第2話 ノイモント学院




 空に描かれるのはミルクを零したような無数の星々。それを瞳いっぱいに映し、光るもの一つ一つを見逃さないように上を向いた。三賢人を模った東の三連星は、チカチカと光る。国の頭脳である議会が正しく機能しているからか、足並みを揃え、同じ光を宿していた。

 一方、北の空高いところを位置取る綺羅星の塊たち。そのなかでもとりわけ眩しい光を放つ小さな王の星を中心に、若い星々が瞬き、華やかな一団を作っていた。その星団が示すものは……



「ラ……、ミラ!」


 名前を呼ばれて気持ちのいい微睡から現実に戻された。あまり寝心地の良くないガタガタと揺れる馬車の中、ミラの名前を呼んでいたスコルは呆れたように窓ガラスに頭を預けた。


「ほんのニ十分の道のりで眠るか?」

「昨夜も星を眺めていたんですもの……」


 あくびを一つ吐いて、ミラは唇を尖らせた。役目を果たしているだけなのに、なぜ責められるような目で見られなければいけないのだろうか。星詠みの乙女の一番大事な役目は毎日星を見ることに他ならない。前日、前年との宙の違いを何よりも重要視する星詠みにおいて毎日の観測は欠かせない。時にはペンと紙を持ち出し、その姿を写すこともある。

 そんな日々が続けば寝不足になるのも仕方のないことなのだが、学校に通うのなら、そうも言ってられない。観測に割く時間も減らさなければいけなくなるだろう。


「兄さま、学院に星を観測できる場所はありますか?」

「ああ。学院の北塔に天文館がある。夜は関係者以外立ち入り禁止だが、お前は関係者みたいなものだし、申請すれば使えるんじゃないか?」

「まあ!天文館!!」


 天文館で瞳を輝かせる妹に、スコルは苦笑した。いくら、星降る国と名高いリヴェール国でも、学院に通う年頃の令嬢たちは宝石やスイーツ、それから恋の話に目がない。悪い虫がつかなくていいと安堵するべきか、もう少し大人びてもよいと憂うべきか。妹は身内の贔屓なしでも、見た目だけなら美少女と呼んでも差し支えない容姿をしている。将来の夫は大臣の息子か、大貴族の子息か、それともこの国の王子か。父親が慌ててレディ教育を始めたのは、美しく成長する娘を星詠みの乙女役に押さえつけたくなかったからだろう。

 従妹のスピカもそうだが、ミラも星に夢中になってばかりで自分の見目の美しさに興味がない。スピカの花嫁姿も雪の女神のような麗しさで新郎をはじめ招かれた客もため息をついたものだが、本人はけろりとしていた。

 まして、ミラはまだ愛らしさと美しさが混在する、惹きつけられる不思議な魅力を持った少女だ。家柄も容姿も申し分ないと分かれば、『妹』にと欲しがる男子生徒は多いだろう。

 『妹』としての関係ができれば、運が良ければ星詠みの乙女を嫁にもらうことができ、少なくともマルノ侯爵家との繋がりができる。

 男性との接触なんて家族だけだった妹に、『兄』候補たちをさばけるとは思えない。多少はスコルが牽制してやらねばいけないのだろうが、今後を考えるとそれも良案ともいえない。一番いいのは、入学して早々に、ミラを守ってやれる立場と力を持った『兄』ができること。

 無邪気に天文台のことを考えている妹には、兄の苦労なんか想像もしていないのだろう。

 楽しそうにはしゃぐ妹のほっぺを軽くつねってやる。なにするのですか!と抗議する声を聴き流しながら、学院中の男子生徒の中から妹に相応しい『兄』を頭の中で吟味するのだった。


