第30話 苦悩のアンドロイド
俺達はむつみ基地へ戻っていた。
捕虜としたレーブル級巡洋艦ラーダは空中に停泊させている。勿論、光学シールドを展開し一般からは見えないようにしていた。
秋吉台はかなり広範囲が焼け、長者が森なども焼け落ちてしまった。
土壌は所々溶岩化し、また白い石灰岩も所々熱で変質し大理石のようになってしまった。レーブル級巡洋艦の全力砲撃を受け、その熱量を周囲に拡散したためだ。
幸いなことに死者はいなかった。軽度のやけどを負った人が十数名いた。そのほとんどが証言していた。光の球に包まれて熱線を防いでもらったと。夏美さんの仕業だろう。俺は、近くにいた人の事など考えてもいなかった。地上付近であんな戦闘をすれば犠牲者が出てもおかしくなかった。
目先の事しか考えていなかった自分。
地元の景勝地は焦土と化した。
そして、異星人とはいえ人を殺した。
後悔はしていないと思う。
しかし、自分の為した事への責任が重くのしかかる。
親父からは「よくやった」と言われた。
あの時は俺の行動で何とかなった。いや地球を守ったのだ。
しかし、しかし、
責任の重さが俺を押しつぶす。
もう後戻りはできない。
この重圧に耐え続ける事が俺の人生となった。
そう感じた。
俺はむつみ基地内の宿舎にいた。そこの一室を借りている。
外はもう暗くなっている。夜の22時を回っているだろう。食事も風呂も済ませ、今から寝ようとしたところだった。
トントントン
ノックの音がする。
「正蔵様、入りますよ」
椿さんだった。
「お風呂は済ませましたか?」
「もう済ませている。今日は疲れたよ」
「そうですか。疲れましたか」
そう言ってベッドに腰かけている俺の側に座る。
もうパジャマを着ていて、今から寝ますよと言う格好だ。グリーンのアマガエルをあしらったプリント柄のパジャマだった。
「そのパジャマ。可愛いですね」
「ふふふ。これは、自慢の一品なのです。癒し系の波長を出す世にも不思議な魔法のパジャマです」
魔法のパジャマなど嘘なんだろうが、俺を癒そうとしてくれている椿さんの心遣いが身に沁みる。
彼女は俺の右腕に胸を押し付け、肩に頬ずりをしてきた。
「正蔵様。昼間、夏美さんと何をしてたのか全部知ってますよ」
「え?やっぱり知ってたの?」
「ええそうです。知ってます。実はかなり嫉妬してます。ムカついてます」
「椿さんごめんなさい。まあ、無理やりさせられちゃったみたいな感じだったので」
「それも知ってます。でも、途中からは獣のように犯してましたよね」
「あっ、知ってましたか」
「勿論です。夏美さんだけではなく、ミサキ様にまで手を出すなんて信じられない」
「それは成り行き上仕方なく……」
「あの人、アルマ帝国の第三皇女なんですよ。間違って妊娠しちゃったらどうするんですか?」
「どうするとか言われても……アルマの人と地球人で妊娠するんですかね?」
「当然です。遺伝子の形態はほぼ同じなんですから。勿論、婿入りするんですよね。ミサキ様を裏切らないですよね」
「そう言われても困るんですが……」
「精々困って下さい。例え正蔵様がミサキ様の所へ婿入りするとしても私は諦めませんから」
「そう言ってもらえると嬉しいかも……」
「でも酷いです。私が正蔵様の初めてを貰うんだと決めていたのに!」
そう言って俯く椿さんだった。肩が震え泣いているように見えた。
俺は椿さんの肩を抱いた。
「椿さんごめん。ミサキさんに薬を飲まされて体が動かなくなったんだ。それから、俺の精子が必要だってお願いされたんだ。協力してくれって」
「正蔵様の精子なら、私がいくらでも採取するのに。もう勝手なんだから!」
椿さんはパジャマの袖で涙を拭いている。
「でも、俺の気持ちは変わらない。椿さんが好きなことには変わりない。他の女性の事なんて考えられない」
「でも、夏美さんとミサキ様の感触が忘れられないんじゃないの?」
「ごめん。そうかもしれない」
「まあ、仕方ないかもね。あんな美女二人と初体験したんだから」
「ごめん」
俺は謝るしかなかった。
椿さんは俺に抱きついて来た。
俺を押し倒し、上に乗る。そしてキスしてきた。
「だったら、私が忘れさせてあげる。正蔵様が夏美さんの事もミサキ様の事も忘れて、私だけを見つめてくれるように」
またキスされた。今度は舌を絡めたディープキスだった。
俺達はいつの間にか服を脱いでいた。
俺は椿さんに抱かれていた。
全てを包まれていた。
不安や重圧、心の痛み、
そんな負の感情を全て融かしていくかのような安心感と幸福感を感じる。
今、魂の奥深くまで癒されている。
そう実感した。
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