第1話 しりとりのりはりんごのり
線路が地上に出ていないので、ある程度離れないと線路沿いを歩くことができないから先ほどの文字通り方角を頼りに歩いている。
「そういえば家までどのくらいあるんだろうね」
「えっ、えっと。10キロぐらいだと思います」
「そんなに近い? もっと20キロぐらいあるんじゃない?」
「10キロでも歩けば二時間はかかるのに20キロもあったら夜が明けますよ」
「車なら時速30キロとか余裕なのにね、あー、タクシー乗って帰りたーい」
完全に富豪か夜遊びに慣れたような言動、この子とあと二時間以上も歩いて帰らないといけないと考えるだけで疲れてくる。とはいえタクシーで帰るというのは名案だと思ったのだが。
「お金があればそんなこともできるんですけど」
「もしかして金欠?」
「まあ」
「私もなんだよねー、けっこう相性いいんじゃない? 被ってるとこばっかじゃん」
「そんなことないですよ、他の点が違いすぎます、住む世界だって」
「ふーん、住む世界が……ねぇ」
彼女の目が少し悲しそうな感じを漂わせていたのを見て罪悪感こそ感じたものの、なぜそんな反応をしたのか気になった。
「まー、いっか。家が向かい合わせって言ったってほとんど初対面みたいなもんだしね、時間はまだまだあるから今日だけで親睦めっちゃふかまるねー」
できれば深めたくない
「そうですね」
「ねーねー、しりとりしよ」
「なんでですか」
「だってずっと歩いてるだけじゃ暇でしょ。暇つぶし暇つぶし!」
「いいですけど」
「じゃあしりとりのりから、 リーマンショック!!」
「……」
「エキノコックス、って。あれみてあれ! 線路じゃない?」
「え? あぁ本当ですね」
「いやいや、やっとここまで来たって感じだねー、ここから何駅あるっけ?」
「8とかそのぐらいじゃないですか」
「おっ、きざむねぇ。よしよし、路線図見にいこ」
待て、そこはそっちの予想も聞かないとフェアじゃないのでは。
「いちにーさん……おおっ! 正解じゃん! もしかして鉄オタ?」
「違いますよ! たまたまです」
「もー、むっとしないでよー。じゃあ行こっか、それとも少し休憩する?」
「いえ、まだまだ先は長いので私は大丈夫です」
「うんうん、じゃあ次そっちだったよね?」
「え?」
「とぼけちゃってー、しりとりは続行中だから」
そんなことしてたな、というより彼女のボキャブラリーの多さに驚かされていたし正直もうネタがない。特定の文字責めでもないのに対処できなくなるのとこんなパリピみたいな子に負かされるのが悔しい、悔しいけれども。
「スキャットマン」
「んん? あっ、ん がついたから負けー!!」
「あっ!」
「いえーい勝ちー!」
うっかりして負けた感じを出してこいつ自分よりバカって思われないようにしたがなんとも悔しい。
「それじゃーあとでなにかおごってもらおっかなぁ」
「なんですかそれ聞いてない!」
「ぴーぱっぱ ぱらっぽー♪」
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