006_自己投影でき、接待される小説がウケる

 今に始まったことではないが、2000年台後半から、客観視点の小説よりも、自己投影しやすい小説が若者にウケる文化が浸透してきているのが分かる。


 ・自分が圧倒的正義で、悪い敵を倒していくもの

 ・女の子に囲まれて、無条件にちやほやされるもの

 ・チート機能で、他者よりも優位な立ち位置で存在しているもの

 ・常に自分が物語の基軸となっていくもの


 元々小説というのは、小説を読む人以外の人物がどのように生きているのかというのを知るために、様々なジャンルや文化を描写するものがメジャーとなって作られてきた。


 例えば医療とか、学校とか、海外とか、ゲーム会社とか。

 知っている人は知っているだろうけど、知らない人にとっては非常に興味深いものになるだろうなぁという内容です。

 その際に、より明確に説明をするために主人公を自己投影しやすくして、内容理解を向上させるというところで主観的な文章を作るということは多かった。

 そういう意味では、自己投影させせるという小説も、昔からある程度混じっていたと思います。


 しかし、現在の作品はとにかくキャラクターを自分の視点にさせることを強く意識させた作品が多くて、例えば10代の男性に売りたい作品を書く場合、主人公も10代男性にする傾向が多い。

 より主観的に内容を書き、同感できる思想を予め羅列することで、ああ……このキャラクターはまるで自分のようだなぁ、というふうに思わせるわけです。


 ・学校では普通な自分

 ・特にパッとした趣味はない

 ・ゲームをすることが大好き

 ・スポーツは苦手


 etc……


 そこから、本来なら自分にもたらさせることがないであろう、無条件で自分のことを愛してくれる可愛い女の子や、無条件で褒め称えられて高く評価される環境、自己才能以上の特殊能力などを書いていくわけです。


 まるで自分が小説の中で気持ちよく接待されているかのような状態ですね。


 小説の中でなら、作者の裁量でいくらでも主人公は変化させることができますので、条件度外視で持ち上げることは出来るでしょう。

 より自然に、かつ徐々に持ち上げることが出来れば、読み手としては安心して気持ちよくなれる内容となる。


 ちなみに感覚としては、キャバクラで可愛い女の子達に接待されることや、会社の接待ゴルフと同じことである。

 お金を払えば、ある程度理想的に自分のことを楽しませてくれるツール。

 それが2次元か3次元かの違いである。


 人は元々、自分のことを認めて褒め称えてくれる人を好む傾向がある。

 これは本能であり、人として当たり前に欲求する願望である。

 悪いものではないし、持っていることが当然である。


 それを小説の中で、10代の若者に対して上手く心を掴むことができたのが、異世界モノということになる。

 現実世界で認められないが、別の世界では認められるし評価もされるという自然的な条件を作り、あとは様々なジャンルに沿って物語を進行させる。


 ジャンルを少し変えて出していけば、実質同じ内容でも別作品として販売させることが出来るし、長らく提供することで大きなジャンルとして維持することも可能となる。


 別に上記のもの自体に悪いという話は一切ない。

 小説は時代を通じて進化・変化しているので、より読み手が楽しめる作品を作るというのは正しい行為だと思うし、売り手としても安定事業を作り上げるというのは、今後の経営地盤を強くして新たなチャレンジの要にすることも出来るという結果になる。


 ただ、物語というのは、その人が考えた独特の世界を客観的に楽しんでいくというものだと感じていたがために、今の接待小説が主軸となってしまっているのは、何とも書きたいものが書きにくいなぁというのを感じざるを得ない。


 自分が書きたいものを書くというよりは、読者のために自分の意志を折りながら仕事としての文章を書いていかなくてはいけないというのは、苦手な人からしたら息苦しい時代になってしまったものだと感じてしまう次第だ。

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