第201話服部半蔵乃助

「それで鬼ヶ島ってどこにあるんですか?」

「日本で言う所の静岡県の一番下に当たる所だね。どうやらそこに城を築いて長きにわたり人と戦争を繰り返してきたみたいだよ」

「なるほど!でも私達鏡花水月が居ればまさに鬼に金棒というわけですね!」

「まぁ戦うのは悪魔っちゅうらしいけどなぁ」


 船には「カンパニー」と「鏡花水月」それに十左エ門、それと船を操るための数名のクルーのみで鬼ヶ島に向かっていた。今まで戦争をしてきた相手とこんな数名で平気か不安にはなるが、どうやら悪魔というのは魔法によって造られた思念体で本体は数体しかいないらしい。


 なので少数精鋭でバレずに敵陣に侵入し本体を撃破せよとのことだった。


「でも悪魔ってどんなのか想像もできないね~!楽しみ!」

「うむ!どんな敵が来ようとも俺のこの国宝級の盾で防いでやる!」

「あれ?そう言えば皆さんやけに武器が煌びやかな気が」

「ほんまやなぁ。どうしたんやそれ?」

「ん。これはクエストでもらった国宝級の武器」

「この前の王国のクエストで王様にもらったのよ」

「ええ!?羨ましいです!」


 僕らの武器は皆新しくなり王国の城の宝物庫に眠っていた物ばかりだ。それを鏡花水月の皆は羨ましそうに眺める。


「ウィルさん。その剣は貴方にはふさわしくありません。姉様にゆずるのです!」

「それは出来ない相談だな。流石に折角頂いた武器だからね」

「そんな事は聞いてません!煌びやかな武器は美しい人が持って初めて効果が現れるのです!美しくない貴方が持っていても武器は喜びません!泣いていますよ!武器が号泣していますよ!貴方はそれに耐えられますか!?」

「耐えられるよ。号泣なんかしてないからね」


 フクチョウは「ムキー」と猿のように怒り地団駄を踏んでいる。相変わらず絡んでくるなぁ。


「大体なんで剣にそんなに宝石が付いているんですか!?何て名前の剣ですか!答えなさい!」

「王剣って名前だよ」

「王の剣!下民の貴方がですか?下々の貴方がですか?底辺の貴方がですか?全く似合いません!」

「いいすぎじゃないか?とううか下民は皆同じだろうに」

「違います!私達は高貴な存在なのです!高貴なお姉様方に天使な私なんです!エンジェル私なんです!」

「エンジェル私って何なんだよ。羽でも生えているのか?」

「生えてますよ!下民には見えない羽が!男には見えない羽が!」

「今人類の半分を敵に回したね?下民=男にしたね?そんな裸の王様みたいなこと言われてもなぁ」


 全くこの子はどれだけ男嫌いなんだ。


「「王様?この服は馬鹿には見えないのです」「馬鹿野郎!女にだけ見えない服を用意しろ!男の前で裸になったって興奮しないだろ!女の前で裸になりたいんだ!興奮したいんだ!」」

「ただの変態じゃないかそれ……」

「変態とは何です!女性に体を見られることはいい事なんです!見る事もいい事なんです!興奮するのです!はぁはぁするのです!」

「なんか事件性が出てきたな」

「ではなんですか!?貴方は見たくないのですか?姉様達の裸を!」

「いや……見たくないとかそういう問題じゃ」

「変態なのです!貴方は見たいのですね!このスケベ!ハーレム主人公!女たらし!年下のくせに!」

「年下は関係ないでしょ」


 卍さんと座長さんは僕の発言に体をもじもじさせ、他の皆は僕を射殺すような眼で睨みつけてくる。どうしろって言うんだ一体。


 航海は順調に進み早くも港にたどり着く。


「あれ?なんかつくの早くない?」

「ここが限界でござる。これ以上近づくと悪魔たちにバレて攻撃を食らってしまうんのです。特に船の上ではそれを避けないと全滅は必須なんでござるよ」

「確かにね。船の上では戦いずらいからね」

「ん。じゃあこれからは歩いて移動?」

「いや、この先にすでに仲間が待機していて川を船で下ることになっているでござるよ」


 僕らは十左エ門の案内に従いしばらく歩くと細く小さな川が山の中に見えた。


「待たせたな鳥取半半蔵。準備はいかがか?」

「うむ。いつでも行けるニン。この時を待ってたニン」


 鳥取半蔵って服部半蔵の親戚か?ってことはまさか!?


