第177話救出

「・・・ウィル・・・。いくら「泥棒」役だからって女の子を攫ってきちゃだめよ・・・。」

「そうだよお兄ちゃん。アイリスはがっかりだよ。」

「お姉ちゃん悲しいわ・・・。そんなにその子が気に入ったの?」

「ん。欲求不満なの?言ってくれればいくらでも相手をしたのに・・・。」

「待て。違うぞ?そんなリアルな「ドロケイ」を僕はしない。この子はここに倒れていたんだ・・・。」


森の中で倒れていた兎族の子を見つけて治療している間にエリザベス達と合流、アレクサンドラ達にはレイを迎えに行ってもらった。


「うぉお!?ウィルが女の子を攫ってきたというのは本当か!?しかも結構可愛いらしいじゃないか!?」


一体どんな説明をしたんだとアレクサンドラ達に目を向けると、アレクサンドラは目をそらし、エミリアは舌を出し「てへっ」っと言った。

てへっっじゃないんだ、お茶目かお前は、少し可愛いじゃないか。

しかもなんでレイが可愛い女の子に食いついてんだ・・・。


「・・・う・・・ん・・・。・・・ここは・・・!?」


僕の膝の上で寝ていた少女は目を覚まし僕を見るなり驚き飛び起き僕らから距離をとる。


「・・・あれ?…私怪我して・・・?・・・あれ?」


少女は僕らに警戒していたが自分の体の怪我が治っていることに気づき困惑しているようだ。

彼女の置かれている状況は分からないがこの警戒心からとても怖いことがあったと推測できる。

それにあのまま放っておいたら死んでいただろう・・・。

本当に魔法様様だな。


「目が覚めてよかった。君がけがをして倒れているのを見つけて治療したんだ。あ、僕の名前はウィル、よろしくね。」


僕はできるだけ優しく話しかけ、そのあとにみんなも自己紹介していく。

僕らが敵対心がないのと名前を名乗ったことで彼女の警戒心は少しは解けてきたようだ。


「・・・貴方が傷を治してくれたの・・・?・・・なんで?」

「何で・・・?うーん・・・。なんでって言われても・・・。困ってる人がいたら助けるのは当たり前だろ?」

「・・・・・・。・・・変な人間・・・。」


その言葉に僕らは思わず顔を合わせる。

この国では人間と獣人、エルフなど種族同士の立場は平等のはずだ。

なのに彼女は「人間」と自分とは別の種族であることを強調した。


「・・・辛いことを聞くかもしれないけど君はどこから来たの?周りには人はいないみたいだけど・・・。」

「・・・・・・パライス。」


彼女は僕を警戒しながらだがゆっくりと答えてくれた。


「・・・パライスですか。パライスはここから大分離れたところにある街ですね。」

「そうね。こんな子供が一人でこんなところまで来るなんて危険だわ・・・。」


聞けばパライスの街はここから南東に馬で1日かかる道らしい。


「・・・あなた達は私を捕まえないの?」

「・・・?捕まえる・・・?一体・・・?」

「!!・・・もしかして。」


アレクサンドラとエミリアは顔を青くして何かに気づく。


「アレクサンドラ?何か知っているの?」

「・・・噂程度ですが・・・。まずパライスの街はこの国唯一獣人だけで成り立っている街です。とても活気のある街だと聞いていますが・・・。」

「そうね。でも最近こんな噂を耳にしたの。・・・この国で「獣人狩り」が行われているって。」

「「獣人狩り」?」


僕は聞きなれない言葉に聞き直すと獣人の彼女は険しい顔をしながら答えてくれた。


「・・・その感じだとあなた達は知らないみたいね・・・。その噂は本当よ。「獣人狩り」は行われている。この国の貴族によってね・・・。」

「そんな馬鹿な!!この国は人種差別をしない国だ!!それを貴族自ら行えば必ず誰かが気づくはず!!」

「そうよ!それに噂では「獣人狩り」を行った後それを帝国に売るという話を聞いたわ!でも実際不可能よ!だってそのルートを使うには必ず「ケロケロソンヌ」を通らなきゃならないから!!」


