合成魔法修練
目覚めて映ったのは、無機質な天井だった。
定まらない意識のまま、ぼんやりと見回す。そばに座るセリオさんに気づいた。うちの視線を察知したセリオさんの顔が向けられる。
「お目覚め?」
状況を認識できないまま、セリオさんの問いに点頭する。セリオさんは視線を横に移した。
「意識を戻しました」
声を合図にカーテンが開いて、ミアイアル先生が姿を見せた。その奥に、うちに視線を送るフィリーさんとアヴィドさんもいた。2人とも表情は晴れない。
そこまで見て、自分がいる場所がようやく学園の医務室のベッドだと理解した。
「体調は平気かい?」
ミアイアル先生の言葉に、自分の体に意識を戻す。痛みや違和感は感じない。点頭を返した。
「よかった。今、話はいいかい?」
「はい」
体を起こしたら、少し重く感じた。伝えるほどの異変ではない。寝起きだからかな。
「寝たままでもいいよ?」
「平気です」
ミアイアル先生相手に寝たまま応対なんてできない。皆に寝る姿を見られるのもはずかしい。セリオさんには、寝顔を見られたのかな。
「記憶はあるかい?」
起きたばかりでハッキリしない意識を、その言葉で記憶に移す。
任務で皆で影の討伐に出て、それから。
「ビビ」
想起した記憶に、体が震えた。
あれからビビはどうなったの? 改めて周囲を見回す。
おだやかな視線をうちに向けるミアイアル先生。マジメさを崩さない表情でうちを見るセリオさん。頬に手をそえて心配を乗せた様子のフィリーさん。笑顔のないまま腕を組むアヴィドさん。
うちの視線の及ぶ範囲には、ビビの姿を確認できない。嫌な予感に、胸が押しつぶされそうになる。
「大丈夫。腕の軽症だけで済んだ」
うちの不安を察知したかのように、セリオさんの冷静な声が届く。皆の表情も深刻ではない。本当に軽症で済んだの?
「直前に強化魔法を使って正解でしたわ」
準備してすぐに影に遭遇した。強化魔法の効果が多く残った状態だったんだ。
よかった。本当によかった。視界がにじみそうになる。皆の手前、唇をかんでこらえる。
「影の攻撃だから、念のために精密検査をした。一切の悪影響もなくて、後遺症も別状もなかったよ。大事をとって休ませたけどね」
おだやかに笑うミアイアル先生に、うちも混乱を薄められた。
攻撃を食らった直後だから、苦しそうに見えただけだったんだ。あるいは、兄さんと結びつけてそう見えてしまっただけ?
「本人は『あなたにつきそいたい』ってダダをこねた。起きた瞬間に抱きついて、腕のケガにさわりそうだから」
セリオさんの言った内容が想像できて、ようやく安心を手にできた。セリオさんも同様だったのか、少し笑みが見える。
「結局あした、抱きつきそうですわ」
頬に片手をそえて、フィリーさんはなごやかに発した。眉は困ったように垂れているのに、口元はゆるんでいる。
「私も薄々そう思っている。それは言わない約束」
セリオさんはヒジに手を置いて、半目で返した。
アヴィドさんも想像できたのか、あきれ眼をよそに向けている。寝起きのうちを見るのは忍びないのか、強い興味はないのか、視線はこっちに向かない。
「全力で耐えさせないといけませんわ」
なごやかなムードが流れるけど、ビビの無事を知ると同時に気になる点が浮上した。
「ほかの皆は平気なんですか?」
この場にいないエウタさんとクリシスさん。平和的な空気を作れるからには、悪い状態ではないんだよね?
