第38話 むつみ基地決戦!のアンドロイド

 ここはクレドの操縦席だ。

 俺は操縦席に座っているのだが、同時にクレドの姿を外部から眺望できる不思議な感覚がある。前回はエグゼ、夏美さんの姿だった。今回はクレド、椿さんの姿になっている。

 女性的な黄金色の鎧を身にまとい、剣と盾を持っている。背中には天使の翼とでもいうべき大きな翼が広がっている。下半身はスカートだけだった。


 足が無い。


 上半身は、どこかの宗教画にありそうな高貴な雰囲気なのだが、この足が無い恰好はどうなのだろうか。日本の伝統では、足が無いのは幽霊だと思うのだが……。


「正蔵様。変な事を考えるのはお止めください。高次元ここでは想念が全て伝わります」

「幽霊の話が伝わってたの?」

「ええそうです。全くもう失礼なんだから」

「ごめん。足が無いんでびっくりしちゃって」

「私の姿は大昔からこうなんです。慣れてくださらないと困ります」

「わかった。善処するよ」

「お願いしますよ。では3次元化します。3……2……1……ハイ!」


 その合図で3次元化していた。

 東の空が明るくなっている。午前5時前だと思う。

 三次元化したクレドは身長が30m位だろうか。目の前にいるアル・デリアス・ベノムより一回り小さい。

 

 その出現から数分経過していると思う。既に戦車部隊は沈黙し、周囲に配置されていたはずの普通科部隊も反応がない。むつみ基地の施設は全て破壊され、火災が発生している。基地正面に配置されていた74式戦車の残骸も見えた。火災は周囲に広がっていて、見渡す限り火の海となっていた。


「正蔵様、斬り込んで下さい」

「分かった」


 俺は直ぐに奴の後ろから斬りかかる。

 背後から斬るなんて恥ずかしいとか、そういう感情はない。

 この、人の命を吸う化け物を止める事だけを考えている。


 しかし、刃は弾かれた。振り向きざまに尻尾で打たれ、右手の裏拳を喰らった。


「正蔵様。防御は盾を使ってください」

「分かった」

「一旦離れます」

 数百メートルの距離を取ってビームを撃つ。

 クレドの額から放たれたその光線はヤツの周囲でぐにゃりと曲がって吸収されてしまった。今度は右手に持っている実剣の刀身からビームを放つのだがそれも吸収された。

「どうなっているんですか」

「ビーム兵器のエネルギーを吸収するフィールドが展開されています。同時に物理攻撃を吸収するシールドも展開しています」

「ビームも剣撃もすべて吸収されてるんですか?」

「そのようです。撃ってきます。盾で防御してください」


 奴の眉間に大きい光球が作られ、そこから一閃のビームが放たれる。

 俺はそれを盾で受け止めたが、そのエネルギーは周囲に拡散し、更に火災を誘発させてしまった。奴は予備動作なしにジャンプし体当たりをして来た。それを盾で受け止めるのだが更に数百メートル後退する。そこでもう一発ビームを撃たれる。そのビームを盾で受け拡散させるのだが、また火災の範囲が広がる。


 その時、上空から4機の叢雲が降下しつつ大型の対艦ミサイルを発射した。叢雲から放たれたミサイルそのままアル・デリアス・ベノムに命中し爆発する。しかし、何もダメージを与えていない。叢雲2機はバルカン砲を射撃しながらそのまま真っすぐにアル・デリアス・ベノムにぶつかってしまった。

 残りの2機も上昇しつつコントロールを失い墜落した。

「どうしたんだ?」

「パイロットが失神、または死亡したようです。あれに接近すると命を吸い取られます」

「離れるように連絡してくれ」

「分かりました」


 接近するだけで命を奪われるのか。これは本当にマズイ。何とか、何とかしなければ。


「巡航ミサイルが着弾します。米駆逐艦からの攻撃です」


 短めの直線翼を持った大型の巡航ミサイルが6基、低高度から接近し着弾、爆発する。それに合わせてこちらも胸元から光弾を放つ。12発の光弾が爆炎の中へ吸い込まれ閃光を放つ。


 しかし、奴にはダメージが無い。


「椿さん。打つ手なしですか?」

「まあ、山口県を丸ごと吹き飛ばす程度のエネルギーで射撃すれば仕留められると思いますが……さすがにその手は、使えませんね」


 確かにそうだろう。


「これは不味いですね。米軍から戦術核の使用を提案されました」

「それは?」

「自衛隊で歯が立たないのなら核を使うって事ですね」

「それはダメだ。核なんて使わせてたまるか」

「ですよね。使っても倒せませんし」

「そうなの?」

「そう。核分裂反応のエネルギーを集中させる技術がないからダメなんです。拡散させてますからね。あれではシールドを貫けません」

「その事伝えて」

「了解しました」


 再び、自衛隊機からのミサイル攻撃が着弾する。また、海上の米駆逐艦からレールガンで射出された砲弾も着弾した。爆炎が広がり何も見えなくなる。


 不意に翠さんから通信が入った。

「椿姉様。苦戦されているようですね」

「まあ、そうですね。今のところは」

「少しお手伝いしましょうか?」

「お願いします」

「翠さん、今、どこにいるんですか?」

「笠山ですよ。紀子博士の自宅です。五月ちゃん。睦月君、涼君もいますよ」


 再びビーム攻撃を受ける。その熱量はまた周囲に拡散し火災が広がっていく。


「正蔵さん。早くやっつけてください」

「そうだよ。正蔵兄ちゃん。あんなキモイのぶった切ってやれ」

「正蔵兄ちゃん。負けるな」

 五月、睦月、涼から声援を送られる。

 胸が熱くなるが、正直どうしていいか分からない。お互いの攻撃ではダメージが与えられず、周囲の被害ばかりが拡大しているのだ。


「ではヒントです。椿姉様、あのゲテモノの動力系統は何でしょうか?」

「それは、霊力蓄積型反応炉です。至近距離から確認しました」

「その霊力蓄積型反応炉のオリジナルは何の技術ですか?」

「アルマ帝国の鋼鉄人形」

「その通り。ゼクローザスを原型としてますね。それを高次元型の巨大な蓄積炉として建造した。そうですね。姉様」

「そうです」

「ゼクローザスの弱点は何でしょうか?」

「蓄積した霊力を使い果たした場合に無力化する」

「そうです。そこにいるゲテモノも同じです」

「あの高次元蓄積体を空にするのは何日もかかりますが、まさか……」

「そのまさかをやります」


 椿さんと翠さんの会話なのだが、俺には理解できなかった。その間も自衛隊と米軍の攻撃は続いた。ミサイルとレールガンの攻撃なのだが、相変わらずアル・デリアス・ベノムにはダメージが無かった。

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