6-MISCONDUCT
川沿いの道を全力疾走する、なるべく住居や人の少ないエリアを選んで走ってきたつもりだが、目的の場所へ辿り着くにはここから先の住宅地を抜けなくてはならない。
『もしもし、どうしたの』
やっと繋がった、私はスマホ越しに嶺崎さんに現状を伝え始める。
「高校の前でLOSTを見かけて、今上手いこと人がいないところに誘導したんだけど──」
つまづいて派手に転ぶ、後ろを確認すると、ズルズルと音を立てながらそれなりの速さで迫るLOSTが見えた。
少し先に落ちたスマホから嶺崎さんが呼びかける声が聞こえる、ダメだ、ここで諦めたらここがロストポイントになりかねない、ここだって誰かにとっては大切な場所かもしれないんだ。
「
LOSTが掌をこちらに向ける、その中央が鋭く変形し始めた。
「
指で
「──捉えた!」
この痛みが嫌いで普段は使わない技だが、上手く使えたようだ。
LOSTから飛んだはずの棘が空中でゆっくりとこちらに迫っている、私はすかさず棘の少し右上の空中を指差した。
「
私のブラックボックスに止められていたLOSTが動き出す、棘も元の速度を取り戻したが、見えない壁に阻まれてそのまま地面に転がり落ちた。
「
削除によって一瞬生まれる空間の壁をLOSTの横っ面に叩きつける、相手はそのまま弾き飛ばされ、土手を転がり落ち河川敷に倒れこんだ。
「戦いは慣れてないけど、私が相手よ」
* * * * *
階段を駆け下りてる時間が無い、俺はそのまま中庭側の窓から飛び出し、アンカー弾を壁に刺し、円軌道を描いて下の階へと突入した。
補助機構越しでも着地の痛みが伝わる、俺はすかさず目の前のLOSTの左右に向けてアンカー弾を撃つ、ワイヤーで繋がれたアンカー弾はLOSTを一瞬だけ抑え込むがやはりすぐに抜けられてしまう。
「喰われた解析はあと1つだ」
トカゲの姿のバケモノがこちらを睨む、いや、眼は口の奥にあるのだから今は見て居ないのかもしれないが、真っ黒な身体から伸びるその顔がまるで睨むかのようにこちらを向いているのだ。
「上手く戦ってるつもりか、猿真似ばっかしやがって」
アンカー弾のユニットを外して
撃った閃光弾が炸裂して前方に向けて強烈な光を飛ばす、金属が擦れるような音がして光が収まった先にはなんともないような様子のLOSTがその牙を見せるように笑っていた。
「閃光ですら喰うのかよ、なんでもありだな」
尻尾の先が変形し、パラボラアンテナのような形になったその尻尾の中心に光が集まり始める。
「ぶった斬れ!」
俺の合図で窓の外から天宮が飛び込んで来る、カッターを一振りすると辺りの壁や天井に切り込みが入り、LOSTの尻尾諸共その周辺を吹き飛ばした。
「クソ、尻尾だけか」
天宮が切り落とした尻尾を踏みつけながらLSOTが退避した先の壁を睨んだ。
「やりすぎるとここ自体が崩壊しかねない、慎重に行くぞ」
天宮に注意を促し、シューターを構える。
一瞬の沈黙の後、LOSTが口を開きこちらに向けてきた。
「閃光!」
咄嗟に叫ぶ、腕で目を守り閃光に備える、辺りを覆うような強烈な閃光と共にLOSTが壁を蹴る音が聞こえた。
「逃すか!」
天宮が駆け出す、LOSTは窓の外へと跳んだようだ。 天宮の後を追い、窓の外を見る、少し下、この廃墟の入り口前にあのLOSTが居た。
「何を踏みつけてるんだアイツ」
LOSTの足元で黒い何かがバタバタしている、解析眼で視るとあれがカラスだということが分かる。
LOSTが口を大きく開ける、まさか──
* * * * *
「
普段使わない出力でブラックボックスを使い続けたせいか高速度撮影を使った時のような頭痛がジワリと頭に広がる、しかしLOSTは猛攻を繰り返す。
私がここで負けたら誰かが危ない目に遭う、せめて嶺崎さんが来るまで、せめて──
脇腹に激痛が走る、しまった、防ぎ損ねた……!
その場で膝をつく、ジャージに真っ赤なシミが広がっていく、擦り傷だ、まだ戦える、そう自分に言い聞かせ、激痛に耐える。
無数の棘が飛び、目の前に迫る。
ダメだ、このままじゃ死ぬ。
ドスドスと肉を抉る音が響く、目の前に飛び込んできた何者かの背中にいくつもの棘が飛び出した。
『認証、ブラックボックス展開』
「慣れないな、痛みってのは」
自身に刺さった棘を抜き放り投げながらその人は言った。
「
彼の背中に見えていた傷が次々と癒えていく、目の前にいる人が誰なのか、すぐにピンときた。
「富薬さん!」
「よく耐えた、あとは任せろ、浅塚ちゃん」
「
自分が受けた様々な負荷を数倍にして弾として指先から撃ち出せる力、自身の身体を犠牲にした毒の銃だ。
「素早いな……浅塚ちゃんの怪我も危なさそうだ」
「私はまだ……!」
「傷の痛みは誰よりも知ってるつもりだ、そこを動くな」
富薬さんはそう言って顔をしかめた、攻撃の機会を伺っているLOSTを睨みながら先ほど棘が刺さっていた腕を抑えた。
「毒か……これは早めに浅塚ちゃんの治療もしなきゃな」
指を拳銃のような形で構え、LOSTに向ける、LOSTは少しその場ですこしよろけて唸った、人の形を保っていた影の輪郭が揺らぎ始めている。
「
自身にブラックボックスによる編集を試みるが、どうも上手くいかない、それどころか次第に視界が霞んで来る。
「遅れてすまないな、リカ」
「リンカですってば、何度言えば……」
嶺崎さんの声がする、嶺崎さんが指を鳴らし、私は薄れていく意識の中で笑った。
* * * * *
「救援は呼んだよ、間に合えばいいんだけどまずは……」
目の前で自分の毒に苦しむLOSTを睨む、僕が間に合わなかったばかりにこんな目に遭わせてしまった。
「アルマ、あのバケモノを叩き潰すぞ」
「ユウマだ馬鹿野郎、珍しく本気じゃねえか」
デバイスを起動する、ビリビリとした感覚が走りいつものガイドボイスと共に周りに眠りを誘う眼が現れる。
「装填」
「装填!」
再び指を鳴らしアルマに力を使う。
「もう一回、装填!」
再び指を鳴らす、バケモノに向けて『濃毒銃』を構えるアルマがニヤリと笑った。
「眠れ、深く深く」
空を切り裂くような音が響き、紫色の弾丸が一直線に飛ぶ。
当たる直前だった、上空から真っ黒な影が降りてきてアルマとLOSTの間に割り込んで大きく口を開けた。
金属が擦れるような音と共に口が閉じられる、何が起こったのか一瞬理解が追いつかなかった。
カラスのような翼の生えた……トカゲ……?
『オレ……ノ……モ……ノダ……』
間違いなくLOSTだ、しかし何故言葉を──
LOSTがクルリと後ろを向く、自分の毒に苦しむ先ほどの人型のLOSTの方だ。
「おい、まさか!」
先ほどの金属が擦れるような音と共に硬いものが砕ける音が聞こえた。
「喰ってやがる……LOSTが、LOSTを……!?」
大きさはそれほどでもない敵だが、今までにない恐怖を覚えた。
コイツは早めに片付けなくては──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます