第23話 無力のアンドロイド
俺たちは元いた場所へ戻っていた。
イージス・アショアのデッキハウス4F。レーダーやらの機械類がごちゃっと詰めてある区画だった。
「異常はありません」
ニコニコしながら椿さんが言う。
「一応仕事したんだね」
「はいそうです。ちゃーんと確認しましたよ。怪しいモノは何もありませんでした」
「どうしますか?」
「そうですね。そろそろお子様達が限界じゃないかしら。もう寝かさないといけませんわ」
時計を見ると11時を回っている。
「下に降りようか」
「ええ」
俺たちは階段を使い下へ降りていく。1Fに着いた所で牧野士長に出会った。
先ほど、軍曹たちがKOした隊員たちの手当てをしていた。
俺たちに気が付くと立ち上がって敬礼する。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。どうぞお手当を続けてください」
CICを覗くとお子様達はデスクの突っ伏して眠っていた。
「仕上げは私達三姉妹でやります。正蔵様は子供達を連れて休んでください」
翠さんの言葉に夏美さんは不満げだった。
「え~まだやるのかよ。だりいなぁ」
「夏美さん。眠らなくても良いのは私達だけですよ。皆さんには休んでもらいます」
椿さんの一言で渋々頷く夏美さん。
「わかったよ。あ、正ちゃん。椿姉さんは朝までこっちで預かるからね。スマン」ニヤニヤ笑っている。
俺達がベッドで語り合える夜は来るのだろうか。
そこへ入ってきたのは横瀬一尉だった。紀子博士宅で出会った自衛隊幹部である。
敬礼して挨拶する。
「お疲れ様です。牧野は役に立ちましたか?」
「ええ。大変心強かったですわ」
翠さんの返事に横瀬一尉は満足そうである。あの人何かしたっけ?と突っ込むのは止めにする。
五月と睦月は何とか起きたのだが、ゼリアと涼は目覚めない。俺が涼をおんぶし、軍曹がゼリアを抱きかかえる。
「ふん。お子様だな。全く」
見た目はゼリアとそう変わらないララがつぶやく。
「牧野士長。皆さんを宿舎へ案内してくれ」
「はい」
牧野士長は元気のいい返事をする。
俺たちは牧野士長に案内され外へ出る。少し離れているヘリポートに綾瀬重工のオスプレイが駐機していた。パトカーや救急車も続々到着している。
「いや~よく分からないですけど、施設のコントロールは奪還。ゾンビもどきになってた人も回復したようですね」
「ええ。この子たちのおかげです」
俺が返事をした。
「何といいますか、量子コンピューター搭載の高性能アンドロイドと小学生の協力プレイでハッキングされたシステムを全て奪還したんですから。凄いです。自衛隊の隊員じゃ歯が立たなかったみたいですからね。子供と一緒に大事を成す。良いですね。アニメみたいだ」
そうかもしれない。しかし、俺は何をしたのだろう。
何もしていないじゃないか。
椿さんに連れられて来て、ちょっとイチャイチャして、それだけ。
「スピカは連星なんだよ……」
眠っていた涼の寝言のようだ。寝ても天文。大した奴だ。
スピカを探すには……
まず北斗七星を探す。
見つけた。
ひしゃくの柄を伸ばしていく。
明るい星がある。
牛飼い座のアークトゥルス。
更に伸ばす。
青白い明るい星が見える。
あった。
おとめ座のスピカ。
春の大曲線。
俺でもわかる春の夜空。
涼の奴は、将来天文学者になるつもりなのか。
この子ならやれるだろう。
「正蔵さん。こちらですよ」
牧野士長に声をかけられた。
宿舎の中へ案内された。
6畳くらいの部屋に2段ベッドが4台ある。子供達を寝かせる。ララは自分で毛布にくるまった。軍曹はベッドが小さいからと床で横になる。
俺もベッドに横になる。
毛布をかぶるがなかなか寝付けない。
自分は何もできない。
この事実が頭の中を駆け巡る。
自分は大学で不真面目だった。
しかし、経済学を勉強していたら何かできたのか?
出来るはずがない。何もできない。
英会話が得意だから何かできるか?
何もできない。
バイクの修理ができるから。バンク修理は任せておけ。
ここでは何もできない。
そう、普通の大学生にできることはない。
俺は何だろう。
椿さんに好かれている。
椿さんを好いている。
これが何か大きなことなのだろうか。
他所の星で問題になる防御兵器。
地球でも問題になりつつある椿さん。
俺は彼女を守らなくてはいけない。
しかし、力はない。
堂々巡りの思考はだんだんと鈍くなり、いつの間にか眠っていた。
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