7-LIGHTNING
あまりにも突然の出来事に身体が硬直した。
トカゲ型の姿がメキメキと音を立てながら変わっていく、気付けば二足で立ち上がってその真っ黒な頭部でこちらを見つめていた。
『何故オレを喰ったんだ! ふざけるな!』
さっきとは比べものにならないほど流暢な言葉で喋り始める、いや、声は違うか?
『たまたまお前が居ただけだ、理由などない』
『どいつもこいつもバカにしやがって』
『お前を攻撃したのはアイツらか』
『ああそうだ、アイツらが憎い』
1匹で2つの声を使って会話している、会話の流れからして、喰われたLOSTと喰ったLOSTの意識があるらしい。
『だったら──』
トカゲ型の声が途切れると同時に奴が目の前に現れる、しまった、油断した!
『代わりに俺がこいつらを片付けよう』
眠り込んだリカを抱え、アルマの襟首を引っ掴み、横っ飛びに逃げる。
土手の一部が派手に弾け飛んだ、開けた口から弾丸でも飛ばしたかのような──
着弾地点周辺の植物が一気に枯れている、どうやら普通の攻撃ではないようだ。
「毒か、だが俺が受けたやつの数倍は強力だぞ」
アルマが受け身を取って着弾地点の様子を見ながら言った。
「
先ほどのこのLOSTを追いかけて来たかのように上空から飛び降りて来たタイガくんが着地の代わりにLOSTを踏みつけてブラックボックスを使ったフロートシューズの蹴りをお見舞いする、LOSTの背中からメリメリと何かが軋む音がしてタイガくんの靴から噴出したジェットに弾き飛ばされた。
「ちょっと出力上げすぎたが、おかげでやっと一発ブチ込めたぜ」
思わぬ救援に、僕は思わず「ヒーローみたいじゃん」と呟いた。
* * * * *
──15分前
「カラスを喰った……?」
いや、閃光ですら喰ったのだから驚くことじゃない、しかしLOSTが人間を含むこの世界の生き物に殺意を持った攻撃行動に出るのではなく単純な捕食行動として襲いかかることは初めてだった。
メキメキと音を立ててLOSTの背中から翼が生える、カラスのように真っ黒でしなやかな翼だ。
『タ……リナ……イ……』
翼が大きく広がり、LOSTは空を見つめた。
「アイツ、飛ぶ気か!」
「
天宮がアンカー弾を撃ってLOSTを一瞬捕らえるがワイヤーはすぐに引き千切られる、俺はアンカー弾にセンサーを取り付けて一瞬の隙を突いて飛び上がったLOSTにそれを撃ち込んだ。
「追いかけるぞ」
天宮に強化してもらったフロートシューズで窓から跳び着地する、レーダーを確認して最短距離を『解析』する、見晴らしのいいこの場所なら最大出力で跳んで目の前の団地の屋上を渡っていけば──
「……サッカーコートのある河川敷、向かった方向はその辺りだ」
「何してんだ、早く行くぞ」
「先に行ってろ、やることがある」
* * * * *
「なんだ、形変わってるな」
石ころを拾い上げ昨日買ったばかりのスリングショットを構える、網島曰く、拡張された攻撃を喰われなら撃つ瞬間だけブラックボックスの影響を受けて後は物理で攻撃をするだけの遠隔攻撃なら喰われることも無いだろうとの話だ。
『着いて来たのか、無駄なことを』
言葉がやけに流暢になっている、また何か喰ったのだろうか。
辺りを見渡す、脇腹に血を滲ませて倒れている浅塚、じっとLOSTを睨みつける嶺崎、その隣で指を銃のようにして構えるアルマ、状況はよく読めないが浅塚の様子を見るにどうやらゆっくりしている時間は無いようだ。
『まだ足りない、こんなんじゃ誰にも覚えて貰えない』
『力が足りないなら奴等を傷付ければいい、奴等は向こうと此処を繋ぐ
1人……いや、1匹で会話をしている……?
LOSTが大きく口を開ける、まずい、またアレが来る──
『お前煩い、もう要らないな』
俺たちが戦っていた方のLOSTの声がそう言った途端、あの音が鳴りもう1つの声が途切れた。
『さて、もっと力が必要だな』
LOSTがこちらを見る、スリングショットを引き絞る手にグッと力が入った。
「
衝撃が空気を震わせて小石が一直線に飛ぶ、LOSTの姿が消えて背後の木が弾け飛んだ──
「上か!」
スリングショットを構え直す、その先でLOSTが空中で大きく翼を広げて一振りし、咄嗟に危険を感じてフロートシューズで地面を蹴った。
「厄介な技身につけやがって、アルマ!」
「俺はアルマじゃねえ、俺の弾はアイツに喰われてしまうみたいだから無理だ」
高笑いしながら空中を飛び回るLOSTを2発3発と撃ちながら走り回る、このままじゃラチが明かない。
「コレ使え!」
例の物を取り出す、よくあるドッキリグッズの押したら感電するペンだ。
「威力は最大限に拡張してある、俺が奴の動きを邪魔するから顔面以外を狙え!」
「そいつは痺れる作戦だな、乗った」
アルマがペンを握り指を構えたのを確認し、俺は手元のスイッチを押した。
逃げ回りながら設置していたシューターから一斉に閃光弾が射出され、空中でいくつもの閃光が撒き散らされる。
想像通り、LOSTは空中であの閃光を喰い、一瞬その場に留まった。
「当たれ……!」
アルマの濃毒銃が空中に一筋の雷光を走らせる、翼を貫かれたLOSTはその場で感電しながら墜落していった。
「まだだ!」
墜ちたLOSTにトドメを刺そうとスリングショットを構える、チャンスは一瞬、着地と同時に奴は翼ではなく脚を使い動き回るに違いない。
狙いをつけて小石を離す、機能を拡張されたスリングショットで撃ち出された小石は轟音と共に直線を描いて飛んだ。
LOSTが着地の瞬間に尻尾で地面を叩き、着地の地点をズラす、しまった、外した──
廃墟で斬ったはずの尻尾がいつのまにか再生していて、その先端がまたあのパラボラアンテナのような形になっていた。
先端に光が集まる、あのフラッシュとは違う何か、先ほどの光の数倍の輝き。
「レーザーでも撃とうってのか! クソ!」
すかさず次の攻撃をしようと構えた瞬間、LOSTの尻尾が突然弾け飛んだ。
「解析、編集、拡張」
声のした土手の上の方を見る、師匠だ、シューターを構えてLOSTの方に向けている。
「網島君のおかげで間に合ったよ」
師匠の周りにフィルムのような影が浮かび上がり、空間が揺らぎ始める。
「
師匠がシューターの引き金を引くと後ろでLOSTの悲鳴が聞こえる、相変わらずデタラメな能力だ。
「
パチンという音と共に師匠の周りに現れた目玉が一斉に師匠に視線を集める、メガネの奥で師匠の目が鋭く光った。
「
バキンと音がして今度はLOSTが内部から弾け飛んだ。
「トドメだ、網島君」
どこからか跳躍してきた網島がLOSTの上にのしかかり、真っ黒な刀を突き刺す。
掃除屋特製の対LOST用武装、普段外に持ち出されることのない普通の人間には視認すらもできない刀、誰が名付けたのかは知らないが『影刀』と呼ばれる刀だ。
影刀がジワリと空間に溶けて消える。
影刀に刺された切り口から、LOSTはジワジワと消滅を始めた。
LOSTの
「ここまで手こずったのは初めてだったな……なぁ、天宮」
網島はそう笑い、その場で意識を失った。
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