「ニンって事は忍者なのー!?」

「おお!俺は忍術見たいぞ!」

「ふん!何が忍者ですか!忍者なら変わり身の術を見せてください!」

「わー!忍者ですって座長!影分身とかするのかなぁ!」

「ほんまに忍者なんかなぁ。だったら手裏剣見たいなぁ」


 皆で港に停泊してあった十左エ門達が用意した船に乗り込み出航する。船には「カンパニー」「鏡花水月」十左エ門、そして最低限船を動かすために必要な船乗りたちしかいない。もし船の上で襲撃されればかなり危険だが、そうならないために最低限の人数で、小さな船での移動となる。


「それでは船長、出向でござる。頼むぞ」

「承知!出航だ!」


 錨を上げ帆を張り船は元気に出航する。僕らは万が一の襲撃に備えて甲板でくつろぎながら警戒辺りを監視していた。


「しかしまたウィルさんの剣術が見られるなんて光栄です!あれからまた強くなったんでしょうね」

「強くはなったけどそんなに参考になるような事はできないかもしれないよ?卍さんの剣術も素晴らしかったし」

「そ、そんな!私なんてまだまだです!」

「二人の剣術はなんだかタイプが違う気がするからなぁ。でもうちから見たら二人とも化け物やで?」

「そうです!姉さまの剣術は天下一品です!こんな男の剣術なんて参考にする必要ありません!答えにはなりません!ハーレム菌が移るだけです!ハーレムになるのは私だけで充分です!」


 僕と卍さんはフクチョウの言葉を無視して剣術についてや剣を交換して互いの件について熱く語っていた。彼女は本当に剣術が好きなようで、特に日本の剣士に憧れているようだ。


「ムキー!なんで姉様はそんな男と仲良くしているのです!イチャイチャしているのです!ラブラブしているのです!私ともっとイチャイチャしてください!ラブラブしてください!チュッチュしてください!」

「フクチョウ欲が出過ぎとるで。よだれも出てるし」

「ハッ!?私としたことが姉様の前ではしたない。これも全部ウィルのせいです!下品な男のせいです!下品がうつりました!汚いのがうつりました!病気がうつりました!やめて下さい!」

「病気とか言うなよ。僕は健康体だ」


 この子はどれだけ僕の事が嫌いなんだ……。なんだか悲しくなってきた。


「兎に角です!姉さまから離れなさい!距離を置きなさい!二kmは離れなさい!」

「そしたら僕は海に浮かび事になるぞ?船にさえいちゃいけないのか?」

「そうです!貴方は海の藻屑となればいいのです!なんならモズクになって少しは人々に貢献したらどうですか!?」

「モズクになって食べられるのは嫌だなぁ。ぬるぬるになるのも嫌だ」

「全く我儘ですね!ぺろっと食べられてください!つるっと食べられてください!ぺロンチョされちゃってください!!」

「ペロンチョってなんだよ。どんな食べ方したらそんな効果音出るんだ」

「ペロンチョしないんですか!?私なんて三日に一度はペロンチョしてますよ?特に特に外食する時が多いですね」

「なんか興味出てきたな。何を食べるときに特になるの?」

「うーん。魚介類が多いですね。ペロンチョする時はお会計が一万円は超えますが」

「ペロンチョ高価だな。僕も食べてみたくなってきた」

「海の藻屑になった貴方はペロンチョされる側なのに?」

「あ、モズクでもペロンチョってなるのか。案外安値なんだな」


 ペロンチョにつついてもっと追及していきたいところだが船の警戒も怠ってはいけない。僕は一度「遠目」で辺りを確認する。


「どうしました?急にペロンチョしだして」

「え?ペロンチョってこんな時にも使うの?」

「使いますよ?「彼は辺りをペロンチョしている」なんて文章が成り立ちますね」

「ほう、因みに辺りをペロンチョしている時ってどんな時?」

「そうですね。女の子のスカートの中をのぞく時はペロンチョしますね」

「いきなり犯罪性が出てきたな」

「たまに一ペロンチョ一万円で売っている時もありますが」

「何を買ったかは聞きたくないな。なんだか怖いよ」

「そんなことないですよ?女子高生の物がほとんどですし」

「絶対やばいやつでしょそれは……」


 段々フクチョウの性格が分かってきた気がする。この子は危ない。百合はまだいいとしてもこの子の性格はおっさんそのものだ。


「お主らねんの話をしておるのだ?そろそろ港が見えてくるでござるよ」


 十左エ門の言葉通り十分も経たないうちに港が見えてきた。が、他とは違い人はおろか建物すらない本当にただの海岸だ。そこに船は停泊し、僕らは船から降りて森の中へ進んでいく。


