第39話 苦戦して異界へのアンドロイド

「要するに、本体と高次元蓄積体を切り離すんです。高次元体であるが故に破壊は難しいのですが、本体との連携を断つだけなら比較的簡単だと思います」

「なるほど、概要は理解しました。具体的にはどうするのですか?」

「高次元化したスパイユニットを侵入させ、それを利用してソフトウェアを書き換えます。コレには小学生3人組に活躍してもらいます」

「私に任せて。鼻水をだらだら出してやるんだから」

「俺は腹痛でゲリピーにしてやるぜ」

「僕は水虫だ。痒くて痒くて家に帰っちゃうようにするんだ」

 五月と睦月、涼の三人が意味不明の抱負を述べる。皆やる気になっているようだ。頼もしい小学生だと思う。

「さあ、みんな指示通りにお願いね。椿姉様は完了するまで耐えてください」

「分かりました。問題ありません。正蔵様。やりますよ」

「了解」

 

 要するに、ハッキングをして無限ともいえるエネルギー源を断つ。それが完了するまで頑張って戦えって事だ。

 奴の放つビームを弾く。こちらもビームを放つがぐにゃりと曲げられ吸収される。剣撃を加えるが弾かれる。距離を取ったところへ自衛隊のミサイルが着弾する。


 もうむつみ基地の跡だとは分からない。建物の残骸も全て吹き飛ばされ、溶岩化した大地は赤黒く光っている。地形が完全に変わっている。

 

 もう何度打ち込んだか分からない剣撃を加える。

 左肩の青黒い鱗が剥げ、少しだけ傷をつけたようだ。至近距離からビームを放った。

 奴の左肩は粉砕され左腕がだらりと垂れ下がった。しかし、その傷口は急速に再生して粉砕された部位を再生していく。ゆっくりと左腕は元の位置に戻り、傷口も塞がってしまった。

「こいつ不死身ですか?」

「いえ、無限に再生出来る訳ではないと思います。シールドが弱くなってきています。恐らくエネルギー供給に制限がかかりました」

「あの子達が上手くやっているのか?」

「恐らく」


 また、アル・デリアス・ベノムが飛び掛かってきた。今度はクレドを押しつぶすように上に乗り、マウントポジションを取ってきた。剣を持っている右腕は抑えられてしまった。

 

 その時、翠さんから通信が入る。

「椿姉様。概ね完了しましたが、一ヶ所切断できない部分があります。それを切断すれば終わりなのですが、物理的手段が必要です」

「どうしますか?」

「クレドには、アル・デリアス・ベノムを押さえていてもらわなくてはいけません。切断が成功すればエネルギーが枯渇し、人口密集地へと侵攻する可能性が高い為です」

「では、誰が行くのですか?」

「正蔵さんに行っていただきます。クレドから一時的に離れても問題ないと思います」

「そうね。でも危険では……」

「椿さん。俺は行くよ。俺が行ってこの化け物を止めてみせる」

「分かりました。健闘を祈ります」

 仕方なく椿さんが同意した。

 そう言い切ったものの、自信なんてあるはずがない。どうしていいのかも分からない。とにかく何とかしなければいけないという義務感だけしかなかった。

「では正蔵さん。アセンションします。誘導は私がやりますからご安心ください」

「わかった」


 俺は再び虹色の光に包まれた。

 目の前には翠さんがいた。今日は長髪を三つ編みのおさげにしている。着ている服は紺のジャージ上下だった。胸にはひらがなで「よしのみどり」と書いた布が縫い付けてある。

「普段着はいつもそのジャージなんですか?」

「そうです。可愛くないですか?」

「いえ、可愛いと思うのですが、その、一部のマニアに大うけするとは思うのですが、他の服装のほうがもっと可愛くなると思うのですが」

「体操服の方が良かった?ブルマとか?でも、スク水はさすがに無理ですよ」

「いえ、そうではなくて、普通の服装でも良いというか」

「ミニスカートですか?ホットパンツですか?キャミソールですか?」

 何だか服装の種類に偏りがあり過ぎる。これはおかしいと思ったので聞いてみる。

「その知識は何処から?」

頼爺よりじい様です」

「やっぱりそうですか。なるほど」

「むう。正蔵さんのこの反応は、そうですか。あの爺様の言う事はイマイチ怪しいと思っていましたが、やっぱり怪しいのですね」

「そうかもです。アニメの話もですが、服装とか恋のABCとかかなりマニアックなオタク系の話だと思いますよ」

「なるほど、一般には認知されにくい話なわけですね」

「そうだと思います。ところで、こんな話をしていてもいいのでしょうか」

「そうですね。時間がもったいないですね。現場へ行きましょう」


 翠さんはそう言って歩き始めた。

 周りは光輝く空間で、結構眩しかった。翠さんは下を指さす。床と思っていた場所には床は無く、その下には赤黒い光と黒い雲に覆われた空間が見えた。

「ここはどこなんですか?」

「簡単に言うと、あのゲテモノを構成する高次元空間です。あそこに、黒い短剣が見えるでしょう?あれを使って連携を切断します」

「あれはシルビアさんが埋め込んだ短剣ですね」

「アルマの黒剣です。あれを使ってこの本体と蓄積型高次元体との連携を切断します」

「そんな事ができるんですか?」

「あれが最適なのですよ。偶然かもしれないですがいいタイミングで体内に入っていますね」

「俺が其処まで下りて取って来るんですよね」

「ええ。私は今は影ですから。本体は笠山ですよ」

「なるほど」

 翠さんは今、映像だけの存在なのだろう。

「大丈夫、意識を集中させて、ゆっくりと下りてください」

 翠さんの言葉に従いゆっくりと下に降りていく。空を飛ぶというよりは、水に潜ると言った方が近い感覚だ。そのまま数メートル潜って黒い短剣を掴み、また浮き上がっていく。

「これ、取ってきて良かったんですか?」

「本来の意図では作動しなくなりますね。黒剣の法術がかかっていたトカゲ大夫はラッキーですよ。まあ、優先順位を考えれば問題はないと思います」

「あのトカゲ大夫は心臓にこの短剣が刺さっていたんじゃないかな。それで生き残れるのでしょうか?」

「ここには肉体再生のフィールドが展開していますからね。多分、生き残れますよ」

 俺は黒い短剣を握り締めその刀身を見つめる。決して逃れることができないと言う法術も、他の事情で解除されることがあったわけだ。

「では正蔵さん。行きましょうか」

「はい」

 そうして俺達は上へ向かって浮き上がっていく。はるか上方に光り輝く巨大な構造物を見つけた。あれが高次元蓄積体なのだろうか。それから下に伸びるケーブルのような物を見つけた。

「そう、あれが高次元蓄積体です。そこから伸びるケーブルが本体と連携している経路です。さあ正蔵さん」

 翠さんの言葉に頷き手に持った短剣でそのケーブルを切る。

 その切れ端は膨大な量の光を放った。そして、高次元蓄積体も光りながら更に高い所でと上昇していく。そして巨大な光球となって光り輝き消えてしまった。


「これで高次元蓄積体は消滅しましたね。作戦成功です」

「意外と簡単でしたね」

「最初からそう言ってましたよ。さあ正蔵さん。クレドに戻って下さい。最後の仕上げが待っていますよ」


 その言葉に頷いた瞬間、俺はクレドの操縦席に戻っていた。

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