 揺れる馬車から見える風景は、王都の街並みを通り過ぎ、やがて大きな川に差し掛かった。川の岸には門兵が立ち、馬車に乗っている者の身分を確認していた。

 この大きな川の真ん中に堆積した土地__広い王城が五つは入るのではないかという広さを持つ中州にノイモント学院は建っている。貴族の師弟も通う以上、防犯に特化した学院は、川岸に続く二つの橋だけが出入り口で、交通の便ははっきり言ってよくない。それゆえ長期休暇以外は学院の寮で生活することを推奨されている。事実、スコルは三年間寮生活を送っているし、ミラもまた今年から入寮することが決まっている。

 

 ようやく手続きも終わり、馬車の車輪が回り出した。侯爵家の馬車なのだから他の家に比べれば早かったものの、毎朝この検閲を潜り抜けるなんてまっぴらごめんだ。ミラは、スコルが寮に入れと言っていた理由が少しわかった気がした。

 検閲を越えてしまうと、町中に比べればずっと安全だ。ガラス越しの風景で我慢していたが、木枠を持ち上げて馬車の窓を全開にした。川のせせらぎと、石橋を走る車輪の音、それから花の匂いを含んだ春風が車内に入り込んでくる。それらに負けじと窓から顔を出すと、進行方向にノイモント学院が見えた。青空に一本突き出した大きな時計台を中心に左右に広がる巨大な城。黒い屋根と灰褐色の城壁は飾り気もなくシンプルなものだが、水面に反射し、川に鎮座する姿は一枚の絵画のようだった。


「時計塔を境に右手にあるのが学舎、左が生活棟だ。ざっくりした区分だが覚えておいて損はないだろう」

「こんなに広いなんて迷子になってしまいそう……」

「毎年教室に辿りつけないやつらはいるが、一ヶ月もすれば慣れる」

「そういうものですの?」

「そういうもんだ。というか、まずはそういう学院生活の基礎知識を『兄』や『姉』から教わるんだ」


 スコルも『姉』から教わったのだろうか。ミラの前では弱点も欠点も見せない完全無欠の兄にもそんな初々しい時期があったのかと思うと少しだけ緊張が解けた。


「到着したらすぐ俺の『姉』に会いに行くぞ」

「え、入学式は……?」


 兄の『姉』に会いに行けるのは嬉しいが、入学式をさぼってしまっていいのだろうか。そんなミラの心配をよそに、スコルは人差し指を眉間に当てて大きく溜息をついた。


「お前本当にこの学院に興味がなかったんだな。うちの入学式は夜だ。そのあと歓迎パーティーも開かれる」

「え、ええ……パーティー……?」


 入学式をさぼるわけではないと安心できたものの、パーティーの存在に慄いた。パーティーと言えばドレスに食事のマナーにダンス、ミラの苦手なものが集まっているのだ。そもそもレディ教育のために学院に通うことになったのだから、一番最初に最大の敵がいるようなものである。


「無理です」

「無理なわけあるか」


 きっぱりと言い切ったミラに、スコルもまたきっぱりと言い切った。ミラの不安も分からないではないが、時には荒療治も必要だ。まずは当たって砕けることも大事なのだ。できれば砕けないでほしいとは兄として思うが。


「ちょうどいいじゃないか。俺がいなかった間にどれだけ成長したのか確認できるし」

「兄さまに披露できるほど成長出来ておりません」


 マナー講座中殆ど寝ていたなんて口が裂けても言うことなんてできない。


「俺だけじゃなくて周りからも注目の的だろうな。一応、星詠みの乙女なんだし」

「プレッシャーっていうのですよ、そういうの」


 さっきまでのワクワクとした気持ちが一気に萎み、ミラは頭を抱えた。このままでは兄を幻滅させるどころか、星詠みの乙女という肩書きすら失望させてしまうのではないだろうか。敬愛するスピカのためにもそんな事態は避けたい。どうにかパーティーから逃げられないだろうかと考えてみる。残念ながら、パーティーから自然に抜け出し、なおかつ兄の機嫌を損ねない素晴らしい案は浮かばない。

