第25話 ニンジャのアンドロイド
米空母ロナルド・レーガン飛行甲板が大破……
そのニュースに食堂の皆が見入っていた。
機器の故障か?
飛行甲板上で航空機が爆発炎上した模様。
駐機してあった戦闘機F35C12機が次々の爆発。
現在、消火活動が続けられている。
「上空からの映像です」
アナウンサーに合わせヘリコプターからの映像に切り替わる。
飛行甲板から炎が上がっていた。
戦闘機が燃えている。周囲の小型船が放水しているのだが、火勢は止まらない。
「何があったんだ?」
夏美さんがニヤニヤしている。
「うーん。ファランクス君が乗っ取られたみたいですね」
椿さんが返事をした。
「何だ。味方に撃たれたのか」
夏美さんは嬉しそうだ。
「そのようです。飛行甲板は撃てないように設定されているはずなのですが、書き換えられたようですね」
「空母全部じゃなくて機関砲だけ乗っ取ったと」
「そういう事です」
俺の問いに答えた椿さんは腕組みをしてうなっている。
「うーん。これは早くカウンターシステムを実装しないといけませんね。みなさん、お食事済ませたら早速始めましょう」
「おおー」
お子様4人が元気に手を挙げる。
「椿姉さん。ちょっとさ相談があるんだけど。いいかな?」
「何ですか夏美さん」
角の方へ行って二人でなにやら話している。
合意したようで椿さんが俺に向かって話し始めた。
「正蔵様。今から夏美さんと外出してきてください」
椿さんが俺の手を握りじっと見つめる。
「多少の不安はありますが、今後の対応を考えるとこれが最善策だと思います」
「何をするのかな?」
「それはオレが説明する」
俺の言葉に夏美さんが返事をした。
「オレたちの敗北条件は何?椿姉さんを奪われることだろ?」
「そうだね」
「椿姉さん以外で弱点と言えば何だ?」
「それは……俺ですかね」
「そう、正ちゃん。君だ。正ちゃんを捕まえて人質にすれば椿姉さんは容易に手に入る。椿姉さんを狙うより正ちゃんを狙う方が簡単だ。と普通なら考える」
「そうかもですね」
「そこでだ。正ちゃんを囮にして、サル助の動向を探る。多分ネット上での偽情報が正ちゃんの動きに合わせて変化する事で把握できるはずだ。ついでに尻尾を出してくれりゃ儲けもの」
「俺を囮にするんですか?」
「そう。それとな。ターゲットを正ちゃんに絞らせることで、余計な被害を防ぐのも目的なんだ」
「あの空母みたいな事故を防ぐと」
TVでは飛行甲板が燃えているロナルド・レーガンの映像が流れ続けている。
夏美さんは頷いている。
「適材適所で行こうや。椿姉さんは情報収集とその解析なら力を十分に発揮できる。物理的な力が不足しているのをオレが補う。囮役は正ちゃんが最高に適役。お子様達はシステムの仕上げに不可欠。そういう事だ」
「ララと軍曹は?」
「ここの護衛だ。他に質問は?」
「何を使って何処へ行くんですか?」
「それを今から見に行こうじゃないか。うふふ」
不敵に笑う夏美さんであった。
俺たちは食事を済ませた。
「じゃあ正蔵様気を付けて。夏美さんよろしくね」
挨拶を済ませ子供4人を連れ、椿さんはイージス・アショアの方へ向かっていった。
軍曹もついていく。
「囮は任せたぞ。ここの事は私に任せよ」
ララに背中をバンと叩かれる。ララも軍曹の後に続いた。
「さあ正ちゃん。さっき、良いモノ見つけたんだ。見に行こうぜ」
夏美さんに連れられ裏手の駐輪場へ向かう。
そこにあったのは古い大型バイクだった。
カワサキGPZ900R。ライムグリーンのフルカウルが眩しい。マフラーはノーマルで二本出しだ。メーターを見るとフルスケールで270㎞/hまで目盛りがある。逆輸入車だ。フロントタイヤは17インチでフロントブレーキは6ポット。最後の方のモデルだろう。恐らく40年くらい前の車両だ。バーハンドルに改造してある他はノーマルなのが嬉しい。俺好み。
この元祖ニンジャはトム・クルーズ主演の映画「トップガン」でトム・クルーズが乗り回していたことでも有名だ。
ああ、こんなところでこんな名車に出会えるなんて。
もう死んでもイイって位感動していた。
コホン
咳払いがした方に牧野士長がいた。ヘルメットとキーを持っている。
「えーっと。お貸ししますけど。貴重な稼働車なんで大事にお願いします」
「任せときなって。萩に寄って頼爺の所で整備してもらうからな。タダで。大船に乗った気分でな。安心しろ」
「俺は?」
「タンデムシート」
バイクが一台しかなかったんで嫌な予感はしていた。
夏美さんは椿さんから借りたであろう大昔の飛行帽とブリティッシュデザインの4眼ゴーグルを装着している。ひらりと跨りチョークを引く。キーをひねってクラッチを握る。セルボタンを押した。
一発でエンジンがかかりウォーンと一気に回転が上がる。ガシャガシャという機械音もカワサキらしい。
夏美さんはチョークを戻し回転が落ち着く。ドルルルルルと落ち着いた排気音に変化した。ギアをローに入れ走り始める。ブレーキの感触を確かめたり、タイヤの感触を確かめたりしている。八の字に旋回した後、ウイリーして帰ってきた。
その過激な乗り方に牧野士長は気が気では無い様子だ。
片耳にインカムをつけてヘルメットをかぶる。借りた皮手袋をつける。夏美さんも手袋をしていた。
夏美さんがタンデムシートをポンポンと叩くので、仕方なくそこへ座る。両足をタンデムステップに乗せ夏美さんの腰に両腕を回した。
夏美さんが左手を振る。顔を引きつらせながら牧野士長も手を振る。
クラッチを切ってギアをローに入れる。
夏美さんは一気に加速しむつみ基地から出て行った。
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