第31話 枕話のアンドロイド
俺達は2時間程抱き合っていたと思う。その間何度精を吐き出したのか記憶にない。俺と椿さんはお互いに深く満足しているのは間違いがなかった。
「子供たちは?」
「夕方には家に帰しました。翠さん、ララ様、レイ軍曹も同行しています。マイクロバスは牧野士長に運転していただきました」
「そうか、それは良かった」
「多分、夏美さんに貸したオートバイが気になって仕方ないのではないかと思います」
「一応大丈夫みたいだよ。元気よく走ってたし、コケなかったし。それはそうと、俺達が秋吉台に乗り捨てたEV車はどうなってますか?」
「大破炎上しました。正蔵様に弁済責任が発生……」
「え?」
「しません。綾瀬重工もそんなケチじゃないですよ」
「よかった。それで、あそこら辺の被害については誰の責任になるのかな?」
「天災として扱うか、もしくはサレストラに請求するかでしょう。講和条約を締結できればです」
「賠償させることは出来るの?」
「当然です。まあ、通貨は違うのでお金での賠償は無理ですけど、金やプラチナなどの希少金属や放射性物質。技術供与などがあると思います。奴隷の供出も考えられますが、こちらからは断るでしょう」
「もう終わったと考えていいのでしょうか?」
「問題はそこなのです」
「というと」
「通常なら、私達、アルマガルムが出現した瞬間に戦争は終わるのです。絶対に勝てないからです。殲滅させられるよりは撤退を選択します」
「そうだね」
「でも彼らは違った。何か、策があるのです」
「策とは?」
「当初は私達アルマガルムが出現しないようにサイバー戦で日本を牛耳ろうとしました。しかし失敗した」
「そうですね」
「そこで今度は正蔵様を人質にとる作戦に出ました。アルマガルムが出現しない前提の作戦だったのです」
「しかし、予想が外れて失敗した」
「そうです。ああいった形で侵攻してくれば当然出てくるのが絶対防御兵器ですから。しかし、思ったほど取り乱していなかった」
「そうなんですか」
「まだいるんですよ。戦艦バーダクライドが」
「その戦艦ってヤバイんですか?」
「まあそうです。火力が半端ないですから。日本全土を焦土化するのに10分もかからないと思います」
「え?そんなに?」
「そう、半端ない火力をもつ超戦艦ですよ。露骨にクレド対抗策で建造してますね」
「それ、勝てるんですか?」
「勝敗で言えば200%勝ちます」
「200%ですか……」
「しかし、レーブル級巡洋艦の砲撃で秋吉台がああなったわけですから。バーダクライドと正面から撃ち合うと日本全土に相当の被害が発生すると予測されます」
「そうなの」
「そうですね。あともう一つ気になることがあります」
「気になる事?」
「ええ、気になります」
「それは何ですか?」
「何か秘密兵器を用意している事が分かりました」
「秘密兵器ですか」
「ええ、秘密兵器です」
「それはどんな?」
「捕虜としたオダラ艦長を尋問して分かった事実です」
「教えてくれたんですか」
「そのようです。何でもしゃべってるようですね。一旦捕虜になった者は帰国できても命がないか、もしくは相当冷遇されるようです」
「それは気の毒だな。帰れても殺されるんならしゃべるだろうな」
「そうですね。ただ、オダラ艦長もその秘密兵器の詳細については知らなかったようです。新型の戦闘人形が戦艦バーダクライドに搭載されている。それしか知らないと」
「僚艦の艦長にも秘密なんだ」
「黒剣も概要しか把握できていないようですね」
「黒剣って、名前を言ってはいけないあの人?」
「そう、シルビアさん」
「あ、言っちゃった」
「私は良いんです。仲良しですから」
「そうなんだ」
「ええ、仲良しです。それで恐らく次の作戦は戦艦バーダクライドの無力化です」
「無力化って、もう出来てるんじゃないの?」
「ああ、今のところはサイバー戦で優位に立っているだけで、そのうち艦の掌握は奪還されるでしょう」
「そうなんだ」
「そう。恐らくシルビアさんから招へいされると思いますよ」
「誰が?」
「正蔵様です。私も行くかもですけど」
「俺が?」
「そう。正蔵様」
「何で俺が?何もできないっぽいのに」
「うーん。それはですね。やはり祖国の危機にはその国の勇者が立ち向かうべきだと、そういう判断なのではないでしょうか」
「俺が勇者ですか?」
「勇者ですよ。自衛隊や米軍では歯が立たない相手を完全撃破しました」
「あれは俺の力じゃなくて椿さんと夏美さんの力だよ」
「いえ違います。正蔵様がいたからこそ発動した力なのです。夏美さん、寂しがってたでしょ?彼女一人じゃあの力は発動しないんです」
「そうなのかな」
「そうなのです。でも、私は実は結構と言うかかなりと言うか不満があるのです」
「それはどんな不満でしょうか?」
「私は、まあ、本体部分がアルマの方に置きっぱなしだから仕方がないのですが、あの、三次元化したスタイルは、嫌です」
「ああ、あのエグゼですね。ドラゴンの戦士みたいで恰好良かったじゃないですか。アレが夏美さんの本体ですよね」
「そう、エグゼ。ああいう野蛮なスタイルは好みではありません。優雅で美しいクレドの姿を三次元化すべきだったのです」
「それはどんな姿なの?」
「そうですね。地球で言われている『オルレアンの少女』といった風な気高く気品にあふれた容姿となります。翼を広げた天使のようだとも言われてます」
「ほほう。女神様ですね」
「そう、その気品にあふれた容姿のクレドに歯向かうと殲滅されるというわけです」
「なるほど。そのギャップがたまらないですね」
「次に三次元化する場合はクレドの姿にします。絶対に」
「夏美さんには了解を得てますか」
「いえ。納得させます。一時的ではありますが私から正蔵様を奪ったんですからその位のことは無理やりにでも納得させます」
「なるほど。女の子の戦いですか。なるほど」
「納得してるんじゃありません。全く誰のせいでこんなに悩まされてるんだか。分かってますか正蔵様」
話が一周して元に戻ったかもしれない。
俺は唯々頭を下げるしかなかった。
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