11-POISON
「状況終了、あとは修繕班に任せて帰る」
ここ数日、立て続けにLOSTが出現していて何度も駆り出されていてすっかり疲れている。
帰ったらゆっくり休もうなどと考えながら歩き始めると、ふと後ろから視線を感じた。
「網島、何ボサッとしてんだ」
天宮に声をかけられ、気のせいだという事にして再び歩き出した。
「視線を感じるんだろ」
「天宮もか」
「ここ数日な、誰かに尾行されている気はしていたが、同じ時間に別の地域に出動していた嶺崎も「誰かに尾行されている」って言ってたんだ」
只事じゃないなと呟き、そっとブラックボックスを起動して辺りの様子を探ってみる。
OUT OF RANGE
発見できなかったわけではなく「
「拡張しても無理か?」
「お前の拡張は距離じゃなくて処理速度や精度の向上だからな」
一緒に歩きながら人がいない路地へと向かう。
路地に入る前に仕込んだドローンを起動しようとするが、映像が返ってこない。
「壊された、向こうも気付いているみたいだな」
キュインと音がして天宮がその場にしゃがみ込んだ。
「
ドカンという衝撃と共に天宮が「気配」の方へと跳んだ。
「用事があるなら──」
相手を直接掴もうと天宮が手を伸ばすのが見える。
「直接……!」
天宮の手は虚しく空を切り、辺りには再び静寂が訪れていた。
「見えた、左のビルの屋上に向かう痕跡」
キュインと音を立てて天宮がフロートシューズを使った跳躍で屋上へと向かう、俺も続けてフロートシューズを起動し壁を数回蹴って上へと跳んだ。
解析眼が見せた結果は微妙な空間の「歪み」だった、それが屋上へと線を描くように続いている。
「おい、なんのつもりだ」
屋上に到着すると、フェンスにもたれかかっている少年に天宮が声をかけていた。
「ブラックボックスを使っているな、掃除屋か……どこの支部だ?」
「掃除屋? 僕を君たちと一緒にしないでくれないかな」
少年は一歩一歩ゆっくりと近付き、天宮の正面に立った。
「あいつらは僕が全部殺す、お前らは余計なことするな」
「ガキが、言葉の使い方ってものを教えてやろうか」
天宮が凄むが、グラリとした感覚に襲われた瞬間に少年の姿が消える。
天宮も同じ状態になったらしく、頭を押さえて周囲を見回していた。
「警告はしたからな」
少年の声がどこからか聞こえる、解析眼が返した結果は「ブラックボックスによる認識の変化」で姿が見えなくなっているというものだった。
「天宮!」
異変に気付き、天宮の手を掴んでこちらに引っ張る、天宮が居た位置に何かが落ちてくる。
屋上に設置されている大型の看板を照らしていた電灯だ、支柱が捻じ切られたように歪んでいる。
「なんだったんだ、あのガキ」
天宮が悔しげな声を上げた。
* * * * *
「
富薬がデータベースに接続されたパソコンを操作しながら言った。
「アルマ、姿消してるんじゃなくてコイツが言うには認識の変化で姿が見えなくなったとかだったぞ」
「アルマじゃないユウマだ、認識の変化か……例えば、曲げるんじゃなくて歪める力だったら、天宮や網島の「由田が見えている」という認識を歪めたとか?」
そんなデタラメな力あるのかよと天宮がため息をつく、しかし富薬の言う通りだとしたら全てが納得いく、空間そのものに歪みを与えてそこを歩いたとしたらあの時解析眼で見えた歪みの事も説明ができる。
「そもそも俺たちの力自体デタラメみたいなものだからな」
ギィと音を立てて富薬が椅子の背もたれに体重をかけた。
「掃除屋の人間もいろいろあるからなぁ、何かしらが気に入らないヤツがいてもおかしくはないと思うけどさ……なんだろう、世界の一部がLOSTのせいで消滅の危機だってのに人間同士で争う意味なんてあんのかな」
「アルマが頭よさそうな事言ってる……」
