第24話 なりすましのアンドロイド

 夢を見ている。

 きっとそうだ。


 俺は何かがやりたくて仕方がないのだが、手が届かない。できない。

 近づくと離れる。飛びたいのに飛べない。

 焦燥感が募る。


 目が覚めた。


 今のは何だったのか。何がしたかったのか。分からない。

 いつもこうだ。夢で何か大事な事を経験しているはずなのに、目が覚めるときれいさっぱり忘れている。その忘れ方は尋常ではない。

 メモリーを消去したような、いや、そもそもメモリーに記録されていないんじゃないか。そう感じる。これは脳に記録されていないからではないだろうか。夢は魂が見ている。脳は見ていない。そう考えれば辻褄が合う気がする。

 そんなくだらないことを考えていると椿さんが起こしに来てくれた。

「正蔵様、朝ですよ」

「ありがとう。起きてるよ」

「食事に行きましょう。もう用意できているそうですよ」

 俺たちは食堂へ向かった。


 食堂にはララと軍曹がいた。食事は既に済ませているようでTVを見ている。白飯とみそ汁、焼き鮭に海苔と生卵というオーソドックスなメニューだった。

 TVでは昨日の事故の件が盛んに報道されている。

 改装空母いずも沈没。萩市むつみ基地から対艦ミサイル誤発射で空母艦載機が発艦。むつみ基地は閉鎖中。防衛省、総理府、内閣府などのHPがハッキング被害に遭い、内容が書き換えられた。昨日あったことを結構詳しく報道している。まあ、俺たちがここに来て奪還した事は報道されていない。官房長官は事故、故障を挙げていたが、異星人のハッキングという言葉は聞かれなかった。

「昨夜のうちにかなり奪還出来ましたよ。ここで構築したダミーシステムをイージス艦あたごと秋田のイージス・アショアに実装しました」

「凄いね」

「ええ。まあ私達がチート技みたいなものですからね」

「なるほど。大尉の技術が俺たちにとってチート技。しかし椿さんはその上を行くって事かな?」

「そうですね。今日の午前中を目途に、カウンターシステムを実装します」

「それはどんなものなの」

「侵入しようと攻撃してきた相手に対して、逆にクラッキングします。最低でも敵のシステムに障害を発生させます。できれば宇宙戦艦丸ごと分捕ります」

「分捕るの?」

「ええそうです。丸ごと人質にしてもう地球には手出ししないと約束させます」

「ええっと。そんな事出来るの?」

「私の本体があれば簡単なのですが、現状では五分五分かと。戦術ネットワークもほぼ奪還していますからね。そこへ入ってきたらガツンとカウンターしてやります。万一失敗した場合に備えて停止信号の解析も済ませてあります」

「なんかすごいな」

「しかし、掌握できているのは自衛隊だけ。米軍は一部です。米軍もですが、半島や大陸の勢力が乗っ取られてミサイル発射した場合、対応が後手に回ります。それが一番危険です。残念な事に現状のミサイル防衛は50%程度しか機能していません」

「大丈夫なの?」

「単発でのミサイル発射なら十分対応できるのですが、飽和攻撃された場合はお手上げですね」

「飽和攻撃か。そんなことすりゃ第三次世界大戦勃発するな」

「ええ。まともな指導者では選択しない作戦ですが、サル助ならどうでしょうか。やけっぱちになって地球を放棄とか、最悪の選択をされてはかないません」

「そうだよね」

「今現在、情報戦も仕掛けてきてますね。政府機関のHPは抑えてありますが、民間はそうはいかないので、例えば2.5chの書き込みで、『改装空母いづもの沈没は綾瀬重工の策略――これで凍結されていた正規空母“せきらん”竣工乙』とかですね。『萩のイージス・アショア不具合は異星人の仕業――異星人を地球から追い出せ』ですが、リンク先に正蔵様の顔写真がupされてました」

「俺が異星人って事にされてるの?」

「迷惑異星人ですね。おや、ヨムカクに新作小説がupされましたね。『異星人が地球に来てハーレム生活~チートで地球の女は俺のモノ~著:綾瀬正蔵』です。うふふ」

「俺のなりすまし小説か?でも、すごく楽しそうですね」

「ええ。私も小説書きたくなってきました。『椿と正蔵~愛の逃避行』とか、『SF地球防衛軍~綾瀬艦長の決断』とか、『スーパーロボット正蔵の苦悩』とか、18禁の官能小説もイイ。ああ、アイディアが溢れる……」

「椿さん。小説書くのは良いんですけど、実名出さないでくださいね」

「もちろんです。でも、小説書いてる時間があれば正蔵さんとイチャイチャしたいです」

「朝から熱いね~」

 夏美さんがお子様4人を連れてきていた。

「翠さんは?」

「ああ、CICで何かやってる。さあ小さき勇者よ。食事を済ませて最後の仕上げをするよ」

「おお!」

 4人共元気いっぱいだ。

「みんな。名前は決まったかな?」

 椿さんの質問に子供たちが手を挙げる。

「では、五月さん」

「私はスーパー・アクティブ・カウンターです」

「俺はカウンター・ファイア」

 睦月が答える。

 次にゼリアが口を開く

「攻撃型防御壁」

 最後に涼。

「みんなユーモアが無いんだよ。僕が考えたのは次元パッ君シューターです。カウンターでパッ君を飛ばすんだからこれが一番だ!」

「おお。なかなかの秀作ぞろいだな。決定は作業チーフの翠だ。さあ、食事を済ませいざゆかん!」

「おお!」

 皆でガツガツ食べる。元気のいい子供と一緒にいると、自分も元気になるから不思議だ。

 そこにニュース速報が流れる。


 米空母ロナルド・レーガン飛行甲板が大破……


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