第178話隠された洞窟

「・・・改めまして助けてくれてありがとうございます!!」

「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」


子供たちを救出後、僕らは皆からお礼を言われている。

子供たちは10人いて、皆10歳前後と若く、アリスが15歳と一番年長のようだ。

彼らはパライスの街の外で遊んでいたところをいきなり襲われたようだ。

アリスが護衛役でいたため大丈夫だろうと判断し街の外に出たのが運の尽きだったようだ。


そんな話を聞いていた時エリザベスとクリスが先ほど脳震盪で倒れていたおっさんを引きづってきた。

子供たちに聞かれないようにエリザベス達が遠くでお話(尋問)をしてきて情報を仕入れてきてくれた。

・・・が、何故かおっさんはどこか幸せそうで気持ち悪い顔をしていた。


「・・・な、なぁエリザベス。そのおっさんに何したんだ?」

「何って、少し大人なお話をしただけよ?」

「ふふ。まぁ子供たちのいるところで話す内容でもないわよ。」

「そ、そうだね・・・。」


大人のお話ってなんだ・・・。

ちょっと僕にもやってもらえないだろうか?


「それで?話は聞けた?」

「ええ。と言ってもこの人たちは本当に運び屋だったらしくあまり情報を持っていなかったわ。」

「この人たちは貴族から依頼を受けて物を運ぶ、貴族御用達の何でも屋だったらしいわ。言われるがままに白い物も、黒い物もなんでも運ぶわけね。」

「ん。つまり貴族がかかわっていることは確定したわけだ?」

「そうね。今回の依頼はパライスから一番近い領主「ゲテム」の依頼らしいわ。行先はもちろん帝国ね。」

「・・・待ってください!仮にゲテム伯爵が犯人だとしてどうやって帝国領に?」

「そうよ!さすがに帝国に入るのには「国門」を通らないと通れないわよ?」


確かにそう言う話だった。

国境にある大国側と帝国側に一枚づつあるとても巨大な「国門」、それを通らなければ国境は通れないはずだ。


「それがそうでもないみたい。近くの山脈に抜け道があってそこから通っていたらしいわよ。」

「・・・そんな馬鹿な・・・。」


どうやら魔の森との間にある山脈に洞窟が掘ってあってそこから国境を越えられるらしい・・・。

…だとすると・・・。


「・・・ねぇ。以前「試練の塔」にリムルが来れたのって・・・。」

「そうね。恐らくその洞窟を使ったんだと思う。」

「ん。つまり割と頻繁に使われているのね。」

「ん?なんの話だ?」

「レイは後で教えてあげるー!!」


とりあえず今はこの子供たちを何とかしなければならない・・・。


「・・・ウィルさん。その洞窟まで行くことはできませんか・・・?」

「・・・私も行って確かめたいわ。そんな洞窟が本当にあるのならすぐにでも塞がないと・・・。」


アレクサンドラとエミリアの言うことも正しいと思う。

その洞窟がある限り帝国側からいくらでも兵士を送ってこれるし「獣人狩り」を行って密入も繰り返されるはずだ。

しかし今は・・・。


「・・・ねぇ。どういう話か私達にも教えてくれない?私達も無関係な話ってわけではないんでしょ?」


アリスが僕らが深刻な表情をしているとそれに気づき話しかけてくる。

確かに彼女たちも無関係な話ではないので僕は今の話をアリス達にもしてみることにした。


「・・・そう、そんな洞窟が・・・。・・・ならその洞窟を破壊しに行きましょう?」

「そうね!!そんな洞窟があるからこんなことが平気で行われるんでしょ?だったら私達の手で破壊するべきだわ!!」


アリスに続き友人のサリィもそれに賛同する。

だが実際はどうするべきだ?

