10-STRING
「とりあえず外との連絡は取れたよ、LOST絡みの事件って伝えたから警察側への対応は向こうがやってくれるって」
物陰に隠れながら辺りの様子を伺い、一色の報告を聞いた。
先ほど試しにドローンを1つ飛ばしてみたが、張られた糸をドローンが切断した途端に無数の棘が飛んできてドローンは撃墜された、糸の感触を使って辺りの空間を把握しているのだろう。
「蜘蛛みてえじゃねえか……」
ボソリと感想を呟く、LOSTはまだ動いているのだろうか、いや、あの対応の早さからして、新たに操る対象の人間を作るのをやめてこの巨大な『蜘蛛の巣』を使い邪魔な俺たちを排除しようと待ち構えているのかもしれない。
救援を待つのも1つの手かもしれないが、こんなところで自爆されるとどれだけの人間が巻き込まれるか──
「糸は規則的に張られている、アミシマくんの言う通り蜘蛛みたいなヤツだとしたらこの放射状の糸の中心に相手は待ち構えていて……」
一色が空き缶を手にして近くの糸に投げつける、空き缶は一瞬で無数の棘に貫かれ見る影も無くなった。
「蜘蛛と違うのは、本体が直接仕留めに来るってわけじゃないとこね」
「かと言って動かないわけにもいかねえよな、LOSTとの戦いは時間が命だ」
こんなに人が多い場所があの何も無い空間になってしまったらそれこそ大惨事だ。
「操っていた人間は全員手放したっぽいところだけはラッキーね、ほら、あそこ1人倒れてる」
武装した男が通路の真ん中に横たわっている、抱えている旧式の自動小銃と腰に付いている手榴弾を見て一色がニヤリとした。
「いいこと思いついた」
* * * * *
男から掠め取った手榴弾を拾ったパンフレットで包みながら一色が辺りを見回した。
「転写、アルミニウム」
安全レバーをガチガチに固められた手榴弾からピンを抜き取り、軽く転がす。
数十秒後、一色の転写の効果が消えて安全レバーが外れた手榴弾が大きな音を立てて炸裂した。
一斉にその床にいくつもの棘が刺さり、LOSTのものと思しき雄叫びが響き渡る。
「居た」
解析眼が危険地帯を示した次の瞬間に棘の刺さっている辺りに巨大な蜘蛛が飛びかかってきた。
「タイガくんの拡張が無いから危険な賭けだけど……連続複製──」
一色がLOSTに向けて手を翳した瞬間、LOSTがこちらに気付き距離を取った。
「既に知られている攻撃……?」
還元弾を装填したシューターを構えながら解析した結果を見て思わず呟く、たかだかLOSTにあそこまで細かい攻撃予測などできるはずがない。
一色が撃ったチタンの弾は虚しく空を切っただけで、LOSTは再び姿を消してしまった。
「位置がバレた、移動しないと次の攻撃が──」
いくつもの棘が周りを飛び交い、一色が金属を転写した鞄で対抗する。
走り出すとそれを追いかけるように棘が射出されてくる、このままじゃ防戦一方だ。
「おい、いいことってまさかさっきの手榴弾だけじゃないだろうな」
「たとえばコレとか?」
一色が自動小銃を天井に向けて乱射する、天窓が粉々に砕け散りガラスの雨が降り注いだ。
同時に一色はスモークグレネードを放り、辺りに煙幕を張った。
「もう1発!」
一色が投げたドローンが先ほど手榴弾が炸裂した辺りに飛んでいき、地面で派手な音を立てる。
真っ黒な影がそちらへ向かって飛んでいき、LOSTがドローンにその脚を突き立てた。
「かかった! 解除!」
閃光が煙の向こうを包み、LOSTの悲鳴と爆発音が響いた。
一色はそのまま俺からシューターを引ったくり、LOSTの方へと走っていく。
「これで、おしまい!」
還元弾の光が2回走り、LOSTの雄叫びは完全に消え去った。
煙の晴れた先で、糸の絡まった
「……作戦の内容ぐらい、教えてくれてても良かったんじゃないか?」
「ああごめんね、簡単な話よ、糸を感覚器官にしているならガラスでも降らせて糸を切ればいいだけ、それから囮を使っておびき寄せたLOSTを叩けばいいんじゃないかって」
「なんで黙ってた」
「ほら、囮候補にそれ言ったら上手くいかないかもしれなかったし」
呆れた、薄々俺が何かしらで使われるパターンだろうなと思っていたがやはりそうだったようだ。
荷物がまとめてある場所に歩きだした俺に、一色が「え、怒ってる?」と言いながら着いてきた。
* * * * *
「ふぅん、でも武器向けたら警戒するLOSTは何回か見てきたよ?」
帰り道、一色の攻撃に対してLOSTが警戒をしていた事について話すと一色はそのように返してきた。
「手のひら向けただけで警戒するヤツは見た事ないだろ」
「あぁ、確かにねぇ」
あの距離ならすぐに反撃してもおかしくなかったはず、それなのに一色の攻撃に備えて一旦距離を取ったことに違和感を感じたし、俺の
「うーん……もしかしたら、わたしが過去に戦ったLOSTと情報を共有している……とか?」
「共有? LOSTを逃したことがあるってことか?」
「いや、いつもちゃんと仕留めてるよ、でもあの状態をわたしたちは「倒した」と思ってるけど本当にあれで倒してるのかなってたまに思うんだよね」
確かに、LOSTの反応が消えたという点だけを見て「倒した」と判断していたが、解析眼で視た内容は「反応が消えた」という事実だけだった。
「ま、出てきたヤツは全部潰すからどうでもいいんだけどね、でも今後はもっと変なヤツが出てくるかもね……ほら、他のLOSTを食うLOSTなんかにも逢ったんでしょ?」
君も気をつけなよと言って一色が車を降りた。
「結局、LOSTってなんなんだ」
今までに何度も浮かんだ疑問を、そっと口に出した。
解析眼では答えの出ない結論が、また1つ見えない位置へと遠ざかった気がした。
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