「クリシスは平気。エウタは、ケガはねーよ」
アヴィドさんの言葉は、どこかひっかかりを覚える内容だった。無事だったのにクリシスさんがいないのは、うちに向けた態度があるから納得できる。
エウタさんは? 無事なのにここにいない。うちを気にかけることが手間だったから? アヴィドさんの語気には、それとは違う事情がほのめかされた気がした。
うちの疑問を察知したのか、フィリーさんが静かに言葉を続けた。
「少し心労がありまして、自室で休息していますわ」
あの瞬間、近くでエウタさんの悲鳴が聞こえた。ビビのケガを間近で見ちゃったのかな。それも影響あるのかな。だったら申し訳ない。
恐怖を払拭できていたように見えたエウタさんだった。明るさの裏で、戦い続けていたのかな。うちを思って、恐怖を外に出さないようにして励まし続けてくれていたのかな。
「エウタ、たまにあんだよ。気にすんな!」
うちの重責すら感じとったのか、アヴィドさんは明るい笑顔で伝えてくれた。
「すぐによくなりますわ。お気になさらないで」
アヴィドの言葉に賛同するように、フィリーさんも点頭した。
全員が無事なら。
「影は、倒せたんですか?」
そこの記憶がなかった。
倒れたビビを前に起立したのが、うちに残る最後の記憶。
皆が無事なら、影を討伐できたの? 身の安全を考慮して、撤退したの?
「覚えていないのかい?」
注がれたミアイアル先生の視線で、なにかかすめたような気がした。それは一瞬で、得体をつかめないまま見失う。
「よく、覚えていません」
なにかあった、気がする。
記憶がちらつく気がするのに、視認できないほどの速さでまたたいて。どの記憶のカットインかわからない。
「ネメが、影を倒したんだよ」
ミアイアル先生の言葉は、にわかには信じられない内容だった。ウソをつく理由はない。真実なの?
うちが影を倒した?
記憶にある限りでは、4体の影がいた。それをうちが?
「突然、あなたから発光した。周囲をおおうほどの光にくらんで、光が消えた頃には、チリのようになった影がいた」
「驚きましたわ」
「あのあと、お前はぱたんと倒れるし。なにが起こったのか、理解できなかったぜ」
立て続けの説明で、ちらつく記憶がつかめそうになりだす。
「……あ」
そうだ。あのあと、虹色におおわれた。あれは、うちが出した光?
「思い出したかい?」
どうやって光を出したのか、光を出してどうなったのかまでは思い出せない。けど、虹色の光だけは想起した。
「少しだけ、ですが」
「その力について、詳細に調べたいらしい。体が戻ってからでいいから、頼めるかな?」
なにをされるのかわからない。それでも、うちに拒否権はないのはわかっている。
戦わないと、また誰かを危険にさらしてしまうかもしれない。戦えるだけの強さを手にしないと、兄さんみたいな人を増やしてしまう。
本当にうちに影を一掃できるだけの力があるなら、うちは知るべきだ。
皆のためにも、うち自身のためにも。
「わかりました」
「ありがとう。本当にお疲れ様。きょうはゆっくり休んでね」
後日。ミアイアル先生の後ろに続いて、教室に入る。
皆は既に教室にそろっていて、自習を命じられていたとか。諸事情でうちだけ、今教室に来た。
「ネメ~」
またたく笑顔でうちに両手を伸ばして駆け寄ったビビ。その体は、後ろにつんのめってとまる。セリオさんが髪をひっぱって動きを封じていた。
「もう、なにすんのさ。ひどいよ!」
くるりと振り返って、すぐにセリオさんに抗議をぶつけるビビ。背後からの行動だったのに、犯人はセリオさんだとはわかるんだ。
物理的な距離と、ビビにこんなことができる精神的な距離を考慮した結果かな。
「安静に」
ビビの腕を指して放った言葉。心配したにしても、ほかにとめる手段はあったんじゃないかな。女の子の髪をひっぱるのは、ね。女の子同士だから、まだ許されるのかな。
「ごめんね。ケガは平気?」
隠せない苦笑いを浮かべつつ、髪を指でとかすビビに気になる点を聞く。
話には聞いたけど、こうして姿を見るのはあれ以来。元気そうではあるけど、本人から聞きたい。
「ばりばりさ! 腕立て、披露しようか?」
力こぶを作って、あふれるバイタルをアピールした。