「この先はどうするの?」

「うむ。森の中に川がありそこに甲賀の者が待機している」

「甲賀!?って事は忍者なのー!?」

「ほう、なら変わり身の術とか見てみたいな俺は」

「そ、そんなもの使えるはずないじゃないですか!?どうせ偽物ですよ!か、影分身の術とか使えるんですか!?」

「私は土遁の術を見てみたいなぁ」

「うちは火遁の術がええなぁ」


 皆期待に胸膨らませながら森の中を進んでいった。


「おお!!十左エ門久しいニン!ついに決戦の時でニンか?」

「うむ。そうだ。こちらの流れ人の方々が協力してくださり鬼ヶ島へ行くことになった。」


 そこにいたのは、そこにいたのは忍装束に身を包んだかなり太ったおっさんだった。


「ね、ねぇおにいちゃん。あれが忍び?全然忍んでないよ?むしろ主張しまくってるよ?」

「そ、そうだね。全然忍んでないね」

「だ、だが変わり身の術くらいは使えるだろ!」

「た、確かに見た目で惑わすのは忍びの得意技!これから影分身とか使ってくれるはずです!」

「な、なんか想像してたのと違うわ。でも語尾がニンって言ってるし」

「そ、そうやなぁ。ニンって言ってなぁ」

「ん。ただの太ったおじさん」

「あれ大丈夫かしら?中々の肥満よ?」

「期待は、出来ないわね」


 皆が不安がっているとそれに気づいた忍びがこちらに歩み寄ってくる。


「皆の者、我は甲賀の里の長、「服部半蔵乃介」と申すニン。皆には分からないかもしれないが実は忍びという職業をしている」

「いや、わかるよ?丸わかりだよ?」

「むしろ何を思って分からないと勘違いしていたのかしら?」

「ん。とりあえず忍法使ってみて」

「そうね。影分身からお願い」

「土遁も火遁も身代わりの術もお願い」

「ニンニン!?我が忍びだと分かっただと!?流石流れ人一味違うみたいだな。だが人前でそう簡単に忍法は使えないのだ」


 一味違うと言うか、彼の性格はかなり変わっているようだ。額当てに思いっきり「忍」の文字が入っていた。


「えー!!やってよ忍法ニンニン!」

「そうですよ!じゃなきゃ忍びだと分からないじゃないですかニンニン!」

「うむ!早くするのだニンニン」

「ん。ニンニン」

「ぬ!?そ、そんな簡単に忍びは人前で。……く、そんな目で見ないでほしいでニン。あ、~最近監視の任務ばかりで体がなまっているでニンな!ちょっと一人で術の訓練でもしようかなニン!」


 範蔵之助はそういうと少し離れた木に向かって歩き出す。とてもわざとらしくてこっちが恥ずかしくなってくるが、忍法を見られるという期待から言わないことにした。


「あ~まずは手裏剣の腕の確認からするニン!それっ!!」


 範蔵之助はどこから取り出したのか分からい速度で手裏剣を手に取ると木に向かって投げだした。それは見事に「忍」の文字を描いて木に刺さる。しかし全然忍ぶ気ないなこの忍び……。


 皆から「お~」と感心した声を聞くと範蔵之助はきをよくしたのか次々に忍術を披露しだした。


 「変わり身の術」から「影分身」から「火遁」「土遁」まで見事にやってのけた。


「凄い凄いニン!!ニンニンニン!!」

「うむ!見事な忍術だったニン!」

「やればできるじゃないですかニン!!素晴らしかったですよニン!!」

「ん。ニンニン」

「素晴らしいですね。どういう原理でやってたんだろう」

「わからんなぁ。でも忍術が見れるなんて流石「AOL」やなぁ」

「ふう。準備運動はこのくらいでいいかニン。おっと、お主らまさか見ていたのか!?もし万が一見ていたとしても今の光景は見なかったことにしてくれると嬉しいニン。忍びとはむやみに人に忍術を見せてはいけないニン!!」


 むやみに見せた範蔵之助は満足そうに額から大量に流れる汗を拭きとり、僕らを連れて歩き出す。せっかくかっこよく決まったのに太っているせいか大量に流れる汗で全てが台無しだった……。

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