第4話 今度は壊して作り変える、私を。
彼女は目隠しをしている。黒いベロアのリボンを、目元に巻き視界を奪っている。
彼女は自ら視界を奪い、制限をかけている。それが何を意味するのかは、私にはわからない。それでも、彼女は私に向かい合った。
視覚を制限してしまうから、と彼女は話した。そうやって音をきちんと聴いて歌に正面から向き合うんだと説明した。正確には当選の結果と一緒に送られてきた添付ファイル内に書かれていた情報だった。
彼女の背景は書かれていなかったが、彼女の音楽に対する姿勢、視覚を遮断した情報を音に限定すること、などが書かれていた。
彼女の顔も歳もなにも書かれていない。簡単なファイルだった。
彼女はただ静寂の中で僅かな伴奏とともに歌った。それは確かに静だった。しかし、冷ではなく暗でもなかった。不思議な声だった。鳥肌が立つような、圧倒されてただ飲み込まれるような、抱擁されているような。
私の歌で、誰かを助けるなんて大きなことはいいません。
でも、誰かを助ける糸になれればと思います。
鍵に慣れなくても、糸になれればきっと、何にでもなれます。
彼女は歌の終わりにそう言って、場を締めくくった。
彼女の言葉は確かに私の中に、残った。
糸と言わず、確かに形となっていた。
彼女の歌を聴いているうちに、私は一緒に歌うようになった。
そうだ、私は歌が好きだった。
すっかり忘れていた。
鏡の中の悲しそうな私を、もう一度見つけた。
あなたも好きでしょう、歌うことは。
一緒に歌おう。こっちに来てよ。一緒に、生きよう。
相手は自分だと言うのに、おかしな話なのかもしれない。
それでも彼女の手を引いて、私は生きることに決めた。彼女のしたいことは私にできることだ。私の中の私なんだから、当然なんだけど。
自分を押し殺したのは、私。
がんじがらめにしたのも
檻の中に閉じ込めたのも
どれもが私のせいだ。
だとすれば、私がすべてを壊して、すべてを新しく作り変える事ができるはずだ。
彼女のSNSに私は連絡を入れた。一緒に歌いたいです。
たったそれだけ。
実際に踏まえるべき手順や必要な言葉があったのかもしれない。
ただ、必死に彼女に伝えた。
返事なんて来ないのかもしれない。
彼女の元に届かないのかもしれない。
それでも、言わない選択はなかった。ただ勢いのまま伝えた。
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