12-ANOTHER
特徴的な空気を裂く音と共に、LOSTの背を覆っていた装甲のような部分が粉々になって吹き飛んだ。
LOSTは悲鳴のような声を上げながら後退しようとするが、富薬の腹部の傷が癒える際に刺さったままだった尾の先端が動きを阻害した。
「毒はまだ残っているみたいだな……
2発、3発とあの音が響き、LOSTの脚が数本切断される。
「この……動くな!」
富薬が
ブツンという音と共にLOSTの尾が切れる、結果的に拘束から抜け出す事に成功したLOSTが距離を取る。
「少年、無事か?」
「いや……あんたこそ……それ……」
「ああ、ちょっと痛いだけだよ」
富薬と遠山が話している前でLOSTの尾が新たに生えてくる、俺が撃ち込もうとした還元弾もその尾に弾かれてしまった。
「まだ死んでねえぞ、油断すんな」
天宮が蹴りを入れようとするが、尾で描かれた線から飛び出した黒い壁を避けようとしてバランスを崩す、徹底して回復の時間稼ぎをしようとしているらしい。
「
遠山がLOSTに向けたページから網が飛び出しLOSTに引っかかる、しかしLOSTはそれを尾の線で手早く切り刻み、足元に広がった真っ黒なシミへと潜り込んでいった。
「ああいうゲーム見た事あるぞ」
「天宮! 奴が描いた線に注意!」
線の一部が広がり、真っ黒に染まった尾が飛び出してくる。
富薬たちを引っ張ってそれを間一髪で避けた天宮が還元弾を撃つと、線が消し飛ぶと同時に元通りの姿になったLOSTが飛び出てきた。
「回復してやがる!」
LOSTが尾を振り回し、周囲に黒い液体を撒き散らす。
「召喚、
遠山が何本もの槍を投げつけるが、またLOSTの反応が消えない。
「また
「最初から囮を狙ってりゃ囮に当たるに決まってんだろ! 網島! 次は何処だ!?」
辺りを見回すが解析眼が相手の現在位置を示さない、見失ったか──
危険地帯を示す真っ赤な幕が視界に現れる、咄嗟に横っ飛びに避けると天井からLOSTが飛び掛かってきた。
「見ィーーつけたっ!」
いち早く気付いた天宮が拡張跳躍で蹴りを入れ、LOSTは大きくバランスを崩し壁に激突した。
「デコイを描く隙を与えるな!」
「分かってる!」
2人で還元弾を何発も撃ち、動きを封じる。
俺の『解析』の通りなら──
「召喚、
LOSTの直上に富薬が現れる、脇腹を押さえてもう片方の手で
「
重たい音と共にLOSTの背が破壊されて甲高い悲鳴が響いた。
「やっぱり、痛いのは慣れねえな」
天宮が投げたシューターを受け取った富薬が苦笑いをして言い、剥き出しになった
* * * * *
「万年筆か、この前一緒に戦った時も似たような物だったよな」
消滅したLOSTの核があった場所から万年筆を拾い上げた俺を見て富薬が言った。
「そうだったな、いやぁそれにしても酷い荒れ方だな……」
ボロボロになった正面ホールを見渡してため息をつく、また修繕班が絶望的な顔をするのか……
階段から駆け上がってきた遠山が富薬の前に来て突然土下座をし始めた。
「頼まれたとはいえめちゃくちゃ思いっきりやってごめんなさい! あの、大丈夫でしたか……?」
下のフロアを覗き込むと、粒子に戻りつつある巨大なハンマーが見えた。
おそらくLOSTに撃ち込む
「一瞬内臓までグチャグチャになったけど大丈夫、まぁこういうブラックボックスだし」
顔を真っ青にする遠山を見て、こいつ面白い奴だなと天宮が呟いた。
「にしても、なんで万年筆からサソリなんだ?」
「これ、海外の有名なメーカーの“Antares”って製品なんだよ、サソリ座の赤い星」
「よく見ただけで分かったな、見たところ製品名が書かれてるわけでもなさそうなのに」
