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「この間話したでしょ? 僕と彼女は一回り違ったって」

「はい、とてもそんなに離れているとは思いませんでしたけど」

 夏目さんの中学時代の先生の妹さんが、十二歳年上だった奥さんだ。奥さんはもう亡くなられている。

「彼女は最初から実年齢より若く見えていたからね」

「そうなんですか」

「うん。初めて会った時、僕より少し年上くらいかと思ったもの。実際、出会った時は二十六歳だったのだけれど」

 二十六歳で中学生より少し年上に見えるってかなり童顔・・・いや、店に来てくれる女性のお客様の事を考えると、本当は見た目が凄く若い人で溢れているのかも?

「あの頃の彼女は本当に可愛らしくてね。まぁ中身は全然違うんだけれど。せっかちだし気が強いし、一回言ったらきかないし」

 なるほどなるほど・・・どうして夏目さんは奥さんの事好きになったわけ?

「んー。ほら僕ってこんなでしょ?」

「穏やか、ってことですか」

「違うよ、のろま。それにあの頃の僕は自分に自信が持てなくてね、ウジウジ湿っぽい奴だったんだ。だからかな、凛と筋の通った彼女に心が引かれたんだよね。まぁ向こうが僕に一目惚れしたんだけどね」

 くしゃりと表情を崩す夏目さんに、こっちまで笑顔が移る。何この惚気、一生聞いていられるわ。

「僕が十八になった時、彼女はもう三十でね。これだけ待たせたんだから幸せにしないと許さないわよ、なんて言っていたのに、最後にはこんなおばさんで本当に良いのって訊いたんだ。全くずるいよね」

「ふふ、それはずるいですよね」

「そんなの一生大事にするに決まっているじゃない」

 夏目さんは窓の外に見える青空を見て言った。

「生まれた時も死んだ時も違うけれど、彼女と出会えてよかったし、彼女に出会わせてくれた神様に感謝している。だからこう言っちゃなんだけど」

「え?」

「僕はあの世へ行くのも楽しみなんだ。きっと向こうで彼女が待っているから」

 これから先、俺はそんなことを言えるときが来るのだろうか。それは想像できないけど、夏目さんたちの事が本当に心から羨ましいと思えた。

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