話がだんだん読めてきた気がする・・・。


「・・・でも実際行われている。・・・私は運よく逃げ切れたけど、私も実際攫われたもの。」

「・・・そんな・・・!!」

「・・・信じられない・・・。」


彼女の言葉にアレクサンドラ達は肩を落とす。

まさか人種差別のないと思っていた自国で人さらいが行われ、そして敵国である帝国に売買が行われていたとなるとショックだろう。

それに現在は自分達さえ自国から追われている状況だ。

何を信じていいかわからない状況だろう。


「・・・ねぇ。君の名前は?」

「・・・アリス。・・・私はパライスパライスの街の族長の娘アリス。」


彼女は珍しい白猫族だという。

確かに髪や耳、尻尾は白くふさふさだった。

・・・どうりでさっきから後ろでエリーゼがハァハァ息を荒くしているわけだ。


「ん。とりあえず抱きしめていい?」

「・・・え?」

「ああ、この変態は放っておいていい。それより君以外にも捕まった子供たちはいるの?」

「・・・助けてくれるの?」

「・・・もちろん。助けられるなら。」

「ん。当り前。その代わり抱きしめさせて?」

「落ち着け変態。あ、間違えたエリーゼ。まずは助けてからだ。」


僕はエリーゼに頭をぽかぽか殴られながら彼女にゆっくりと話しかける。


「その「獣人狩り」について詳しく教えてくれないか?」


僕らはムギ達を呼び出しアリスはエリザベス達と共に乗ってもらう。

アリスが逃げ出してからすでに半日は経っているそうだ。

もしかしたらもう間に合わないかもしれないが僕らは急いで目的地に向かう。


アリスの話によると「獣人狩り」は昔から密かに行われていたようだ。

だがここ数年でその頻度が増加、町の子供たちは次々に狙われ今パライスの街は緊迫した状況にあるらしい。


「・・・私が知っているのはここまで。」

「・・・でもそれだと何故貴族が犯人だとわかるんだい?」

「お父さんから聞いたの。攫われた子供たちは一度必ず貴族の屋敷に連れてかれてそれから帝国に運ばれるんだって。お父さんたちは抗議しに一度貴族の館に言ったんだけど血まみれで帰ってきて・・・。」