「昔よく使ってたんだよ」
昔? と聞き返す富薬の顔を見て、俺も何かが引っかかった。
昔、なんて自分で言ったがこんなもの使っていた記憶なんて無い。
「昔……いつ使ってたんだ……?」
どうしても思い出せない、何故か頭の奥の方がズキズキとしてくる。
「おい、そこら辺にしとけ、帰るぞ」
珍しく真剣な顔で天宮が俺の肩に手を置いた。
「そうだな、あぁ、疲れたしな」
そこのガキも来いよと天宮に言われ、遠山が「本を返してくるから待ってて」と走り去った。
* * * * *
「本の中身を実体化かぁ、俺は本読まないから絶対扱えないな」
遠山に話を聞きながら天宮が笑った、そもそもそんな奴にそんなブラックボックスは発現しない。
本部や宿舎と連絡が取れずに仕方なく4人で歩いて帰っている、富薬も遠山も自分の担当の支部と連絡が取れないようで、富薬に至っては先ほどからずっと連絡を取ろうと苦戦していた。
しばらく歩くと、天宮が突然足を止めた。
「どうした」
「おい、あのガキ」
天宮が指差した先の街頭ビジョンに先日の少年が映っていた。
少年は横転した街宣車の側面に座ってカメラの方を見下ろしていた。
『みなさん、この世界に時折真っ黒な化け物が現れていることをご存知でしょうか』
少年が喋り始める、街ゆく人たちは街頭ビジョンを指差したり自身のスマホなんかで中継を見たりしていた。
『僕はあの化け物に全てを奪われ、一度は殺されかけました、しかしそんな事件から運良く……いや、運悪く生還してしまった』
あちこちから火の手が上がるなか、少年は街宣車から飛び降りカメラに向かって歩き始める。
『“生還者”として言います、危険はあなたたちのすぐ側に潜んでいます……例えば民間のテロ対策組織“C.L.E.A.N.E.R.”……いや、掃除屋と呼んだ方が一般的ですね、あの化け物は彼らに引き寄せられて現れるんです』
少年の主張に「何をデマカセを」と富薬がため息をつく。
『僕は僕の全てを奪ったあの化け物たちを許さない、奴らに関わる全てのものも……だから、まずは彼らから潰していくことにします』
少年が指を縦に振り下ろすと映像が切り替わり、見覚えのある光景が映し出される。
「俺らの宿舎……?」
映像の中で建物が突然爆発し、炎上を始める。
『見ているんですよね、早く来ないと──』
武装した部隊が宿舎を取り囲む様子が映し出される。
「クソ! 皆が危ない!」
「落ち着け!」
走り出そうとする天宮の襟首を掴んで引き止める。
『全部終わっちゃいますよ』
映像が途切れ、街頭ビジョンはいつも通り広告を垂れ流すものに戻ってしまった。
「おい! 早く戻らないと!」
「今戻ったら俺たちまで攻撃対象だ」
周りの人たちは怒鳴りあう俺たちを怪訝な目つきで見ながら歩いていく。
「奴はブラックボックスを使ってあの放送をした、見てみろ、周りは何も気にせずいつも通りだ」
通行人たちを見回し、天宮がイライラした様子で俺に掴みかかった。
「どうしろってんだよ、帰る場所を2回も失えってのか」
「デタラメな特殊能力を持ってる人間ばかりの組織が、ただの武装集団程度に負けるかよ」
背後のショーウインドウの方を向き、俺は1つの解析結果を得た。
「
ショーウインドウに映り込んだ街の景色が一瞬揺らめいた。
「相変わらず鋭いのね」
ガラスに映り込む俺の後ろから、かつての相棒だった
「ブラックボックスの性質上、仕方ないことなんだよ」
かつて散々繰り返したやりとりを思い出し、俺はニヤリとしてそれを返した。
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