第16話 戦略会議のアンドロイド②

「同時多発的に攻めてくるのではなく、小出しで事件を発生させて揺さぶり、徐々に追い込む。そういう作戦だというのかね」

 親父の質問に黒剣が頷く。

「具体的な方法は言えないが、直接本人から情報を吸い取った。間違いない。それと、次の目標はむつみのイージス・アショアだ。そこに配備されている巡航ミサイル8発で岩国基地を狙う」

 後藤が青ざめて問う。

「トマホークは自衛隊には配備されていないはずではないのか?横瀬君」

「私も詳しい事情は知りませんが、先月確かにMk-41VLSが1モジュール追加で設置されました。それにはSM-3とは別のミサイルが入っていると、トマホークではなく日本製の巡航ミサイルだと聞きました」

「そうですか。巡航ミサイルは憲法上問題があるので……」

 後藤が訝し気に首を振る。

 そこへ親父が口を挟む。

「後藤さんすまないね。それはウチが作っているヤツなんだ。テストは米国で済ませている。トマホークよりも射程は短いし対艦用なんだ。あくまでも対艦。ここは重要だよ。これなら憲法上問題はないだろう。調達予算は来年度になる予定だ」

「射程1200㎞もあればどこまで届くかは一目瞭然。そんな射程で対艦ミサイルだって強弁するのはちょっとね。色々ウザイでしょうけど。ふふふ」

 紀子博士がほほ笑む。何故か嬉しそうだ。

 その時横瀬の携帯が鳴る。続いて後藤の携帯も鳴った。

「なに?イージス・アショアから巡航ミサイルが発射された?」

「巡航ミサイルが?目標は?岩国基地だって??」

 慌てているのは後藤と横瀬だけだった。

「1モジュール8発全て発射されたようですね。今から90秒前です。着弾まで約6分」

 椿さんが喋り始めた。解説を始める。

「周防大島付近に停泊中の空母ゆうなぎより既に迎撃機が2機発艦しています。今また2機発艦しました。叢雲むらくもが計4機出てますね。接触まで約3分。岩国基地よりスクランブル。F35Bが2機発進しました」

 椿さんはある程度標的が把握できれば遠隔透視できるみたいだ。これも防御兵器としての機能なのだろう。

「この情報は事前に黒剣さんから伝えられていたんだ。予想よりも時刻は早かったが準備は出来ていたようだな」

 親父の言葉に後藤と横瀬は顔を見合わせる。信じられないと言った風である。

「叢雲は初実戦だな。きっちりと仕事してくれよ。評価が上がると今後の仕事がはかどる」

「兄さん。ここで商売の話は止めてください。恥ずかしいんだから」

「スマンな」

 親父が頭を掻きながら頭を下げる。

「叢雲、接触します。1、2番機がミサイル発射しました。計4発。命中。巡航ミサイル4基撃破しました。続いて3、4番機がミサイル発射しました。計4発。3発命中。巡航ミサイル3基撃破。残1。叢雲は上空へ退避。海兵隊のF35Bよりミサイル発射。命中。巡航ミサイル撃破。民家のない空域での排除成功しました」

「おお、やったな」

 後藤と横瀬が手を取り合って喜んでいる。

 また、横瀬と後藤の携帯が鳴る。

「ああ、わかっている。今、例の方が実況してくれたんだ。素晴らしいぞ」

 興奮気味に横瀬が会話している。

「はい。今もこちらであの方が実況されましたので事態は把握しております。はい、承知しました」

 後藤が電話を切り話し始めた。

「只今首相から指示がありましたのでお伝えします。今後は基本的に綾瀬重工警備部が中心となって事を進めてください。武力行使の必要があれば即時対応しますのでお知らせくださいとのことです。尚、私は皆さま方と行動を共にいたします」

 続けて横瀬が口を開く

「私は当初の計画通り皆様の警備にあたります」

「分かった。ありがとう」

 親父が頷いた。

「此処で一旦休憩としよう。それから正蔵、お前はもう外していい。椿さんもな。後はこちらで話を進める」

 紀子博士がタブレット端末を見せながら話し始めた。

「皆さま、スマートフォン及びスマート端末をお持ちの方はの方はこちらのアプリをインストールしてください。例のマルウェアに対応するセキュリティです」

 タブレット端末には『ゴースト♡パックン』と表示されている。

 黄色くて丸いモノが画面上を所狭しと動き回っている。口を開けパクパクと何かを食べながら……。

「これはパックマンのパクリですね。そっくりだ」

「そんなことはどうでもいいの。市販しないんだから気にしないの!私と大尉が2日完徹して作ったんだから有難がってインストールしなさい。いい?」

 実は、俺はスマホの扱いには慣れていない。電話をかけるとかネットを見るとかはできるんだが、電話帳の登録であったりアプリをインストールとかアンインストールとかどうすればいいのかよく知らないのだ。今時の大学生ではかなりIT音痴な部類に入るだろう。

「ちなみに。例のマルウェアに感染した場合、ゴーストが沢山画面上に出現します。それをアプリが認知すると黄色いパッ君が出てきてゴーストをパクパク食べちゃいます。ゴーストを全て食べつくしたところで除去完了です。マルウェアは4次元憑依型なので侵入を防ぐ手立てはありませんが、このパッ君を常時待機させておくことで侵入されても速やかに除去できます」

