第176話ドロケイと・・・・

AOL内で食事を終えた僕らは、一旦ダイブアウトしリアルでも昼食をとる。

アレクサンドラ達を宿などで待たせているわけではないので素早く昼食を済ませ再びダイブイン。

戦う事を決めたアレクサンドラ達の目つきは先ほどまでとは違い光がこもっていた。

しかしこのま王都に乗り込んだところで国相手に僕ら8人で立ち向かえるわけもなく、まずはいくつかの街をめぐり僕らの支持者となってくれている貴族を探すことにした。

その過程でノアの無実を証明してくれそうな人なども探し、彼の無実を証明する。

これが当面の僕らの目標となった。


まずは僕らは「アニ」の街の北側の山脈を目指した。

あれだけの数の魔物が魔の森側から来たとなれば大きな穴や、道ができているはず。

そのままにしておいてはさらに被害が広がってしまうだろうという事で僕らはその穴をふさぐために探しに行った。

ムギ達には前回と同じメンバーが乗っている。


「しかし俺が宿題と戦っているときにスタンピートとは・・・。一生の不覚!!俺も戦えていれば・・・!!」

「仕方ないよ。ああなることは誰も予想できなかったんだ・・・。それに宿題だって十分大切なことじゃないか。」

「うむ!宿題はしっかりやらねばな!!しかしエリザベス達が本当に鬼のようだったんだ・・・。どんどん俺を追い詰めていって・・・。」

「そ、そうなんだ・・・。レイはなんの科目が苦手なの?」

「うむ!!数学がわからん!宿題の間にみんながいきなり問題を出してくるのだ・・・。いきなり14×7なんて言われて計算できるか?俺はビビった!!」

「98でしょ?」

「おお!?すごいな・・・。」

「じゃな37+16は?」

「それはずるい!!」

「何がずるいんだ・・・。」

「難しすぎるぞ!!ビビるではないか!!もっと簡単なのにしてくれ!」

「・・・例えば?」

「・・・14+18とか・・・。いや、まぁそれもちょっとビビがな!!」

「どれだけビビるんだよ・・・。小学生の計算問題だろそれ・・・。」


大体計算問題でビビるってなんだ。

そんなでよくバイトとかしてたなこの人・・・。

そんなくだらない話をしていると1時間ほどで「アニ」の街の北側にたどり着く。


「・・・これは・・・!!」

「・・・これは「上級魔法陣」だ・・・。ノアの所で何度も見たから間違いない・・・。」


山と山の間には大きな道ができており、そこには魔物が通れないようにいくつもの上級魔法陣が描かれており道を塞いでいた。


「上級魔法陣ですって!?そんな高等魔法扱える人間なんてこの国でも一握りなはずよ!?」

「・・・僕も同意見です・・・。・・・できる人間と言えば・・・ノアや、副神官のブクブクくらいですよ・・・?」

「・・・ブクブク・・・!!」


ノアはもういない・・・、となるとアレクサンドラ達からの情報によれば残るは副神官長のブクブクしかいないことになる。


「なんだ!!元凶は全部そいつじゃないか!!俺がボコボコにしてやる!!」

「待ってください!いきなり何の証拠もなく副神官長をぼこぼこにしたらレイさんの方が捕まってしまいますよ!」

「そうよ!少し落ち着きなさい!まずは証拠を集めないと・・・。」

「そうね・・・。流石に戦うには相手は地位がありすぎるものね・・・。何か手を考えないと・・・。」

「ならぶん殴って吐かせればいい!」

「でもそれだと脅されて言ったって言われたら意味ないんじゃないー?物的証拠があればいいんだけどねー。」

「ん。まずは協力している貴族の家を調べるのがいいと思う。方法はまだ浮かばないけど・・・。」


確かに物的証拠を見つけるのは一苦労だろうう。

だがこれだけの事をしたからにはかなりの協力者がいるはずだ。

ここに穴を掘るだけでも一苦労なはずなのに、王子達を指名手配犯にでっちあげる為には沢山の協力者がいなければできないはず。

そして貴族や権力者が口約束を信じるはずがない。

必ず書面でのやり取りがされているはずだ。

だが、確かにエリーゼの言う通り、貴族の館の中を調べるにはそれなりの理由がいる。


「・・・とりあえずまずは、どの貴族が仲間でどの貴族が敵なのかの情報が欲しいわね。」

「そうね。でもどうやって・・・。」

「ん。とりあえずどこかの街で情報を集めた方がいい。」

「でも俺たちはいいとしても王子達は指名手配されているのではないか?」

「多分王子達の顔を皆知らないんじゃないかなー?王子達は基本的に城から出ないんでしょー?」

「そうですね。僕たちの顔はあまり知られてはいないと思います。」

「私達の顔を知っているのは貴族でさえ一部よ。成人の儀を迎えるまではあまり交流はしないものなの。」


話を聞けば王族は犯罪に巻き込まれないように他の人とは違い、学校に行かず王宮で勉強をするらしい。

今まであまり友人と遊んだりしてきていないのだろう・・・。

以前城から抜け出して遊んでいた彼らには王族としての自覚がないのかと疑問に思ったが、さすがに成人まで城から出られないとなると仕方のない事のように思えてきた。


「何だと!?ならお前たちは鬼ごっこやかくれんぼはしたことないのか?」

「「・・・鬼ごっこ?かくれんぼ?」」

「いや、こっちの人たちはそもそもそんな遊び知らないでしょ?」

「ぬぉおお!!なんだと?あんな楽しい遊びは他にないのに!!」

「ちょっと待って!!それどんな遊びなのよ?気になるじゃない!」

「僕も気になります!教えてください!」


レイは二人に遊びを教えている。

こんなところで何を教えているんだか・・・。


「・・・なるほど・・・。つまり鬼ごっこは持久力や、瞬発力などを鍛えるためにやる訓練なのですね。」

「かくれんぼは、観察力を鍛えて魔力の揺らぎを感じる訓練なのね。」


その遊びはそんなに高度な遊びではないんだが・・・。

真面目な二人からすると遊びも訓練になってしまうのか・・・。


「・・・わかりました。やりましょう。」

「そうね。なかなかいい訓練になりそうだわ。」

「うむ!いい心掛けだな!やろう!!」

「・・・は?」


この人達は何を言っているんだ・・・?

