどね」伊刈は憮然として席に戻った。

 翌日、警視庁の刑事二人が証拠を引き取りに来た。二人ともプロレスラーかと見まごう大男だった。

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