待ちぼうけとのろま

カゲトモ

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「花菱君はまだ独身だっけ?」

「ほうれふよ」

 大口で食べたものだからまだ飲み込めていなくて変な言葉で返してしまった。

ここの玉子サンドはつい大口で食べてしまう。だって玉子が極厚でふわふわで出来たてをサーブしてくれるから。冷めないうちに、とついパクパクはふはふしてしまうのだ。これがまた格別に良いわけで。

「そっかぁ。それじゃぁ恋人はいるの?」

 ここ、純喫茶メアリーの店主である夏目さんが新聞紙片手に向かいの席から訊いてきた。

「んっ、恋人ですか? いませんよ」

「え、いないの?」

「え、いませんけど?」

 なんで疑問形で訊いたのに答えたら驚くの。今どき三十路男で独身フリーなんて沢山いると思うけど。え? 違うの?

「仕事が恋人?」

「まぁそんなところです」

 店と自宅、それから食事に出るくらいの生活だからなぁ。たまに出掛けたとしても大体ボッチだから。別に寂しくないし。

「てっきり恋人が居ると思ったよ」

「え、そうなんですか」

 逆になんでいると思ったんだ。

「悪いことしたなぁ」

「え?」

「いや、この間ね。誰か良い人紹介してって言われて、一番に思い浮かんだのが君なんだけどね」

 あぁ、それで。

「でも確か恋人が居たなって思ってね、違う子を紹介しちゃった」

 ごめんね、と顔の間で手を合わせる夏目さんは、俺の親よりもグンと年上なはずなのにどこか少年らしさが垣間見える。可愛い、なんて年上の男性に失礼だけど。

「謝らないでください、大丈夫ですから」

 別に彼女とかいらないし。まぁ全然ってわけじゃないけど、今が楽だからな。

「好きな子でもいるの?」

「それは秘密です」

 そう答えると夏目さんは楽しそうに笑った。

「それよりも夏目さんの話を聞きたいですね」

「僕の話かい?」

「独り身の寂しい男に参考として話してくださいよ。奥さんとはどんな恋愛されていたんですか?」

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