内乱中になんで鬼ごっこや、かくれんぼをしなければならないんだ・・・。

そして何でこの二人はそんな決意に満ちた目をしているんだ。

頑張る所をを間違えているだろう・・・。


「・・・いやいや。今はそれよりも町を探して情報収集をした方がいいのでは・・・?」

「いえ、ウィルさん。僕たちはこれから何度も戦いを繰り広げなくてはならないのです!それには今のうちに訓練をしておかないと・・・。」

「そうよ。私達はあなた達と違ってLVが低いの。だから少しでもあげとかないと。」

「・・・因みに今はいくつなの?」

「僕がLV42です。」

「私はLV36よ。王族の中でも一番低いの。今のうちに鍛えておかないと不安だわ・・・。」


確かにあまりLVは高くないようだ。

そんな彼らがこの先生き残れるか・・・いや、確かに不安要素が高いな・・・。


「・・・わかった。でもその前に君たちに教えることがある。」


僕は二人に「空間把握」のやり方を教えた。

二人はとても真面目で物覚えがよく1時間ほどで「空間把握」を覚えることが出来た。


「・・・これは・・・。一気に感覚が広がって慣れるまで時間がかかりそうですね・・・。」

「・・・そうね。周りの小石や木の葉まで手に取るように感じて変な感じだわ・・・。」

「まぁね。でもこれから不意に襲われてもこれなら確実にかわせるようになるよ。」

「・・・でも人の形は正確には分からないんですね。」

「それは人間は強い魔力を発しているからだよ。だから人間の体の形は繊細にはわからないんだ 。」

「まぁその方が女性はありがたいわよね。「空間把握」を使われていちいち胸の形とかわかられたら恥ずかしいもの。まぁここにそんな事考える人はいないだろうけど。」


エミリアの言葉に僕とアレクサンドラは同時に目が合い、そして反らしあう。

・・・どうやら僕らは、いや、男は誰でもやってしまうことだろう。

決して僕らがいやらしいわけではない。

ただ男とはこういうものなのだ・・・と、自分に言い聞かせよう。


「さ、さぁ。じゃあ早速始めよう!どっちからやる?」

「そ、そうですね!僕は鬼ごっこからやりたいです!!」

「ねぇ。なんで二人とも声が上ずってるの?ねぇ。なんで?」


僕とアレクサンドラはエミリアから睨まれるが、何とか誤魔化して・・・誤魔化せてると信じて話を逸らす。

僕の後ろからも分かりやすい殺気を感じるが僕はそれを気にしないことにする。


そして何故か遊びは「ドロケイ」の方が面白いという話になってそちらになった。

ルールは簡単。

二チームに分かれて一チームが泥棒、一チームが警察になり、泥棒は逃げて警察は捕まえる。

捕まった泥棒は、他の泥棒がタッチすれば助けることが出来る。

AOLで言えば傭兵と盗賊になるんだろう。


チームはアイリス、エリザベス、クリス、エリーゼチームと、僕とレイ、エミリア、アレクサンドラになった。

範囲は1km と広い気がしたが、スキルを使えばすぐそこなのでこれには同意した。


「じゃあ行くよー!!10・・・9・・・8・・・。」


アイリスがカウントをし、僕らは一斉に四方に逃げ出す。


10のカウントが終わったころには僕らは100m程離れることが出来た。


「・・・よし、ここまでくれば・・・ん?・・・嘘だろ?・・・こんなの僕の知ってる「ドロケイ」じゃない!!」


僕が振り返るとアイリスは気を輪切りに切り裂きこちらにぶん投げてくる。

僕は何とかそれを躱すと今度は空からクリスの「レインアロー」によって矢の雨が降ってくる。

僕はそれを「空間把握」によって躱す・・・が、その間に僕の周りには氷の壁が出来上がっていた・・・。


「・・・連携完璧すぎだろ・・・。うわ!!」


氷の間からいくつもの「ライトボール」が飛んできて、辺りが一気にまぶしくなる。


「・・・クソ!!「雷神衣威」!!」


氷の間から4人が入ってくるのを感じ、僕は「雷神衣威」を使い、氷を砕いて逃げ出す。


「あーー!!それはずるいよお兄ちゃん!!」

「せっかく作った氷を砕くなんて・・・。悲しいわ。」

「お姉ちゃんの愛の矢を躱すなんて・・・お姉ちゃん悲しい。

「ん。氷を砕いていいなんてルールはない。」