 こんなことならアーノルドの授業をきちんと聞いておけばよかった。髭を揺らしながら、それ見たことかと苦笑する姿が目の裏に思い浮かんだ。



 橋を渡り切り、いよいよ城壁の中へ入ると、意外にもその中は華やかだった。灰色の壁だけを見れば軍事用の要塞といった様子だが、水場が近いせいか青々とした木々と、春の花々、そのなかでもひときわ美しい、薄紫のすみれ。

 制服にも取り入れられた品のあるヴァイオレットカラーは、この学院を象徴する色だ。太陽が沈み、夜が始まるときに空を染め上げる夕暮れの色。星降る国であるリヴェールは夜空を愛する。ノイモント学院も例にもれず星空を大事にしていた。

 中庭を抜けて、時計台の前にある広場まで乗り入れて、ようやく馬車は止まった。周りには各家の馬車が留まっており、在学生と初めての環境に戸惑う新入生たちが広場に数十人、荷下ろしをしたり挨拶を交わしていたりした。早い人はこの場所で『兄妹』になる約束をするらしい。

 活気あふれる広場に、ミラも兄に手を貸されて馬車から降りた。一歩広場に降り立った途端、視線が二人に突き刺さった。人目に慣れていないミラはぎこちないながらも、視線を気にしないように精一杯上品に振る舞う。

マルノ侯爵の長男で見目も頭も良い兄に人気があることは知っていたが、まさかこれほど生徒の関心を集める存在だったなんて!

美しい少女として、星詠みの乙女として、さらにスコルの実の妹として、ミラが注目を集めているのだと気づかないまま、少し俯いて、人の目から逃げるように兄の後ろに隠れた。


「星詠みの乙女だ……」


 誰かが小さく呟く。

スコルの後ろに隠れ顔を見せない様さえ、可憐な深窓の令嬢の、人に慣れていない繊細さを演出する一つの要素だった。現に、男子生徒の何人かは狐に化かされたようにぼーっとミラを見つめている。

これ以上変に目立つのもよくない。妹を背に隠したまま、スコルは足早にその場を後にした。



時計台を通り抜けて、左に曲がると、今度は裏庭が広がっていた。時計台から右が学舎、左が生活棟だという兄の言葉を思い出して、ここは生活棟の方なのだとぼんやり考えた。何人もの生徒から注目された緊張の糸が切れ、兄に引っ張られるままに小さな小道を通り抜けた。

生活棟の陰になっている裏庭は、中庭や時計台広場に比べると薄暗いが、静かで落ち着く。その中でもぽっかりひだまりになった場所に、テーブルセットがあり、そこに腰かけた綺麗な令嬢とメイドが数人、楽しそうに話していた。


「リラエ」


 スコルがそう呼ぶと、令嬢は弾かれたようにこちらを見て、軽くスコルを睨んだ。今にも文句を言いだしそうな表情だが、柔和な顔立ちをしているからかあまり迫力がなく、見る人にとっては可愛らしい印象を受けるだろう。

 彼女が、兄の『姉』なのだと、胸にすとんと落ちてきた。


「スコル君!妹さんの前ではきちんと姉扱いしてくださいって私言いましたよね!」


 令断りさえ入れず、無遠慮に椅子に座るスコルに、恨みがましい瞳で彼女は兄を見つめた。傍若無人な兄だが、目上の人に対する礼儀はしっかりしていると思っていただけに、ミラはその場に呆然と立ち尽くした。これじゃ、ミラがレディになる前に、兄がジェントルマンにならなくてはいけないではないか。

 マルノ兄妹は礼儀がなっていないなんて噂が立てられたらどうしよう。

 そんな妹をしり目に、兄はひらひらと手を振って、ミラにも座るよう隣の椅子を指し示した。

 

「どうぞ、お座りください」


 流石に許可もなく座るのは失礼だろうと立っていると、兄の『姉』がため息をつきながらミラに椅子をすすめた。その言葉に甘え、兄の隣に座り、改めて『姉』に目を向けた。

 まだ怒りに頬を染める彼女は、ほんのり赤みがかった金の髪を三つ編みで一本にまとめ、背中に流しエメラルドのリボンで留めている。小づくりな顔には、ぱっちりとした海の色の瞳がはめ込まれ、頬は自然に桃色に色づく。ミラと同じ菫色のワンピースを上品に着こなし、メイドたちにお茶を出すように指示する様は、実に優雅だった。

