第29話 そして宇宙へのアンドロイド

 上空から急降下してくる戦闘機が2機。ブーメランのような形状で尻尾が一本生えている。旋回する度に尻尾が曲がりくねってバランスをとっているようだ。

 銃撃してきた。


 また銃弾は途中で無効化された。


「向こうの弾は当たらないんですね」

「そう。自慢の防御フィールドを展開しています。戦艦のビーム砲でも無効化できますよ。でもその熱量が周囲に拡散しますので、ここで撃たれるのはマズイですけどね。でも大丈夫」

「それはどういう事?」

「朝言ってたカウンターシステムが絶賛稼働中です。おかげで戦艦級は沈黙してますね。ざまあ!です。はい」

「なるほど、それで三つ目を派遣してきたのか。見事に囮作戦成功なんですね」

「ええそうです。さあ。戦闘機もやっちゃいますよ」

「どうするんですか?」

「ジャンプして叩き斬ります。大丈夫。こっちが速いです」


 上空から2機が急降下してきた。今度は爆弾を投下してきたがそれを無視してジャンプした。

 降下してきた戦闘機2機を斬る。

 戦闘機の残骸と爆弾はそのまま落下して爆発した。


「さあ片付けますよ。光学誘導弾を使います」


 その瞬間上空を旋回している戦闘機10機に赤いマーキングが付く。まるでARゲームをしているかのような臨場感だ。視界に照準の緑色の輪と敵を示す赤のマーク。それが全てオレンジに変わった。


「ロックオンしました。どうぞ」

「撃て」


 俺の言葉に反応したエグゼの両肩から10個の光弾が放たれた。

 それはそれぞれ弧を描き戦闘機を捉えて命中した。

 10機の戦闘機は爆発し四散した。


 地上に残っていた二体の三つ目がビーム砲で射撃してくる。

 それにも光弾を放った。

 見事に命中し二体の戦闘人形は破砕した。


「どこかにこの連中を運んできた母艦があると思います。索敵中……おや。向こうから来ました。ビーム砲着弾します」


 左側から撃たれた。高度数百メートルの位置の空中にいた俺、エグゼにビームは命中した。

 勿論、こちらにはダメージはないのだがその膨大な熱量は周囲に拡散した。

 カルスト台地は黒焦げになり草や灌木が燃えている。


 巨大な銀色のエイのような姿。大型の戦闘艦が姿を現した。全長は概ね150m、尻尾を入れると300m。幅も300mと言ったところだ。平べったい形をしている。


「連合宇宙軍の巡洋艦です。レブール級。砲撃来ます」


 4基12門のビーム砲が一斉に光る。

 また着弾するがそのエネルギーは周囲に四散する。

 今度は先ほどより広い範囲が燃え上がった。


 新緑の秋吉台が燃えている。


「効かない。嘘だろ」

「一時撤退しろ」

「地上軍はどうしますか?」

「もうやられている。放棄。撤退だ」


 また敵の通信が聞こえる。

 俺は巨大なエイ、レブール級巡洋艦の上面に取りついた。

 空中を自由に移動できる。どんな原理で飛んでるんだか想像できないのだが、相応に気持ちのいい体験だった。

 巨大なエイはそのままの姿勢で一気に宇宙空間へ上昇する。凄まじい速度なのだがGは感じない。


「敵は甲板に取りついている。支援要請。助けてくれ」

「了解、支援に向かいます」

「艦載機は全て魚雷に換装しろ。換装出来次第発艦、全機発艦だ!」


 そんな通信が聞こえる。


「高度2万キロまで上昇しました。艦艇と艦載機接近します」


 周囲に小型の艦艇が接近してきた。黒いサメのようなスタイルをしている。

 ブーメラン型の戦闘機もうようよ出てきた。


「アークレイズ級駆逐艦6隻います。他にも艦載機ですね。先ほどと同型の戦闘機バートラス48機。大型の魚雷を装備してますね」


「ここはお帰り願おうじゃないか。それが平和的解決だろう」

「撤退勧告ですか」

「そう。ダメかな?」

「私と対峙して生きて返すことなどあり得ないのですが……ここは正蔵様の意向に沿う事とします」

「え?椿さんいつも皆殺しなの?」

「そうですよ。ちょっと前に説明したと思いますが、私、女神であると同時に容赦のない制裁を加える鬼神だと。それは、私に対して敵対する勢力は殲滅するという事です」


 そうだったんだ。

 アルマ星間連合で恐れられている防御兵器。最初は敵を操って平和的に解決するものだと思っていた。しかし、それだけで紛争が解決するとは思えない。侵略しようとする意志をも砕く容赦ない鉄槌を下すこと。それが椿さん、アルマガルムクレドなんだ。


「では撤退勧告をします」


『こちらはアルマガルムクレドです。今すぐここから立ち去りなさい。地球において、今後このような武力行使は認めません。もし、再び武力行使をするならば、次は全力で殲滅します。繰り返します……』


「信じられん。クレドが実体化している」

「どうしますか。勧告に従いますか」

「馬鹿な、逃げると処分される」

「撤退命令が出るまでは戦え」

「バートラス隊雷撃始め!」


 向こうも相当混乱しているようだ。

 巡洋艦の上に立っている俺、エグゼに向かって戦闘機から大型の魚雷を放ってきた。それではこの巡洋艦にも当たる……味方共々殲滅する彼らの戦法のようだ。


「椿さん。魚雷全部撃ち落として」

「レブール級を助けると?」

「こいつらを人質にできないかな?」

「なるほど。分かりました」

「光弾撃て!」


 再びエグゼの両肩から無数の光弾が放たれる。

 それは弧を描き戦闘機の放った48本の魚雷に命中する。


「次は戦闘機を狙え。撃て!」


 再び光弾が放たれる。光弾は逃げ惑う戦闘機を追いかけ命中し破壊する。

 破片はそのまま地表に向かって落ちていく。

 48個の目標を同時に撃破する。

 馬鹿みたいに強い。


「あ、破片は落ちてますね。デブリにはならないのかな?」

「ええ、現状、高度2万メートルですが、衛星のように軌道を周回しているわけではなく、重力制御で浮いている状態です。コントロールを失うと墜落します」

「なるほど、そういう事か。サメの方を墜とす。飛び移りますか?」

「武装を換装します。実剣をビームランチャーに換装します」


 エグゼはいつの間にか両手で大型の大砲を抱えていた。

 途端に周囲にいたサメ、アークレイズ級駆逐艦は魚雷を放ってきた。


「ロックオン完了、射撃どうぞ」


 俺は引き金を引く。抱えていた大砲から強烈なビームが放たれサメが爆散した。

 次々にサメを破壊し、サメが放った魚雷も破壊した。


「椿さん。もう一度降伏勧告。無理なら支配です」

「了解しました。おや?通信が入ってますね」


「こちらはレーブル級巡洋艦ラーダ。降伏する。捕虜としての待遇を求む。繰り返す。こちらはレーブル級巡洋艦ラーダ。艦長のオダラだ。クレドに降伏する。戦う意思はない」


 やっと矛を収めてくれた。


 ほっとした。


 しかし、俺は何をしたんだろうか。

 異星人とはいえ何人も殺したのか。

 あの戦闘機にも、三つ目の戦闘人形にも、サメのような駆逐艦にも……

 異星人が乗っていたのだ。


 俺が殺した。


 胸が締め付けられる。


 恐怖と罪悪感でどうにかなりそうだ。

 両手足がガタガタと震える。

 自分の意志ではどうにもならない。


 俺は震えを止めることができなかった。

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