変わらない元気な姿に安心しながら、首を横に振る。本当に平気だったとしても、腕立てなんてヒヤヒヤしかしない。まだ安静にしていてほしいよ。
「ネメは大丈夫?」
笑顔のままのビビで、うちの心配は薄いとは感じとれた。うちの体調は、皆から聞いたのかな。
「それについても伝えたいんだ。お話はあとにしてもらっていいかい?」
「はーい」
ミアイアル先生の言葉に素直に従って、ビビは着席した。うちも自分の席に座る。
エウタさんも席に座っていた。笑顔で、顔色もいい。元気になったのかな。クリシスさんもいる。うちに一瞥もない、いつもの様子だ。
「改めて、任務完遂お疲れ様」
やっぱり影は倒された、倒したんだな。実感こそわかないけど、その事実があるんだ。
「前置きいいって。調べたんだろ?」
「え、なに? なに調べたの?」
アヴィドさんの発言が解釈できなかったのか、ビビは皆をきょろきょろ見て混乱をのぞかせた。
「あの光についてよ」
セリオさんからの説明に、ビビは小さく口を開けてミアイアル先生に視線を戻す。
今さっき、うちの調査が終わった。
いつ調査するかは、皆に伝えられなかったはず。ミアイアル先生の言葉を聞いた人たちは、うちだけ教室にいない状況で想像できたのかな。
「お察しのまま。ネメの発光について、先ほどまで調査をしていたんだ」
ビビからつんつんとつつかれて、顔を向ける。にゅっと顔が近づけられた。
「怖いことされなかった?」
人数の少ない教室。いくら声を潜めても、周囲の皆には聞こえていそう。ミアイアル先生も、狭い教室でビビがうちに私語をしたのは見えるよね。
「平気」
だからこそ、手短に返す。実際、そうだった。
大人たちに囲まれるのは怖くはあったけど、ミアイアル先生のつきそいもあったからどうにか耐えられた。
うちの返答に満足したのか、ビビは体を戻してミアイアル先生に向き直る。ミアイアル先生の視線は案の定うちたちに向いていたけど、注意されることはなかった。
「発光の原因は、マルチエレメントだった」
知った際は驚いた。能力を持っていても、今まで使えなかったうち。なのにどうして。
「ネメはまだマルチエレメントを使いこなせない。これからの影の討伐でも、ネメの力に頼ってはいけない」
調査を進められる過程で研究資料を見せられたり、曖昧だった記憶が戻ったりで、どうやって使ったのかはぼんやりと想起した。でも試しても、うまく発動してくれなかった。
研究資料でも『常用できるものではない』と書かれていた。簡単に使えるものではなかったのかも。
うちがマルチエレメントを駆使できるようになるのも、使命に課せられた。
「調べた結果、マルチエレメントは影に特に有効だと判明した」
「わたくしたちでは、影を倒せませんの?」
魔力を使った攻撃なら、影に攻撃を与えられる。その思いで皆は戦ってきた。
なのに、まともに戦えないうちの能力で、あっさり消え去った影。納得できない思いもあるよね。
「マルチエレメントがなくても、倒せるよ」
「私たちは魔力で影を攻撃したらいいんですね?」
セリオさんの質問に、ミアイアル先生はほほ笑みを返す。
「マルチエレメント以外にも有効な攻撃がわかったんだ」
ミアイアル先生の言葉に、教室内に小さなどよめきが発生した。
「6種の属性の合成魔法だ」
マルチエレメントと合成魔法は、共通点が多かったらしい。影にマルチエレメントが有効なら、合成魔法も有効だと決定づいた。
「6種、って」
ビビの声には、かすかに困惑を感じられた。
「炎、氷、雷、風、光、闇を合成した合成魔法だよ」
この世界にある6種の属性を重ねた合成魔法。
成功させることすらとても困難な合成魔法を、6種も重ねるなんて。
「今後、もっと強大な影の相手をする機会もあるかもしれない。従来みたいに、個々の魔力だけだと通じない面もきっと出てくる。だからこそ、合成魔法の習得は必須になる」
ゆるやかさをといたミアイアル先生の言葉に、教室の空気がひきしまった。
「これからは合成魔法習得に注力する。今から修練に向かおう」
外に出て、クラスメイト7人で合成魔法を試した。発動する気配は一切なかった。マルチエレメントを持つうちを抜かして試しても、結果は同じ。