まさかの理不尽な事を言われた。

兎に角気にしないで僕は走りレイの方に行く。


「うぉ!!こっちに来るなウィル!!皆の狙いはお前だ!!素直に犠牲になれ!」

「それでも騎士かお前は!?騎士なら騎士らしく仲間を守って見せろ!」

「ぬ?・・・それもそうだな。良し!!俺がここを守る!お前は先に行け!!」

「わかった。先に行ってるね。」

「うぉ!?そこは止めろよ!俺は女性だぞ!!普通「女を置いていけるか!」とかいうのが定番だろ!?」

「そんな定番は知らん。・・・ってきた!」


僕らが言い合っていると再び木の輪切りがたくさん飛んでくる。


「ふん!!そんなものこのレイ様に効くとでも!?・・・あ。」

「ん。レイ捕まえた。」


レイが木の輪切りを全て盾で防いだが、飛んできた木の一つにエリーゼが乗っていて、そのままレイをタッチしてしまった。


「ぬぁああああ!!しまったーー!!」

「馬鹿野郎!何が「ここは俺が守るだ!?捕まってんじゃねえか!?」


僕がレイが捕まっていたことに呆れていると今度は矢が飛んでくる。

それを避けると既に僕の退路には氷の壁ができていた。

これでは逃げ道が限定されてしまう。

僕は再び「雷神衣威」で逃げるといたるところに氷の毛壁ができていて逃げ道がアレクサンドラ達のいる方向しかなくなってしまった。


「ちょっとウィル!なんでこっちに来るのよ!?」

「そうですよウィルさん!!せっかく隠れてたのに!!」

「「ケイドロ」は隠れる訓練じゃないぞ?それを教えるためにこっちに来たんだ。」


もちろん嘘だが。

ただエリザベス達に誘導されただけだ。

そんな話をしていると再び木の輪切りが飛んでくる。

今度は三人で全て「空間把握」を使って躱す。

そして最後の木に乗っていたエリーゼを躱す・・・が、今度はエリザベスもクリスも乗っていた。

全くそんな軽率に人を投げ飛ばすもんじゃないぞ妹よ・・・。


クリスは矢を、エリザベスは魔法を放ち攻撃してくるが、クリスの矢は僕とアレクサンドラが切り落とし、エリザベスの氷をエミリアが氷の壁をつくって弾く。

・・・エミリアは氷属性が使えることには驚いたが今は前に集中しないと・・・。

と、僕らが全て躱しきったところで今度はアイリスが近づいてきて地面を切りつけ土の塊を飛ばしてくる。

最早これは「ドロケイ」ではなくただの戦争だ。

アレクサンドラは飛んできた土の塊をモロに直撃し倒れてしまう。


「・・・アレクサンドラ!?きゃ!?」


アレクサンドラに気を取られたエミリアはエリザベスが氷の壁を壊したのに気づかずその破片に当たり倒れる。

二人が倒れたことで僕らは完全に不利になってしまう。


「・・・くそっ。お返しだ!!」


僕は「魔爆剣」で地面を切りつけアイリスのやった様に土の塊を飛ばし砂煙を上げる。

辺りは完全に砂煙で覆われその隙に僕は二人を抱えて森の方へ走っていく。

後ろから攻撃が飛んでくるが「雷神衣威」で本気で逃げる僕には誰も追いつけない。


「・・・う、ウィルさん・・・ちょっとピリピリします・・・。」

「そ、そうよ・・・。雷が・・・。ピリピリすすするるる・・・。」

「あ、ごめん!!」


ある程度走ったところで僕は止まり木を背に二人を下す。


「・・・く・・・、すみません。簡単に倒されてしまって・・・。」

「・・・私もよ。油断してしまったわ。」

「うん。本来こんな遊びじゃないんだけどね。まぁでも二人の今回の油断は今後命取りになるから気を付けた方がいいよ。アレクサンドラは木を避けた後油断して「空間把握」を解いたね?そしてエミリアは倒れたアレクサンドラに気を取られて攻撃を受けてしまった。今は訓練だからいいけど。」

「「・・・ごめんなさい。」」

「うん。素直なことはいいことだ。これから気を付ければ・・・ん?」

「?どうしました?」

「・・・あっちで誰か倒れてる・・・。」


僕は森の先に誰かが動かないのを見つけそちらにアレクサンドラ達と共に走る。

そこには小さな兎族の女の子が倒れていた・・・。



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