確かにその洞窟は破壊した方がいいと思う・・・が、こんな10人もの子供たちを一緒に連れていくのは危険だ。

その際帝国兵に出くわさない保証はない、そしてモンスターにも。

子供たちの年齢は10歳~15歳、果たして彼らを守り切れるだろうか・・・。

いやそもそも・・・。


「・・・いてっ!?」

「ん。ウィルは考えすぎ。大丈夫。私達が付いてるから。」

「そうだよお兄ちゃん!!お兄ちゃんにできないことはアイリス達がサポートするから!!」

「おう!!俺達がいる!!安心しろ!!」

「そうよ。お姉ちゃんパワーを信じなさい。」

「ふふ。そういう事。ウィルの心配してることも分かるわ。でもここで洞窟を破壊ししとかなきゃ被害が拡大するのも事実。それに護衛対象の二人が行くなら私達は行くしかないんじゃない?」

「ウィルさんお願いします!!」

「そうよ!私達が行きたいの!お願い!」


僕は少しこの二人を勘違いしていたかもしれない。

正直この二人はまだ子供だと思っていた。

目の前で兵士がやられ、自分が狙われ、国に追われ、顔を青くしてしてまだ彼らには戦う覚悟ができていないと思っていた。

でも違うようだ。

二人ともこの国のために本気で怒り、戦う覚悟を持った目をしていた。


「・・・そうだね。二人が言うなら、二人が行くなら僕らが行かないわけにはいかないね。行こう。洞窟へ。」


僕らは気絶している男たちを放っておいて、一人幸せそうにしているおっさんを放っておいて一台の馬車を拝借。

子供たちを乗せ、洞窟へ向かった。


「・・・それでね!!お父さんはすごいんだよ!!おっきくて強くて!!それでねそれでね!」

「あははー!!そうなんだ!!」

「ほう。それは是非戦ってみたいものだな。」


子供たちの護衛兼遊び相手をレイとアイリスに任せてある。

二人はすでに子供たちと馴染んでおり仲良くなっていた。

・・・きっと精神年齢が同じなのだろう・・・。

レイは20歳だけど・・・。

・・・というか子供のお父さんと戦おうとするんじゃない。


「・・・すみませんウィルさん。無茶を言って。」

「何言ってるのよ!この国の危機よ!私達が動かないでどうするの!?」

「ははは。別に構わないよ。まぁ危険な状況になったらしっかり僕らのいう事を聞いてね。」

「ふふ。大丈夫よ。なんだかんだウィルが何とかしてくれるから。」

「そんなに期待されても困るんだが・・・。」

「はい!!期待してます!!」

「せんでいい。僕の話も聞いてくれ。」

「私も期待してるわよ!!帝国兵から助けてくれたときみたいに!!」

「ここには僕の話を聞いてくれる人はいないのか?」

「ん。大丈夫よウィル。私も期待してる。」

「何が大丈夫かわからないがとりあえず話を聞いてくれる人がいないことは理解した。」


どうやら悲しいことに僕には味方がいないようだ。

そのまま僕らはムギ達に乗り、馬車を先導しながらゆっくりと進んでいった。

道を進んでいくと人攫い達の言っていた一本杉の大きな木の麓まで来た。

そこを真っ直ぐ山脈沿いに道なき道を進み山の麓、小さな滝が流れそこから川ができているところまで来た。

リアルではすでに7月過ぎだが、AOLの中はそこまで気温が上がらず涼しく、さらにここは滝から来る涼しい風によって快適な場所となっていた。

こんな状況じゃなかったらピクニックでもしたかったなぁと思いながら僕らはムギ達から降り、子供たちと馬車と共に待たせることにした。


「・・・大きな丸い岩・・・これかな?」

「そうね・・・あ、あったわ。魔法陣。」


クリスが見つけてくれた魔法陣、話によるとこの魔法陣に魔力を流すことによって岩が動き洞窟への道が開けるらしい。

なんともファンタジーな話だ。


魔力はエリーゼが流し、僕とレイが先頭に立って突然魔物が飛び出してきても対応できるように構える。


「ん。いくよ?」


エリーゼが魔力を流し始めると砂ぼこりや大きな音をたてながら岩が横にずれていく。

僕は「空間把握」を使いいち早く中の状況を探ろうとする。

扉が少し開いたところで「空間把握」により中に大勢の人間がいることが分かった。


「・・・おう!やっと来たか、おせー・・・ぞ?」


僕は中にいる人がしゃべり終わる前に斬りつけ気絶させる。


「おいなんだてめぇ・・・が!?」

「おいおい話がちが!?」


中は松明の炎が至る所にあった為明るく敵の姿を映し出していた。

中は大きな空洞になっており、傷ついた帝国兵たちが100人ほどいた。

恐らく先日僕らと戦った帝国兵だろう。

彼らは「ケロケロソンヌ」を包囲しているはずだがここに逃げ込んできたのか・・・?


