第2話 劣等感と罪悪感
私には妹がいる。歳が少し離れた妹。私より小さい妹。
お母さんもお父さんも妹を大事にした。
私は厳しく育てられた。妹はそれを見てか、要領よく成長していった。
彼女は私とは違う。
私は惨めで、彼女はきっと女王のようなもので、私なんかとは全く違う存在で。私は、小さい妹に劣等感を強く抱いていた。妹は悪くないのに、彼女が疎ましくて仕方がなかった。
家族に隠れて、私はこっそり歌った。
誰にも聞こえないように、一人で歌を歌った。その時だけが、私が本当の私になれる時間だった。
自分の声は嫌い。こもって伝わらない、地味な声。
でも、歌をうたうそのときだけは自由になれた。
大学に行かなくても私は勝手に歌っていられると思った。だったら、今のままでも問題無かった。
私は早く大人にならないといけなかった。そう思い込んでいた。
それは、お父さんがいなくなったから。
あまり、お父さんは家に帰ってこなかった。
帰ってきたと思ったら、深夜に母と口論を始める。
それは私が幼い時の話だけど、今思い出してもとても恐ろしいことだった。
しばらく姿を見なかった父を見て、なんとなくホッとしたのを覚えている。
まだ、そこにいたんだ。
でも、お父さんは帰ってきたわけではなかった。
「お前がお母さんを守ってくれ」
「俺はもう、いなくなるから」
そうか、お父さんは私達を捨ててしまうんだ。もう、決まったことなんだ。
私はまだ子どもだったけど、理解できた。
だから、もっと早く大人にならないと、強くなってお母さんを守らないと。
その一心で私は子どもをやめた。家族のために生きることを無意識に強く願った。
おとなになったと思っていた。私は成人して働き出したけど、私の心はどうやら壊れていたらしい。
それは、無自覚の内に壊れていったらしい。私が見ないふりをしている間に、ぼろぼろにくずれていってしまったみたい。
そのことに気がついた頃、私はなにもできなくなってしまった。自分の生活すら、まともに送れなくなってしまった。
そうなってはじめて、私はまともに生きていないことに気がついた。
自分の思考の第一選択はひとのため。
次に嫌われないように。
自分のことは後回し。
それが当然だと思ってたし、そう望まれているんだと思った。
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