 一つの曇りもない美しさを持ち合わせているのに、親しみやすさを覚えるのは、彼女の表情がくるくると変わり活き活きとしているからだろう。メイドたちも心から彼女の指示に従っているようだった。


「紅茶でよろしい?」

「あ、はい」

「ミルクとお砂糖はここにあるわ。必要だったら遠慮なくどうぞ」

「ありがとうございます、えっと、リラエ様」

「まぁ!」


 リラエはふふっと笑うと、ミラの前にお菓子をいくつか差し出した。その横からメイドが紅茶をそっと置く。たくさんあるお菓子の中からナッツのクッキーを選び、一つ口にした。ほろほろと崩れる食感に思わず笑みが零れる。


「星バカ、礼儀知らずに加えて、食い意地も張っているのか」

「貴方よりずっと礼儀をわきまえてらっしゃいますわよ」


 嫌味たらしい兄の言葉に、リラエがフォローを入れ、貴女のためのお茶会ですから、たくさん召し上がってくださいねと微笑んだ。

 優しい言葉に甘えもう一つ行きたかったが、その前に兄の行動につられて忘れていたことを思い出した。まだ挨拶どころか、名前さえも告げていない。

 これでは兄の行動を笑えないと、ミラは居住まいを正した。


「お初にお目にかかります。マルノ侯爵家の娘、ミラ・マルノとお申します。兄のお姉さまにお会いできて光栄です。この度は、お茶会にお招きいただき、ありがとうございます」


 精一杯丁寧な言葉遣いを心がけ、軽く頭を下げる。内心不安を抱えていたが、頭を上げたときリラエがにこやかな笑みを浮かべていることにほっと息を吐いた。


「こちらこそ、初めまして。スコル君の『姉』にあたります、リラエ・キュリアと申します。今日はお会いできるのを楽しみにしてましたわ。よろしくお願いいたしますわね」


 キュリアという家名を聞いて、その物腰の柔らかさに納得すると同時に、なんて人を姉にしていたのだと、自分の兄に驚いた。世間知らずなミラでさえその名前はよく知っている。現王であるリウス王の弟君ロキオ様が臣下に下った際賜った名前だ。つまり目の前の女性はそのご息女。王の姪にあたる高貴な身分を持つ女性なのだ。見惚れるくらいの優雅さを持っているのも頷ける。この国の一番とさえいえるリラエを目にして、ミラは思わず固まった。

 その身分にではない。その身分を持つ女性に対する、兄の横暴な態度に気が遠くなったのだ。


「兄さま!キュリアの姫君に対して、なんて……!」

「落ち着け、ミラ。リラエはそんな狭量なレディじゃない」

「確かに、姉弟の契りを交わしたとき、堅苦しいのは無しだと申しましたが、ここまでくだけるとは予想もしてなかったのですよ。これでも、公共の場……パーティーなどではちゃんとしてくださるから文句はありませんけど」


 だとしても、格上の姫君に対する態度じゃないだろう。寛容な姫君に心の中で最大限感謝する。下手したらマルノ家がお取り潰しになってもおかしくないくらいの出来事なのだ。


「スコル君に聞いていたら、ミラさんは礼儀がなっていないとか散々おしゃってましたけど、とても素敵なお嬢さんじゃない」

「いえ、とんでもありません。今もこれからの学院生活を考えると気が重くって……」

「私で良ければ力になるわ。スコル君の妹君ですもの。私の妹と言っても過言ではないわ。と、言っても、あと一年ほどしか力になれませんけど」


 スコルが一年生のころから三年間スコルの『姉』であったリラエは、今年、最上級生である五年生になるらしい。在学中は見合いや縁談を断ってきたから、卒業すると面倒なことになりそうだわ、と笑って話してくれた。

