第37話 手錠とミミズと起動した悪魔のアンドロイド

 俺達はララ達と合流する為、例の格納庫へ向かっていた。今度は徒歩なので少々時間がかかる。ふと手首を見ると手錠の痕が黒ずんでいた。俺は変色した部分をさすってみる。特に痛みはないのだが、感覚が鈍くなっている気がした。

「あの手錠の痕は気にするな。2~3日で元に戻るよ」

「そうなんですか。いや、手錠当てただけでこんなに皮膚の色が変わるなんて驚きましたよ」

 シルビアさんは笑いながら答えてくれた。

「あれはな。霊力を抑える効果がある。帝国は霊力使いが多いから、ああいう枷を付けて行動を制限するんだ。アレを付けられると上級者でもアセンションできなくなる。簡単に言うとジャンプさせない道具だな。まあ、ララも椿もとっくに砕いているよ」

 なるほど。俺達は地上からこの戦艦にジャンプした。瞬間移動みたいなものだ。アルマの霊力使いなら普通にこなせるのだろう。それに対応する技術も普通に存在しているという事か。


 格納庫の扉が開いた途端、黒いヘルメットが転がってきた。ヘルメットの中には血まみれの生首が入っていた。中を覗くとそこには十名の兵士の死体と、追い詰められて震えているいる艦長と副官がいた。

 ララは仁王立ちをしているが、ちびっ子なので迫力がない。勿論、先ほどつけられた手錠は無くなっている。

「まさか、私のようなお子様に群がって来るとは思わなかったぞ。この変態め」

「信じられん、素手で、重装兵を屠った……10人も……本当に、本当に親衛隊の隊長なのか?単に血筋だけで就いた役職ではないのか?」

「先日、地上で実力差を見せつけたばかりだったのだが……報告を聞いていないのか?私が最強であるから隊長なのだ。他に理由はない」

 なるほど、シルビアさんが大丈夫と言っていた理由がよくわかる。ところで椿さんは何処にいるのだろうか。

「正蔵様、こっち見ないで!」

 そう言われればそっちを見てしまうのは仕方がない。

 そこには炭化した衣類の切れ端を身にまとった、何ともなまめかしい姿の椿さんがいた。

「あのミミズみたいなのがうわーって体中にまとわりついて来て、物凄く気持ち悪くて、ちょっと力が暴走しちゃって、へへへ」

 周囲には炭化したミミズの残骸が散らばっている。そのそばには炭化したミミズの山がある。

「アルゴルは、自身を構成する環形動物を相手の体内にもぐりこませて精神を支配すると聞きました。ハッキングで支配できなかった椿様を、このアルゴルの能力で支配できないか試したのだと思われます。椿様は気持ち悪かったのでしょう。高熱で焼き尽くされました。あれはレーザの少数民族で、大変珍しい種類の環形動物です。集合体となることで高度な意識と知能を発揮します。帝国内であれば特別天然記念物として保護されるべき対象なのですが、レーザでは冷遇されているようです。勿論、輸出入が禁止されている生物です」

 ララが説明してくれた。あのミミズが天然記念物でワシントン条約の対象みたいなものだったとは驚いた。確かに、あれで知的生命体だというのは大宇宙の神秘以外の何物でもない。しかし、あんなのに全身にまとわりつかれれば、誰でも気持ちが悪いだろう。

 俺は着ていたシャツを脱ぎ、椿さんに着せてみる。半袖だがまあまあ大丈夫そうだ。当然胸元は厳しい。しかし、こ、これは……裸より余計にエッチな雰囲気になるじゃないか。彼シャツってやつだ。興奮しそうになるのを必死で抑える。

 とりあえず素数を数えてみる。


 1……2……3……5……7……11……13……次は何だっけ??


「さあ、どうする?まだ逆らうか。大人しく退散するかだ。逆らうのは構わんが容赦なく殺すぞ」

 シルビアさんの言葉に艦長と副長は顔を見合わせ頷いた。

「分かった。言うとおりにする。これ以上の犠牲を払う事は出来ない」

「結構。良い心がけだ」

 

 艦長のボリヌアスとその副官が降伏の意志を示した時、そこにいた秘密兵器が突然起動した。全身につながっているチューブが強く光り、ひょろ長い体躯が徐々に膨らんでいく。

「人間などに降伏などするものか、心臓はくれてやる。俺はこのアル・デリアス・ベノムの心臓を貰う。裏切り者のボリヌアス。この艦もろとも破壊してやる」

 そこにいたのはメドギドだったのだが、彼は口から鮮血を吐いて倒れてしまった。しかし、その秘密兵器の胸が開き、そこから伸びる無数のチューブがメドギドを捕まえて胸に引きずり込む。胸が閉じその目に光が宿った。

 アル・デリアス・ベノムと呼ばれた秘密兵器は一たび咆哮しその眉間からビームを放った。ビームは艦体に穴を穿ち、あちこちで爆発が起こる。

「投棄しろ。アル・デリアス・ベノムを投棄だ」

「了解しました。アル・デリアス・ベノム投棄します」

 副長が復唱すると同時に床に円形の穴が広がり、アル・デリアス・ベノムは下方に転落していった。

「馬鹿な。アレを地上に落とすなどもってのほかだ」

「私はこの艦の安全を優先しただけだ。蛮族の事など知るか」

 シルビアさんは艦長に回し蹴りを食らわせ、その頭に足を乗せた。

「おい。貴様、名前は?」

「ボ、ボリヌアスだ」

「私達は早々にここを去るが、もう地球に手出しはしないと誓え。いいな」

「分かった。撤退する」

「それと、戦後交渉にはきちんと臨めよ。さもなくば私が貴様の寝所に行くぞ」

「分かっている。手続きは怠らない」

「よろしい。椿、自衛隊と米軍に連絡しろ。地上に降りる前に迎撃するんだ。レーブル級にも応戦させろ」

「分かりました。え?既に地上に到達。レーブル級を破壊しています。むつみ基地のイージス・アショアですが、ミサイル発射前に破壊されました」

「何だと?2万㎞をたった数秒で降下しただと?」

「はい。間違いありません。瀬戸内海の空母ゆうなぎ、日本海の空母あさなぎより叢雲発艦します。築城、石見両基地より草薙とF35発進準備に入りました。むつみ基地周辺に配置されていた10式戦車、および32式戦車部隊が行動開始しました。周辺に配置されていた普通科部隊も応戦開始。須佐のパワードスーツ部隊も発進準備中です」

 自衛隊が応戦体制に入った。しかし、自衛隊の装備ではあのアル・デリアス・ベノムには敵わないのではないだろうか。

 周辺の命を吸い取りながら侵攻する生体ロボット兵器。早く阻止しなければ犠牲者が続出する。

「椿さん。行きましょう。ここはすぐに動かないと」

「分かりました。シルビア様。先に下へ降りますが構いませんか?」

「構わん。行け」

「正蔵。任せたぞ」


 俺はシルビアさんとララの言葉に頷く。

 そして、椿さんの手を握る。


「正蔵様」

 

 椿さんに見つめられる。

 そうして再び虹色の光に包まれる。


 アセンションした。


 そしてまたロボットの操縦席に座っている。

 

 行くしかない。


 あの生体ロボット兵器アル・デリアス・ベノムを倒す為に。

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