第28話 秋吉台のアンドロイド
渋滞の中を秋吉台へ向かう。
ノロノロと進むのだが、周りも皆自動運転なのでラクチンなのだろう。
しばらくすると車がスムーズに動き出した。
さすがに連休最終日、午後には皆帰路につくのだろう。俺たちは秋吉台道路をゆったりと走り、緑萌えるカルスト台地を堪能する。この景色は見慣れている訳だが、新緑の季節の淡い緑色は特に美しいと感じる。
カルスト台地中央付近にある駐車場へ車をとめた。
「散歩しようか」
夏美さんの言葉に頷き二人で歩き始める。
「なあ正ちゃん。答は決まったかな?」
「俺はやっぱり、椿さんと一緒に戦いたい」
「そうかそうか。やっぱりな。フラれたかな?」
「そんな言い方はずるいです」
「いいんだよ。オレも心の絆で結ばれたいって思う事があるんだ」
「夏美さんはその魅力的だから、良い人すぐに見つかりますよ」
「それは気休めだよな」
「そうかもです」
夏美さんは黙ったまま俺の背中に抱きついて来た。
「ごめん。しばらくこのままで……」
夏美さんの言葉に頷く。
人の心を持ったアンドロイド。
その本質は絶対無敵の防御兵器。
普通の人として生きられない事がどんなにつらいのか、俺には想像できなかった。
その時、周囲の空間が歪んで見えた。その歪みの中から黒い三つ目の戦闘人形エリダーナが現れた。先日ララが素手で倒した大型の戦闘用ロボットである。
俺達の周りに6体。身長10m以上あろうかという戦闘用ロボットが6体である。
「綾瀬正蔵だな。我々に同行しろ。逆らわなければ手荒な真似はしない」
戦闘用の大型ロボットで囲んでおいて、これは手荒だろう。
その周囲にも黒い鎧のような戦闘服を装備した兵士が十数名いる。
「正ちゃん。覚悟は良いね」
「ああ大丈夫。でもどうするんですか?」
「椿姉さんをここに呼ぶ。中身だけな」
「え?意味わかんないんですけど」
「大丈夫、心配ない。目を瞑って」
俺は目を閉じた。
すると、以前椿さんと出会った公園にいた。池には錦が泳いでいて、小道の周りには色とりどりの花壇が広がっている。
目の前には夏美さんと椿さんがいた。
「正蔵様。夏美さんとのデートは楽しかったですか?」
「ええっと。最初は怖かったですけど、まあまあ楽しかったかな?」
ちょっとむくれた感じの椿さんに睨まれた。
「まあ、どこで何をしたかは聞きませんけど」
椿さんはジト目で俺を見る。やはり機嫌が悪いのかもしれない。
「まあまあ、時間ないし早速やっちゃおうな、な」
「やっちゃうって何するんですか?」
「だからやっつけるんだよ。あの黒い三つ目のゴリラ君を!」
「えーっと、あのロボットを支配して黙らせるんですよね」
「そんな悠長な事やってられないって。ぶっ壊す」
「マジですか」
「マジだ。オレはああいうハッキングだのクラックだの小せえことが嫌いなんだよ。じゃあ椿姉さんやるよぉ」
俺は光に包まれた。何も見えなくなった。
いや見えないんじゃない。光が強すぎて他のモノが見えないんだ。
「はーい。できたよ。10m級のアルマガルムエグゼ。超強いから思いっきりやっちゃってーな」
俺はロボットの操縦席らしきところに座っている。恐らく胸の部分だ。同時にロボットの目線で見ている。ロボットの中にいてロボットそのものになった不思議な気分だ。このロボットは概ね人型だが尻尾があり顔もドラゴンのようで細長い。
「今、ロボットの中にいるのが正ちゃん。ロボットが椿姉さん。でも正ちゃんと椿姉さんの意識が融合してるから正ちゃんはロボットでもある。今は五次元存在。さあ、三次元化するよ。3……2……1……はい!」
夏美さんの一声で巨大な光球と共に三次元化したエグゼ。周りのエリダーナが後ずさり離れていく。
「信じられない。クレドは実体化したのか?」
「違う。これはクレドではない。データと外見が異なっている。他のアルマガルムが覚醒したのか?」
「砲撃。砲撃だ。一斉射撃!」
何故か敵側の通信が手に取るようにわかる。
6体のエリダーナから一斉にビーム砲が発射されたのだが、全て命中寸前で無効化された。
続いて機関砲の射撃が始まる。
実弾の機関砲弾が飛んでくるのだが全て命中寸前で無効化される。
「正蔵様、やっちゃいましょう」
「どうすればいい?」
「思うがままに。普通に運動するように体を動かしてください。さあ、剣を抜いて!」
「分った」
いや、分かってなんか無いんだけどこんな奴らを野放しにはできない。
俺は剣を抜き目の前の黒い三つ目に斬りかかる。
そいつは、俺の一撃をかろうじて盾で受けるのだが、盾と共に真っ二つになった。
次のヤツは剣を胴体に突き刺す。こいつも盾ごと貫いた。
「支援要請だ。空爆要請しろ」
「こちら先遣隊、強力な敵機動兵器に遭遇中、至急航空支援を要請します」
「敵はアルマガルムなのか?」
「データにはありません。うわぁ」
今、ぶった斬った奴が通信していたのか。これで3体切り倒した。
胸の機関砲を撃ちながら一体が後ろから斬りかかってきた。
何故か後ろが見える。背中に目がついているんだろうか。
そいつの剣を交わし左足でキックをかます。
そいつは数十メートル吹っ飛んでいき動かなくなった。
残りは二体。
そこで上空に戦闘機が降下してきた。
自衛隊でもない、米軍でもない、この黒い三つ目の連中の近接支援機だろう。
「敵戦闘機12機。急降下してきます」
俺は椿さんの一言に頷き盾を構えた。
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