5-RUINS
静かな廃墟に物音が響く。
来るならそろそろのはずだと俺は辺りを見渡していた、俺と同じく記憶を失う瞬間の夢を見た浅塚は高校に行っている、もしその浅塚の元にLOSTが現れるとしたら、その高校の近くの廃墟、つまりここに居る俺と浅塚が遭遇するLOSTとしてワンカウントで済まされるのではないかと思い、わざわざ此処の捜査を選んだのだった。
「なぁ、ここに何があるってんだよ」
「こういう誰かの思い出が残る場所はな、LOSTの核に成り得るような物があるんだよ」
「思い出って、ただの廃墟だろ」
ふと視界に入ったモノを拾い上げ、俺はそれをブツブツと文句を言う天宮に見せた。
「
ウネウネと動く黒い塊から「急所」を解析し、指でそれを押しつぶす、すると塊は小さな悲鳴を挙げて塵となって消えた。
手のひらに残った指輪は、鈍く光を反射している。
「お前さ、昨日あの電車でLOSTに遭遇したんだろ、それも偶然」
残った指輪を保存用の袋に入れて封をしながら天宮に尋ねた。
「あぁ、それがどうかしたか」
「どうせアレだろ、LOSTの自爆に巻き込まれる直前の夢を見た日はLOSTに遭遇するってやつ、偶然だよあんなの」
「一色は滅多に見ないあの夢を見て急いで帰って来たらしい、俺が本屋の前でLOSTと戦ってた時に偶然居合わせた別の地区担当の少年もその夢を見てブラックボックス用の素材……アイツの場合は本だな、それを買い足しに来ていたらしい」
指輪をリュックに入れて再び捜査に戻る、流石に手がかりの無い状況で解析眼を使っても目的のものは見つからない、こういうのは自力で探さなければいけない。
「で、なんで俺だよ、一色は?」
「二日酔い」
「嶺崎は?」
「爆睡」
「うげぇ……じゃあ──」
何か言いかけた天宮を制止し、俺はじっとすぐ側の扉を見つめる。
「何か、音が……」
バンと音を立ててドアが開く、いや、開くというよりドアそのものが弾き飛ばされて──
「LOST……!」
天井を這って出て来た黒い生き物は紛れもなくいつも見るバケモノの同類だった。
「中型か、あの形は……トカゲ……?」
人ぐらいのサイズのトカゲ、壁を這いながらこちらの様子を伺っている。
「俺が仕留める」
そう言って天宮が駆け出すと同時に解析を始める、天宮の方に首を向けたLOSTが口を大きく空けた。
「……解析が──」
LOSTが空けた口の真ん中にギョロリと目玉が浮かび上がる、それと同時に俺の『解析』で浮かび上がった線がブツリと切れた。
「天宮! 止まれ!」
俺の声に反応してその場で急停止した天宮の目の前でLOSTが口を閉じ、鋭い音が響いた。
『オ……シイ……』
LOSTの口から鳴き声とは思えない声が聞こえる。
『モウ……イッ……カ』
再び口が開く、口の中から覗く視線が天宮の方へと向いた瞬間、俺は何か嫌なものを感じ取った。
天宮がカッターの刃を出しLOSTへ向けて振る、金属が擦れるような音と共に再びあのバケモノの口が閉じた。
「おい、なんで切れないんだ、それになんか喋ってるぞアイツ」
流石に危険を感じたのか天宮が少し後退する、辛うじて一瞬だけ見えた解析結果に目を疑いつつも俺は再びLOSTを注視した。
「ブラックボックスの効果が喰われてるんだ」
バケモノの背中が膨らみ始める、チキチキと音がしてカッターの刃のようなモノが現れた瞬間、またあの噛みつきによって解析が打ち切られた。
『ミ……エタ……』
解析ではなく直感で危機を感じ天宮の襟首を掴んで一緒に伏せる、轟音と共に背後の廊下に巨大な切り込みが入った、やっぱりそうか──
「気を付けろ、喰われた効果は返される」
距離を取り考える、解析を使わずこいつを倒す方法は無いか。
「食われなきゃいいんだろ」