 デモ画面ではゴーストの群れがワサワサと登場しパッ君がそれをパクパクと食べ始める。その時の鳴り響いた元気な音楽がだった。ここまでパクッてるとは驚きだ。

 モタモタしている俺に代わって、インストールは椿さんがやってくれた。

「ほら、カメラを起動してQRコードを読み込んで、チョイチョイのチョイ!ほーら出来た」

 流石は高機能AI搭載型だ。地球に来て1年位なのに、俺よりもスマホの扱いが上手い。

「パックマンの世界観とこのサイバー戦の様相が似ていたものでしてね。あの名作からちょっと拝借させていただいたのです。まあ版権には興味がありませんので、何か問題が起きれば、コレをバンダイに譲ってそこから売ってもらえればイイんですよ」

 大尉なりの弁明である。確かに、4次元憑依型という事は幽霊みたいなものがワサワサやってくるんだろう。パックワールドそのまんまだよ。全く。


 俺は椿さんと一緒に部屋を出た。廊下を進むと見晴らしの良いロビーがありそこへ座る。ちょうど夕日が海に沈む所だった。空は夕焼けに赤く染まり暗くなっていく、一番星、金星が輝いているのが見えた。

 そこへメイド服のアンドロイドみどりさんが飲み物を持って来てくれた。

「アイスコーヒーでよろしかったでしょうか?」

 俺が頷くとテーブルにコースターを置きアイスコーヒーとストロー、シロップ、ミルクを置いてくれる。彼女は一礼して下がっていった。

「こうして夕焼けを眺めるのって、ロマンチックですね。胸がドキドキします」

 確かに。ドキドキする。本当にドキドキするぞ。このまま椿さんを抱きしめキスしたい欲求が湧き出てくるのだが、ここは自重しなくてはいけない。


 そこへ幼馴染小学生6年生三人組とゼリアがやってきた。

「正蔵兄ちゃん全然遊びに来ないんだから。寂しかったぞ!!」

 そう言ってきたのは従弟になる綾瀬睦月あやせむつき。親父の兄の綾瀬源一郎あやせげんいちろうの息子。両親を亡くし、今はこのだだっ広い家に住んでいる。こいつは日本人のくせに何故か色黒だ。

「椿さん相変わらず巨乳です。ふるふる揺れてます!!」

 馬鹿な実況をしているのは赤城涼あかぎりょうだ。サラさんの息子で金髪碧眼。睦月と二人でいると外人の子供二人組にしか見えない。

 涼が手を伸ばし椿さんの胸に触ろうとした瞬間に……

 ゴキ!

 鈍い音がする。

 涼の頭に椿さんの鉄拳が炸裂する。チタン合金の骨格だからチタン拳か??

 涼は目に涙を溜めながら、泣き言をいう。

「まだ触ってないのに、グーで殴るなんて酷い」

 その時、背後に回り込んだ睦月が巧みな指さばきで椿さんのブラのホックを外した。

(俺だってまだ外してねえのに何てことをしやがるんだぁ!!)

 と叱ろうとしたところへ睦月の頭にもゴツンとチタン拳が炸裂した。

 睦月も目に涙を溜めて泣き言をいう。

「痛いよ椿さん。勘弁して」

 仁王立ちした椿さんは二人を正座させる。

「セクハラは厳罰だって言ってるでしょ。今度やったらサラさんに言いつけますよ」

 二人は途端に青ざめ土下座する。

「すみませんでした!お母さんにだけは言わないでください!!」

「ごめんなさい!サラさんにだけは言わないで!!もうしないから!!!」

 必死の懇願である。この反応をみてサラさんって、物凄く怖いんだという事が分かった。

「もう馬鹿。大馬鹿、救いようのない馬鹿」

 冷めた目つきで二人を見下ろすのが西村五月にしむらさつき。綾瀬重工警備部の隊長、西村健吾にしむらけんごさんの娘だ。この子はちょっとおませさんなんだが……

「正蔵さん、さっきから椿さんといい雰囲気でしたよね。まるで恋人同士です。妬けちゃいます」

 ぷっとむくれて不機嫌一杯の表情をする。

「そう言われても困るんだけど」

「正蔵さんは私のプロポーズを受けてくださいました。私の結婚相手は正蔵さんしかいないんです。浮気は許しません!!」

 ブルブルと首を振る。三つ編みにしたおさげが二本揺れているのが可愛らしいのだが、こいつはまだ小学6年生だ。そのプロポーズとやらは7年前彼女が年中さんの頃だったと思う。その時俺は中学生だった。あの時そんな馬鹿な返事をしなけりゃ良かったと思うのだが後の祭り。

 ゼリアが俺の袖を引っ張り小声でささやいてくる。

「睦月君にこれ貰ったんだけど、どうしよう」

 そう言って俺に見せたのは草刈り機用エンジンの小さいピストンだった。

 睦月め。やりやがった。

 睦月は俺と趣味趣向が似ていて機械類が大好物なのだ。さっきゼリアが睦月の所へ案内されたのを見て一抹の不安があったのだが見事に的中した。

 こんなモノ貰って喜ぶ奴はいねぇよな。しかし、あいつなりに自分の大事なものを初対面の友人に差し出す心意気は買える。

「これはな。睦月の大事な宝物なんだ。ゼリアもな。これを宝物にするといい。大事に仕舞っとけよ。な」

 俺は笑いをこらえながらゼリアに言い聞かせる。ゼリアもそのピストンを握り締め深く頷くのだった。

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