「・・・そっか・・・。」


彼女の知っている情報はここまでのようだ。

とにかく今は彼女が逃げ出した道まで急いで駆ける。


・・・僕たちは3時間ほどでその道までたどり着く。


「・・・私達はここまで馬車で運ばれてきたの。でもその時魔物が襲ってきて、私は混乱に紛れて一人で逃げ出してしまったの・・・。・・・あの時皆を助けられたら・・・。」


アリスはその時一人で逃げ出してしまったことを後悔しているようだ。

涙を流しながら拳を握りしめ俯いてしまった・・・。


「アリス。今は後悔なんかしても何も始まらないわ。過ぎてしまったものは仕方ない。前を向きなさい。貴方にできることはまだあるわ。」

「・・・私にできる事・・・?」

「そうよ。貴方にはまだ仲間を救うチャンスがある。それに貴方はもう十分働いたとも思うわ。」

「え・・・?でも私何もできなくて・・・。一人で逃げ出してしまって・・・。」

「ん。それでもアリスは私達に頭を下げた。私達をここまで連れてきた。」

「そーだよ!!何もできてなんかいないよ?」

「うむ!時には逃げるも勇気!だけどそこで諦めずアリスはもう一度仲間を助けに行こうとした!十分立派だ!!あとは俺たちに任せておけ!ウィル!!どうだ?」

「・・・うん。馬車のタイヤ痕はこのまま真っ直ぐ山脈の方に向かってる。それにタイヤの跡の土は固まっていないからまだ遠くまでは言ってないはずだ。」


僕はムギから降りて馬車のタイヤ痕から犯人たちの逃げた方向を推測する。

この時代の移動手段は馬か馬車だ、そしてコンクリートもない。

ならこのまま跡に沿って走っていけば必ず追いつくはずだ。

僕は急いでムギに乗り皆で馬を駆ける。

・・・しばらく走るとだんだんと小さな馬車が二台見えてきた。


「・・・あれか!!」

「・・・確かに荷台の折の中に子供たちがいるわ!!」

「・・・よし!!アイリス!!」

「はいよ!お兄ちゃん!!思いっきりいくからね!!」


クリスの「鷹の目」で荷台の子供たちを確認したと僕はムギの手綱をエリーゼに渡しアイリスの方に飛ぶ。

アイリスはバクガの上で大剣を大きく振りかぶり、僕はアイリスの大剣に乗り思いっきり投げ飛ばしてもらう。


「・・・くっ・・・。「雷神衣威」!!」


僕は着地と同時に一気に駆け馬車の周りの護衛たちに斬りかかっていく。


「・・・ん?・・・おい!!誰かっこっちにガハッ!?」

「おいどうし・・・た・・・。」

「何が起きた!!??」

「わからん!!・・・後ろから馬が来る・・・ガハッ!?」


僕は近くにいた護衛から次々に剣の腹で頭を叩きつけ気絶させ、後ろからはエリザベスやクリスの魔法や矢が飛んできて援護してくれる。


護衛の数はそれほど多くはないらしい。

それによく見ると皆体のあちこちに生傷が残っていた。

恐らくアリスが言っていた魔物に襲われた際におった傷だろう。

だがおかげで彼らは動きが鈍く戦いやすかった。

僕が最後の一人まで追い詰め喉元に剣を突き付ける。


「・・・この子供たちをどうするつもりだったんですか?」

「ヒイ!!助けてくれ!!俺達はただの雇われた運び屋だ!命だけは「ぁぁぁぁぁああああああ!!」・・・ん?ガハッ!?」

「・・・あ・・・・。」


僕が最後の男に尋問をしようと思ったところに何故がレイが飛んできて男に頭突きを食らわせ二人共吹き飛んでいく・・・。

・・・あれは死んだかな・・・、二人とも・・・。


「ごっめーんお兄ちゃん!!」


しばらくすると僕のすぐ後ろにアイリスが馬の上から謝ってくる。


「・・・一体何がおきた?・・いや、大体わかるけど・・・。」

「いゃあ!!お兄ちゃんを投げたのを見てレイもやってみたっていうからさ!!それでやってみたらその先にお兄ちゃんたちがいて!!えへへー、投げるのミスっちゃった。」


なるほど、予想通りだった。

つまりもしかしたら僕があのすごい勢いの人間大砲を食らっていたかもしれないんだね?

・・・というかそうホイホイ人間を投げちゃだめだぞ妹よ。

お兄ちゃん心配になってきたよ。


「・・・いたたたたた・・・?ぬぉ!どうしたおっさん!?頭でも打ったか?」


レイは立ち上がりおっさんを心配しているが・・・やったのお前だぞ?

と言うかあの勢いでぶつかっておいて何でお前はピンピンしてんだ?

リアルだったら死んでるぞ・・・。


「サリィ!!」

「・・・アリス!!無事だったのね!!」


馬車の後ろからはアリスが友人と抱き合っていた。

どうやら無事だったようで僕らはそれを微笑みながら見ていた・・・レイ以外は。

レイは未だにおっさんを激しく揺さぶって起こそうとしているが恐らく逆効果だ。

脳震盪を起こしている人を激しく揺さぶるとはどんな鬼畜の所業なのだろう。

・・・無知って時には怖いんだな・・・。


兎に角僕らは何とか子供たちの救出に間に合ったようだ・・・。



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