天宮がすぐ近くの扉を開けて部屋に飛び込み、LOSTから姿が見えない位置へと動いた。
「切断──」
天宮がカッターナイフを構えた瞬間にLOSTが動き出す、俺は咄嗟にシューターを構えLOSTに向けてアンカー弾を撃った。
「クソ! また喰われた!」
アンカー弾は虚しくも空を切り天井に突き刺さる、部屋の中で悪態をつく天宮の声が聞こえた。
「解析も喰われた、一旦全部吐かせた上でブラックボックスを使わずに倒しにいかないと」
天宮の隣に駆け寄ると、メリメリと音を立てながら天井にヒビが入る、嫌な汗がこめかみをまっすぐに滴り落ちた。
『タリ……ナ……イ』
ガラガラと天井が崩れ落ちる、フロートシューズの機能を拡張して跳んだ天宮が俺を抱えて緊急離脱する窓から飛び出した天宮はアンカー弾で少し上の階の窓際の外壁を刺した。
「ハハハ! なるほど、自分の「手」を道具として認知、その上で「握る」って機能を拡張したのか! やりやがるなアイツ!」
シューターのボタンを押し、ギュイイと音を立てて巻き取る、天宮はそのまま俺を窓から建物の内側に放り込んだ。
「網島、お前はいい作戦が浮かんだら俺に指示を出せ、俺はアイツに勝たなくちゃいけない」
「馬鹿野郎! 楽しんでる場合か!」
アンカー弾から伸びるワイヤーとその先のシューターにぶら下がる形で壁に張り付いて居る天宮を窓枠から見下ろしながら叫んだ。
「楽しんでるんじゃねえよ、アイツは俺のブラックボックスの力を勝手に使ったんだ、失ったモノとは言っても俺の記憶の産物だ、そいつをあんなバケモノに好き勝手されちゃ黙ってらんねえ」
もう1つシューターを取り出し、天宮は下にそれを向けた。
「出てきたら脳天ブチ抜いてやる」
こうなった天宮は俺の話なんか聞かない、俺は舌打ちをして先ほどの場所へと戻るルートを解析し、走り出した。
* * * * *
どこかで何かが崩れるような音が聞こえる、割と近くの山にある「おばけビル」と称される廃墟の方だ。
「なんの音だろうね、あそこ古いから崩落?」
親友のルミが私の視線の先を追うようにしておばけビルの方を見た、体育の授業でグラウンドに出ていたため、おばけビルがよく見える。
テニスコートでクラスメイトが盛り上がる中、私は嫌な予感に襲われていた。
まさか、LOSTが? でも昨日2件も処理したばかりなのに、この地区にそんなに現れる?
「どうしたの? なんか具合悪そうだけど」
ルミが顔を覗き込む、しまった、心配させてしまったか。
「なんでもない、大丈夫だよ、この通り元気!」
おどけてガッツポーズをとってみせる、なにそれと言ってルミは笑ってくれた。
ふと視界の隅に黒い影が映る、私は咄嗟にその方を見た。
──LOSTだ、学校のすぐ側の道を彷徨うように歩いている。
「……ごめん、やっぱちょっと具合悪いかも、保健室行ってくるね」
「大丈夫? 着いて行こうか?」
「いいよ、1人で大丈夫」
そう言って私は校舎の方に歩き出す、このまま裏門から出てLOSTを誘導すれば学校で暴れられることは無いだろうという考えだ。
無事学校を抜け出すことに成功、ジャージ姿のまま学校を出たことが無いのでちょっとヘンな感じがするが、今は気にしている場合ではない。
念のためポケットに忍ばせてたデバイスを使いブラックボックスを展開する、こうしておけば誰かに見られても誰の記憶にも留まる事が無いからだ。
「……居た」
グチャグチャに歪んだような人型の影、まるで完全に透明な容器の中に黒く濁った水を入れたような黒さの塊だ。
「ここを巻き込んだら、死んでも許さないよ」
私はLOSTの前に立ち、相手をまっすぐ見据えて言い放った。
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