(ん。ウィル集中する)

(あ、ごめん)


「念話」でエリーゼから話しかけられ僕は考えるのを止めて戦いを再開する。


「ぬぉおおお!!帝国兵め!!先日はよくもやってくれたな!!全員抹殺だぁ!」

「あはははは!!ほらほら!!戦わないと死んじゃうよ!?」


すでにアイリスとレイは楽しそうに数人の敵を切り裂きながら中に進んでいく。

なんだかセリフからしたらこっちが悪者のようだが、そこは気にしないでいこう。

エリーゼまで中にはいると敵が逃げ出さないようにエリザベスは入り口を氷で塞ぐ。

これで子供たちを人質に取られる心配をしなくて戦える。


彼らは休んでいた者がほとんどだったのだろう。

武器を出すのにもたついている者、突然襲ってきた僕らに驚き状況が読めていない者、様々いた。

だが僕らからすれば敵だ。

僕は大切な者達を守るためにもう迷わないと決めている。


「・・・・・フッ!!」


僕は剣を握りしめ一呼吸で敵を切り裂いていく。

彼らはこの国を襲ってきた悪者だ、そして人攫いでもある。

ここで仕留めておかなければならない。

そう自分に言い聞かせながら僕は剣を振るい続けた・・・。


「おらおら!!・・・ん?・・・な!?」

「レイ!?」


突然先頭で戦っていたレイが吹き飛ばされたと思ったらそこには片腕を失ったリムルが赤い魔力をまとわせ立っていた。


「レイ!!・・・よくもレイを!!」

「やめろアイリス!!」


レイが吹き飛ばされたことに腹を立てたアイリスがリムルに向かっていき大剣を振るう。

が、リムルは片腕で振るった剣一本で軽々アイリスの大剣を受け止めはじき返す。


「・・・アイリス!」


僕は反射的に「雷神衣威」を使い走るがリムルは剣を弾かれ体制を崩したアイリスに向かい剣を振るう。

・・・このままでは間に合わない・・・。

と、思ったときアイリスの目の前に氷の壁ができ、リムルの剣は氷を砕くだけで止まった。

が、アイリスは砕けた氷の塊に当たり吹き飛ばされる。

僕の前にはまだ数人の兵士がいてリムルの所まではまだ数秒かかってしまう。

リムルはこちらを見て一瞬ニヤっと笑うと吹き飛ばしたアイリスに向かって走り出す・・・が、その足元クリスの「インパクトショット」が当たり、リムルはその衝撃で後ろに軽く飛ばされる。


「はぁあああ!!行け!ウィル!!俺では悔しいが奴には勝てん!!」


吹き飛ばされレイが戻ってきて僕の前にいた数人の兵士に盾で突っ込み道を空ける。


「・・・ありがとう、レイ。今度こそ奴を仕留める。」

「おう!!行ってこい!!」


僕はレイが空けてくれた道を一気に進みリムルに向かって「魔爆剣」を叩きつける。

リムルはインパクトショットを受けバランスを崩してい為、僕の攻撃を受けるのに必死で「魔爆剣」の爆発によりさらに後ろに吹き飛ぶ。


「リムルはウィルに任せて私達は周りの兵士をやるわよ!!」

「「「「了解!」」」」


後ろからエリザベスの声が聞こえ、僕はリムルに集中する。

僕の両サイドではアイリスとレイが剣を振るい、その後ろからクリスの矢とエリザベスの魔法が援護している。

敵の兵士たちはすでに状況を飲み込み戦い始めているがすでにその数は1/3程度になっており、倒しきるのは時間の問題だろう。


「・・・すー・・・はー・・・。」


僕はゆっくりと深呼吸をする。

片腕を失ったリムルは恐らく僕と互角の実力を持ってる。

一瞬も油断もできないし、隙を作れば一瞬で勝負は決まってしまう。


一度目を閉じ僕は全神経を集中させる。

剣の重み、足元の土の感触、服の感触、生暖かい空気、聞こえる兵士の声、仲間の声、そして正面で僕を待ち受け体制を整えてるリムルの存在。


僕は全神経を研ぎ澄まし、目を開く。

・・・ここでリムルを倒す・・・、いや、ここでリムルを殺す。


僕は剣を握りしめ、一気に駆けだす・・・。

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