第17話 カレーパーティーのアンドロイド

 その後すぐに俺達は夕食会場へと案内された。

 3Fのこじんまりとした和室である。そこへ案内されたのは俺とゼリアと小学生3人組、そして何故かララと軍曹もいた。

「私は武闘派だからな。ああいうサイバーなんちゃらは性に合わんのだ」

「私もです。居眠りしそうになっていたところで追い出されました」

 何故か椿さんもメイド服に着替えて給仕をしているではないか。

 見栄えの良い光景である。

 椿さん、夏美さん、翠さん。大柄、通常、小柄、3タイプのアンドロイド姉妹の給仕姿はなかなか様になっている。

 今夜のメニューはカレーライスとミックスフライのセット。お子様向けと大人向けでは量が違うしカレーの色が違う。お子様向けにはオレンジジュースが付き、ライスに日の丸の旗が立っていた。

 ララの所へもお子様向けのセットが運ばれるのだが何故か不満そうである。

「私はガキ扱いか?」

「見た目は小学4年生ですが……」

 俺の返事に更にむくれるララ。

「私は見た目通りの精神年齢ではないのだが。まあ仕方ないな」

「ところで、パーティーは中止ですか?ここに来るときに言ってましたよね親衛隊萩支部の発足記念だとか」

「仕方なかろう。がミサイルぶっ放してしまったからな。中止だ」

「なるほど」

「ララ様。冷めないうちにいただきましょう。あ、メイドさんお替りは?」

 腹を空かせた軍曹が訪ねる。

「カレーライスは十分用意がございます。どうぞおなか一杯お召し上がりください」

 一番小柄な翠さんが返事をした。

「ではいただきましょうか」

 俺が声をかける。

「頂きまーす」

 皆が合掌し揃って声をかける。

「旨!」

「美味しーい」

 お子様たちは喜んで食べて始めた。

 俺も一口食べてみるのだが、旨いじゃないか。

 軍曹は早くも一皿平らげお替りを要求していた。

「特盛りで!!」

「かしこまりました」

 笑顔の椿さんが皿を受け取る。

 これでもかという位の山盛ご飯にたっぷりカレーをかける。

「てんこ盛りにしちゃいましたけど、大丈夫?」

「椿様、任せてください」

 特盛のカレー皿を受け取った軍曹はそれもペロリと平らげてしまった。

 更にお替りを要求しそうなところでララが制する。

「レイ軍曹。皆の分を残しておけ。以後のお替りは皆が食べ終わってからにしろ」

「はい。承知しました」

 消沈した軍曹がエビフライをかじる。

 皆しゃべるのも惜しいくらいの勢いでカレーを食べている。

「コレ誰が作ったの?すごく美味しい」

 俺の質問に対して夏美さんと翠さんが揃って手を上げる。

「私達が作りました。こくまろ中辛とゴールデン中辛をベースに秘密の香辛料etc.+リンゴと蜂蜜とヨーグルトとお味噌と甘口のお醤油を少々。大人用とお子様用は配合割合を変えてあります。お肉は見島牛ではありませんが、萩産の黒毛和牛のロースをサイコロステーキでのせております。フライの方は冷凍食品ですね。パーティー用に用意していたものを盛り合わせました」

 なるほど、カレーの旨さと比較してフライの方は普通の味だ。萩の新鮮な食材を使うには準備の時間が足りなかったのだろう。

「お替り!」

「僕もお替り!」

 お子様たちがお替りを始めた。

 ゼリアも遠慮がちにお替りをする。

 大人数でする食事は楽しいものだ。そういえば俺は子供のころからいつも一人で食事をしていた。親父は会社に入り浸りで母は社交的な会合へと毎日のように出席していた。今となっては旧式となった綾瀬重工製のアンドロイドに面倒を見てもらっていたことを思い出す。こんな家庭になるなら会社なんてどうでもいい。そう思っていた。


 早々に食事を終えた俺は一人で外に出る。楽しい雰囲気が苦手なのかもしれない。ひねくれた性格だと自分が嫌になってくる。露天風呂にでも入ろうか、そう思った時後ろから椿さんが声をかけて来た。