「そう簡単に習得できることではないよ。根気強く続けよう」
それぞれの反応を見せる皆に、ミアイアル先生は優しく声をかけた。
「合成魔法に必要なのは、互いを信頼しあって支える心だ。それさえあったら、誰でも使えるようになるよ」
「信頼ならあります」
「まだ、足りないんだよ」
ミアイアル先生の言葉に、セリオさんは反論を続けることはなかった。
「合成魔法習得には、仲間との交流も必要だよ。1人黙々と修練に励んだらいいわけではない」
『これ以上は自分たちで考えるように』とでも言うように、ミアイアル先生は笑顔のままうちたちの前から去った。
「ぼくでもできるのかなぁ」
「信頼っつてもなぁ。曖昧すぎるだろ」
頭を抱えたアヴィドさんの横をすり抜けて、クリシスさんが歩き去ろうとする。
「クリシス、待ちなさい!」
セリオさんの制止は聞こえないかのように無反応のまま、その背中は小さくなる。
「ミアイアル先生の言葉を忘れたの!?」
あとを追って駆けたセリオさんにも、クリシスさんの歩みはとまらない。2人の姿は、うちたちの前から消えた。
「やってられっかよ」
見かねたアヴィドさんもその場を離れて、どこかに消えた。
「この調子で大丈夫なんですの?」
フィリーさんの独り言は、きっと誰もが感じたことだよね。
うちがマルチエレメントを使いこなせるようになったら、合成魔法に頼らなくてよくなるのかな。でもうちはまだマルチエレメントを駆使できない。影を前にして戦えるかもわからない状態。
皆が合成魔法を習得できたほうが、安定したダメージソースになる。
なのに、この状況。
孤立したクリシスさんがどうにかなったら変わるのかな? それ以外にもほころびはあるの?
「ぼくの協力だと、力不足なのかな? だから嫌なの?」
「そんなことないよ! エウタはばりばり活躍できてるよ!」
「でも、ぼく、またあんなになっちゃったし」
ビビの激励にも、眉を垂らしてしょげたままのエウタさん。きっと心労のことを言っているんだ。
「お気になさらないで。皆様も理解しておりますわ」
「ぼくはぼくで修練するよ! 協力しあうにしても、個々の力が強いに越したことはないもんね!」
一転、元気な笑顔をのぞかせて、エウタさんは元気に手を振って駆けて消えた。
それぞれの理由で、半数以上の人が離れてしまった。『合成魔法の習得』という使命が課せられた、この状況で。
空虚さを感じる空間に揺らした視線は、ビビの腕でとまった。
「ケガ、大丈夫?」
本人も『平気』と言っていた。『魔法を詠唱するだけなら、ケガに悪影響はない』のミアイアル先生の判断で、修練が進められた。
ミアイアル先生に『異変を感じたら休むように』とも言われたけど、結局休憩をはさむことはなかったビビ。本当に大丈夫だったのかな?
「へーきへーき。今の今まで忘れてたよ!」
心配を嫌うように、ビビはケガのある腕をぐりんぐりんと回した。心配が沸騰するけど、笑顔は一瞬もゆがまなかった。本当に平気だったのかな。
「無視をしてはいけませんわよ」
ビビの行動を両手をそえてとめて、フィリーさんは心配の言葉を送った。
「ネメこそ平気? 病後みたいなもんでしょ?」
マルチエレメントを発動したあと、うちは倒れた。はじめての発動だったし、自身の能力以上の力を出してしまったのが原因と推測されている。
休んですっかりよくなったし、今は調査の心労しかなかった。
「平気。心配ありがとう」
心労については、伝える必要はない。余計な心配をかけさせたくない。
「こっちこそありがとだよ!」
ビビの笑顔の謝礼は、理由がわからなかった。
動けなかったうちのせいで、ビビはケガを負ったんだ。うちにお礼を伝える理由なんて一切ないよ。
「感謝されるようなことはしていないよ」
「したよ! あたしたちを助けてくれたじゃん!」
助けた記憶なんてない。助けてくれたのは、ビビだよ。
「違う。ビビに助けられたんだよ」
ビビがいなかったら、影の攻撃でうちは無事ではいられなかった。ビビのおかげだよ。
「力を出して、あたしたちを助けてくれたじゃん!」
その言葉は、まっすぐうちの胸に届いた。
わけもわからないままだったけど、うちが皆を救ったの?