 途中でスコルはメイドから言付けを受け取り席を外したが、そのことにはリラエとも肩の力を抜いて話せるようになった。


「私は来年でこの学院を去りますし、今年はスコル君の『妹』になりたいという女生徒も多そうだけれど、ミラさんの『兄』になりたいという男子生徒も相当多そうですわね」

「え!?いや、そんなことはないと思います」

「あら、どうして?」

「リラエ様は褒めてくださいましたけど、本当にマナーや礼儀に自信がないので……星を見ることばっかり得意になってしまって、私自身の中身は空っぽなんです」


 兄にさえ言えなかった弱音がリラエの前ではぽろっと口から零れた。星詠みに対しての自信も誇りも持っている。けれど、本当にそれだけしかないのだ。

 家族以外からどういう評価が与えられるのか、本当に恐ろしい。自分の持つ後ろめたさを零すとリラエは、微笑んでミラの手を取った。


「みんな同じなのよ。私だって、王の姪であることしかないと思っていた時期があったわ。だけどね、人と触れ合うことで自分の中にあるの物を見つけていくのよ。大丈夫、貴女を支えてくれる『兄』ときっと出会えるわ」


 力強くリラエは手を握った。どこか確信を持ったような口ぶりに、根拠もないのにミラの心の荷も下りた気がした。


「それにね、スコル君、たぶんクラスメイトや先輩の男子たちに呼び出されているのよ」

「クラスメイトや先輩に……?」

「そう、お伺いにね。貴女に妹になってほしいって名乗りを上げるために」

「そんな、まさか……。あの、リラエ様。私、制度について、実はあまり理解していなくて……よければどのような形で契りを交わすのか教えていただけませんか?」

「ええ、もちろんよ」


 突然のお願いだったに関わらず、リラエは快く引き受けてくれた。そばに控えていたメイドに頼み紙とペン、そして学則がまとめられた一冊の本が準備された。

 その一ページ目を開き、白い指が一点を指さした。


「私たちは『兄弟制度』と呼んでいるけれど、本来の名前は『騎士の誓い』というものなの。男子と女子が契約を結び、女子はレディとしての振る舞いを覚え、男子は女性を守る力を身に付ける、それがこの制度の原型よ」


 それが時代と共に姿と仕組みが変わり、根本は変わらないものの、人脈を広げる手段として根付くことになった。しかし、契りを結ぶ儀式は、形を変えず、ずっと残っている。

 儀式と聞いて、礼儀作法に不安のあるミラは大きく溜息をついた。リラエは心配しなくてもいいと笑うが、どんな儀式かさえ分からない今のミラには不安しかない。


「そんな難しいものでもないわ。男子生徒側が騎士を模して誓いを立てるのに、許しを与えればいいの」


 リラエは簡単に言うが、この誓約式は新入生とその『兄』と『姉』が全員集まる中で行われる。たくさんの人が集まる中で堂々と許しを与えるなんて、果たしてミラにできるだろうか。


「今夜の入学式から丁度二週間後、誓約式があるわ。もちろんその時だけじゃなく、月に一度は誓約式があるけれど、新学期が始まってすぐの誓約式だから、多くの兄妹が生まれるはずよ」


 二週間というあまりに短い期間にミラはまた絶望した。たった二週間で『兄』を見つけなければいけないのだ。リラエは無理にその二週間後合わせずとも別に機会もあると言ったが、それは裏を返せば、多くの生徒はそのときに契りを結び、残った生徒は売れ残りになってしまうということだ。短時間で兄を見つけなければいけないのは至難の業だが、背に腹は代えられない。星詠みの乙女が売れ残ってしまうなんて、兄も両親にも見捨てられてしまうかもしれない。


「リラエ様……どうにか、『兄』を見つけたいです」


 悲壮な顔をしているミラとは対照的に、リラエは喜んで手伝うことを申し出てくれた。

 もし本当に、ミラを妹にと望んでくれる人がいるならば、スコルに頭を下げてでも紹介してもらおうと覚悟を決めた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る