「正蔵様。どうされたのですか?」

「何でもないよ。さっきの食事が楽しかったんだ」

「では何故早々に退席されたのですか?」

「俺はああいう経験が少ないんだ。だから気恥ずかしかったんだ」

「そうなんですか。では、外出しませんか?」

 よく見ると椿さんはメイド服から先ほどのジーンズに着替えていた。綾瀬重工警備部のジャケットに飛行帽を被っている。のど元に例の4眼ゴーグルをぶら下げている。

「外出ってどこへ行くんですか?」

「むつみ基地に行きます。ちょっと問題が発生しそうなのであそこを抑えに行きます」

「親父たちは?」

「まだ会議中です。当分終わりそうにありません」

「問題って?」

「行ってからのお楽しみ」

 そう言って俺たちが乗ってきたトヨタカローラEVのロックを解除する。

「抜け駆けは許さんぞ」

 いつの間にかララと軍曹が来ていた。

「食後の腹ごなしに運動したいな」

 指をゴキゴキ鳴らしながら軍曹が言う。この人の食後の運動って殴り合いなのかと疑ってしまうのだが、万一の時は心強い。

「正蔵にいちゃんどこ行くの?」

「僕たちも行くよ」

「椿さんと二人っきりにはできませんわ」

 小学生3人組も来た。その後ろにはゼリアがいる。

「自分も椿様から離れるわけにはいきません」

 目を見開き必死に訴えている。こんなメンバーで出発してもいいのだろうか。

 しばし考えていると夏美さんと翠さんも来ていた。

 夏美さんはジーンズに革ジャン。大きなバスケットを抱えた翠さんは何故か紺のジャージ姿である。胸にはひらがなで「よしのみどり」と書かれた白い布が縫い付けてある。

「コレ、ちょっと伸びてないですか?椿姉様もしかしてコレ着ちゃったとかですか?」

「ちゃんと洗ってるから心配しないで」

 ニコニコしながら椿さんが返事をするのだがそういう問題じゃない気がする。

「もう、椿姉様。私の服は着ないでってあれほど言ったのにまた着ちゃってるんだから。胸もお尻もサイズが違い過ぎるんです」

 翠さんは大人しいイメージだったのだが意外と活発なようだ。

「まあまあ小さいことで喧嘩はしない。これからガツンって喰らわせてやる。腕が鳴るぜ!」

 夏美さんの方は活発どころか随分勇ましい印象だ。胸も大きい。

 さて5人乗りのカローラEVにはこれだけ乗れない。

 睦月がぼそりと話し出す。

「あの、マイクロバスがあるんですよ。外板に穴が開いてて雨漏りするんですが今夜は晴れてるので問題ないかと。中身は頼爺の所でバッチリ整備できてますから心配ありません」

 睦月の指さす方に車庫があり、元のホテルの銘がそのまま入っている古いマイクロバスがあった。睦月はそのマイクロバスのキーを持っていた。

 椿さんがキーを受け取りエンジンを始動する。

 ディーゼル車特有のガラガラというエンジン音が辺りに響く。

 始動直後でまだエンジンが温まっていないせいか、マフラーからもうもうと煙を吐いている。


 そこへ警備の自衛官が走ってきた。

 敬礼をして名乗る。

「自分は牧野幸次士長であります。どちらへ行かれるのでしょうか?」

「おお、いいところへ来た。これから皆で天体観測に行くのだ。貴様も来い。夜食の弁当もあるぞ」

 翠さんが大きなバスケットを見せる。本当にお弁当を用意してる。

「ララ皇女様でありますか?いや、ここから離れるわけにはいきませんので」

「心配するな。お前の任務は何だ?」

「ここの警備です」

「誰を守るんだ?」

「警護対象者は第一に佳乃椿様であります」

「椿が外へ出るならお前もついてくるべきだろう」

「はっ。そうかもしれませんが……」

「つべこべ言わずに乗れ。言い訳は……そうだなそこの犬男に拉致されたとでも言っておけ」

「え?私ですか?」

 レイ軍曹が自分を指さし怪訝な顔をする。

「今更良い子ぶらなくても良い。貴様の素行の悪さは重々承知している」

「という事だ。諦めな」

 軍曹に口をふさがれて抱きかかえられマイクロバスに押し込まれる牧野士長であった。

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