「網島、俺呼んだの
暇さえあればデータベースを漁ってる富薬なら少しは分かるかもしれないという天宮の意見でわざわざ呼び出したのに散々失礼な態度を取られて富薬は当然ちょっと不機嫌になっている。
パソコンの画面に表示が出てアラートが鳴る、LOSTが出現したようだ。
「あんなガキの警告で止めれるような仕事じゃねえよな、アルマも着いて来い」
天宮は楽しそうにそう言って部屋を飛び出した。
「すまん」
「網島が謝ることじゃないだろ……はぁ、行けばいいんだろ……」
* * * * *
現場に到着する、サソリのような姿のLOSTが辺りの壁や地面を尾の先端で引っ掻いて真っ黒な線を残して回っている様子が確認できた。
「あの線、ロストポイントの影にそっくりだな」
「幸い、まだ誰も刺されていないみたいだね」
偶々閉館日だった図書館に現れていたためまだ被害は抑えられている、このまま一気にカタを付けよう。
「コアは胴体中央部、背の装甲は厚いから上から袋叩きは厳しいな」
正面ホールで暴れるLOSTを吹き抜けの上のフロアから観測し解析の結果を伝える、シューターに還元弾を装填していた天宮が舌打ちをした。
「アルマ、骨折のダメージを撃ったらどうなる?」
「着弾地点を確実に砕く弾になるけど……正気か?」
「ダメか?」
「すぐに弾にできるとは言っても一瞬痛いんだぞ……」
LOSTがこちらに気付く様子を見せたので全員で構える、素早く飛び出した天宮が強化したカッターナイフをLOSTの装甲に叩きつけた。
「切れ味最大拡張でもダメだ」
LOSTの尾の攻撃を避けながら天宮がカッターを投げ捨てる。
地面にLOSTが描いた弧がジワリと滲んだ。
「天宮! その線に気を付けろ!」
普段あまり使わない特製のバイザーを装着しながら叫ぶ、望遠機能で拡大して見ると、あちこちに描かれた線の奥で怪しげな光が蠢いているのが確認できた。
線から真っ黒な何かが飛び出す、直撃した案内カウンターが真っ二つになり吹き飛ばされた。
「うわ……」
隣で富薬が顔を真っ青にしている、俺もできることなら近寄りたくない。
「ここの本は貴重なものが多いから、まずは本のある場所にLOSTが行かないようにしなきゃ」
無線から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『認証、ブラックボックス展開』
「──
正面ホールと書架が並ぶエリアを分ける入り口にいくつもの本棚が出てきて、ガッチリと塞ぐ、その前に立っていた遠山明の隣にはギッシリと本が詰まった本棚が1つ置かれていた。
「本当は貸し出しは10冊までらしいんだけど、仕方ないよね」
遠山が本棚から一冊の本を抜き取ると、本棚は床に空いた穴に沈んでいった。
「召喚、
本に紫の閃光が走り、遠山の背丈の二倍はあろうかという槍が本から現れた。
「くたばれ」
遠山が槍を軽く放り投げる、その動きに見合わないスピードで槍は飛び、一直線にLOSTの方へと飛んで行った。
鈍い音を立てて槍がLOSTの身体を貫く、獲物を仕留めた槍はその場で粒子となって遠山の手元の本へと戻っていく。
「チョロいな」
「遠山! 上だ!」
俺が気付いた時にはもうLOSTは移動していた、先ほど貫かれたLOSTはヤツの尾で描かれたデコイだったようだ。
LOSTの尾が遠山へと迫るが、間一髪で飛び出した富薬が遠山を突き飛ばし助け出した。
「流石に……キツいなこれは」
腹部に深々と突き刺さったLOSTの尾を掴み、反対側の手を拳銃のような形で構えてLOSTに向ける。
『認証、ブラックボックス展開』
「お返しだ」
富薬の声が、静かな正面ホールに響いた。
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