真夜中の家路は線路に沿って

那珂さん

プロローグ

「まいったなぁ、こんなに遅くなっちゃうなんて」

 携帯で乗り換える駅の時刻表を確認すると急げばギリギリ間に合うようで一安心した。

 キキーッ、と耳をつんざくような音を立てながら電車が止まった。そこは私が降りる駅より手前なのだが、まさかとは思ったが直後の車内アナウンスが処刑宣告を告げた。

『非常停止ボタンが押されたため安全確認を行っております』

 意識が遠のきそうになったのを引き止めたのは近くで会話をしていたカップルの会話で。

「今電車止まったらヤバくない? 私たち帰れないかもじゃん」

「大丈夫だよ、電車が止まったときは他の路線にちょっと待って、って連絡入れるらしいから」

 心の中でカップルに悪態をつきつつもそんな情報を教えてくれたことに感謝した。なんとか帰れそう。

『ご迷惑をおかけしました』

 電車を降りたあと、急いで乗り換えのホームへ向かったが終電は既に発車していた。……なんで? 周囲を見渡すと先ほどのカップルがいないことに気づく。彼らは他の路線だったのだろう、そして彼らの路線は待ってくれる路線だったがこちらは待ってくれない路線ということなのだろう。

 電車の来なくなったホームで、どうやって帰ろうか。それともどこかに泊まろうかなんて考えていたらホームの先に誰かがいるのに気づく。駅員さんだろうか、目を凝らして見てみると少し派手な格好をした女性である。向こうもこちらに気がついたようだが妙な既視感がある、その正体を探ろうと思案していたところで。

「あれ? 見たことある顔だと思ったら」

 ここでようやく何かがハマったように。

「あぁ、向かいの」

「そーそー! 偶然じゃん、終電逃しちゃった感じ?」

「ええまあ、そんなとこです」

「ふーん、そっかそっか。私もそうなんだよねぇ」

 まいったなー、と少し楽しそうに笑う彼女に少し苦手意識がある。いわゆるギャル、というほどでもないがどこからどう見てもパリピ(パーティーピープルの略)の部類にあたるし自分はそういう人たちへの接し方がよくわからないからだ。

「ねえねえ」

「はい?」

「携帯持ってる?」

「ありますけど、それがどうかしましたか」

「いやぁ、私の携帯充電切れちゃったからさ。地図みれないんだよね」

「そうでしたか、それなら私ので……」

 取り出した携帯はいくら電源ボタンを押しても動かない。

「あれ、いつの間に電源切れてる……ていうか歩いて帰るんですか」

「そっちの携帯も使えないのかぁ。どっか泊まるアテとかあんの?」

「それはありませんけど」

「よーし、帰ろっ!」

「あっ! ちょっ、ちょっと! 道もわからないのにどう帰るんですか」

「大昔の旅人は北極星を頼りに方角を確認してたんだよ、大体の向きがわかれば帰れるっしょ、ほら行くよー」

「……わかりました」

 正直方角だけで帰れるほど都内の道は素直じゃないと思うんだけどな。

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