「そうですわ。あの数を相手に、無事でいられたかわかりませんもの。感謝ですわ」
続けられた言葉にどうしていいかわからなくなって、視線をうつむかせる。
「怖かっただろうに、あたしたちのために力を出してくれた。これほどまでにうれしいことはないよ!」
とまらない讃歌に、むずがゆさすら感じる。ここまでほめられることなんてないから、身の振り方がわからない。
怖かった。それは事実。
影を前にして動こうとしたけど、体はいつもみたいにに動かせなくて。
うちをかばって倒れたビビを見て、恐怖に支配されそうになった。
でも、動けたのは。
「皆を、失いたくないって思ったの。故郷の人たちみたいに」
その思いが、うちを動かしてくれた。
「大好きっ!」
うちの肩に、ビビの腕が回された。
フィリーさんが言葉を発しかけたけど、声は出されないまま口は閉ざされた。
ケガ、大丈夫なのかな。腕の力はゆるいから、きっと影響はないよね。今は、うちを守ってくれたこのぬくもり、うちが守れたこのぬくもりを受容しよう。
「皆、そばにいるよ」
うちにだけ聞こえる声量が届く。
「いなくなっても、そばにいる。ずっと支えてくれる。仲良くした思いは、無意味になんかならない。決して消えないよ」
それはまるで、消えてしまってもなお、ペンダントという形でうちを支えてくれる兄さんを指しているかのように思えた。
家族を失ったビビだからこそ、この言葉はなによりも心に届いた。
なにもしないで失うのと、仲良くしてから失ったのでは、残るものが違う。
そこに残るのは、虚無感すら感じる悲しみだけではないんだ。
そっと、ケガにふれないようにビビに手を回す。失いたくない、ぬくもり。兄さんとは違う、あたたかさ。
「ありがとう」
ビビにだけ聞こえるように、小さくお礼を伝えた。あたたかい笑顔は、兄さんとは違ういやしを届けてくれる。
「あ」
次に聞こえたのは、いつもの声量のビビの声だった。
ぴしゃりと離れたビビに、まっすぐ見つめられる。
「今なら、合成魔法ができる気がする」
突然の言葉に理解が及ばないまま、ビビに手をひかれる。
「やろっ!」
ビビに促されるまま、2人で魔法を詠唱する。どちらからでもなく視線を重ねて、放つ。
うちの風魔法、ビビの氷魔法が交差して。威力を感じる合成魔法となった。
「できたっ!」
拳を握って跳ねるビビの横で、ぼんやりと消える魔法を見ていた。
困難と言われた合成魔法に成功するなんて。
7人の合成魔法より、2人の合成魔法のほうが安易だ。とはいえ、成功するなんて。
目の前で起きた光景を夢のように見ていたら、ぱらぱらと拍手が届く。
「すごいですわ! とても美しい合成魔法でしたわ!」
始終を見ていたフィリーさんは、顔を輝かせて拍手をくり返した。
その反応で、ようやく本当に合成魔法に成功した実感がわく。夢のような光景は、現実だったんだ。
「どーだ。これがあたしたちの力さ!」
腰に手を当ててふんぞり返るビビ。愛らしい姿に、笑みがこぼれた。
「感動しましたわ! 励みになりましたわ!」
「そーだよ。最初から皆でじゃなくっていい。ちょっとずつ力をつけたらいいんだよ」
そりたつ壁を乗り越えるのは、苦労する。でも階段を作って1歩ずつのぼったら、さらりと乗り越えられる。
焦って7人で合成魔法を成功させようとしなくてもいいんだ。
「フィリーもやろっ!」
この流れなら、あるいはフィリーさんとも成功するかも。機運を感じられた。
「修練のしすぎで体を壊したら、元も子もありませんわ。2人とも本日はゆっくり体をお休めになって」
強く感動しながらも、フィリーさんはうちたちに気づかいを忘れなかった。
「へーきだよ」
「心配と興奮がありますから、詠唱に集中できませんわ。万全な体調の際に、ぜひ望みましょう」
そこまで言われたらビビも追撃できないのか、唇をとがらせながらも渋々受容した。
感覚を身につけるために、ビビと合成魔法訓練を続ける道もあった。フィリーさんにさとされて、2人とも体を休めることになった。
ビビのケガが治るまで、修練に力を注ぐのは控えるべきかな。魔法とはいえ、どんな負担が潜むかわからないもん。ビビのことだし、興奮してケガをした腕で全力ハイタッチとかはしそうだしね。
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