第151話試練の塔再び 中編
「知力を示せ」
階段を上り次の扉を開く。
それまでアレクサンドラは口を開かず、何かに焦っているようだった。
剣を一度も鞘に納めず強く握りしめている。
この塔で彼の中で何かを掴めればいいのだが・・・。
小さな部屋の扉の前には文字が描かれている。
「貫くものだが、貫くと失うものはなんだ?」
クイズの第一門だ。
アレクサンドラは腕を組み目をつむる。
大丈夫だ、落ち着いて考えればいい。
だって僕もまだわかってないんだから。
「さっきのクリスの攻撃はさすがだったわね。タイミングばっちりだったわ。」
「当り前よ。「鷹の目」の二つ名は伊達じゃないんだから。」
「お姉ちゃんかっこよかったよ!!」
「ん。私の心も射貫かれそうだった。」
エリザベス達は答えをわかっているのだろう。
僕らが悩んでいると雑談をし始めた。
ん?
心を射貫かれた・・・?
「・・・わかりました!!答えは「矢」です!!」
ゴゴゴゴゴゴッッ・・・。
アレクサンドラが叫んだ後、石の扉がゆっくりと開く。
だが彼の表情はまだ優れない。
正解の喜びに浸っている余裕はなさそうだ。
「妊婦が一人で部屋の中にいる。確かに一人だ。家の鍵もかけ周りには物音ひとつしない静かな空間だ。だがそんな中彼女を蹴る人物がいる。いったい誰?」
え・・・、お化け・・・?
何この怖い問題、やめてそういうの。
「ウィル・・・。たぶん貴方が考えてる答えは違うわよ・・・。」
「そだよお兄ちゃん!ホラー的な問題じゃないから!」
「妊婦に蹴りを入れるお化けって最悪じゃない。」
「ん。妊婦さん可哀そう。」
あ、そうか・・・。
「「赤ちゃんが蹴ったんだ!」」
僕とアレクサンドラの声が重なる。
ゴゴゴゴゴゴッッ・・・。
次の部屋に進む扉が開いた。
「・・・ちょっと邪魔しないでくれます?」
「・・・ごめん。」
僕はアレクサンドラに怒られてしまった。
確かに今はアレクサンドラの為にこの塔に来ているんだ。
彼に解答権があるんだった・・・。
でもわかって嬉しかったんだもん・・・。
「1tの鉄と1tの紙はどちらが重い?5分以内に答えよ。」
「そんなもの紙の方が軽いに「うううん!!」・・・なんですかウィルさん。また邪魔を?」
「ん?ごめんごめん。そう言えばアレクサンドラって英雄になりたいんだよね?」
「今その話は・・・。まぁそうですよ。英雄のように強くなりたいんです。」
「そのためにこの塔に来ている。・・・でもなんか焦ってるよね?せっかく英雄になれる道を進み始めているのに。」
「・・・確かに焦っていますが何か?今関係ありますか?」
「・・・僕も強くなりたくて焦っていた時期があって懐かしいなと思って。」
「・・・だから?」
「でもね。これだけは覚えておいて。何かに憧れることはいいことだと思う。何かを目標に持つことは。でもそれに囚われては駄目だよ。よく目標に囚われて周りが見えなくなってしまって自分を潰してしまう人がいるんだ。大事なことは今の自分の能力を最大限に生かして全力を出すことなんだ。そうすれば可能性は広がっていく。」
「・・・・・・・・・・。」
「話がそれちゃってごめんね。君は今何かに焦って本来の力を出し切っていないように感じて。」
「・・・本来の・・・?・・・あっ。」
アレクサンドラは僕の話を聞いた後再び問題を読み返す。
「・・・そうか。重さは同じなんだ。」
アレクサンドラがそう答えた時、最後の扉が開いた。
「・・・どうも。」
アレクサンドラは僕を横目で見ながらお礼を言ってくる。
その姿がちょっと子供っぽくてかわいかった。
僕に弟がいたらこんな感じなのかな?
「いいえ。どういたしまして。これは僕が大事にしている事なんだけど、人生焦っていいことなんて一つもないからね。僕は常に焦らず冷静にいることを大事にしているんだ。良かったらアレクサンドラも覚えておいて?」
「どんなときにも冷静に・・・。確かにそうかもしれませんね。覚えておきます。」
アレクサンドラはぶっきらぼうにそう言った後、先に歩き出す。
その姿を見て僕らは微笑む。
やっぱり彼は賢い。
だが何かに囚われている。
この塔を上るたびにできればその囚われていることを少しでも和らげてあげよう。
「勇気を示せ。」
「話には聞いていましたがこれは・・・。」
「・・・怖いよね。やっぱり。・・・」
床の見えない長方形の部屋。
しかし実際には床は見えないだけで実在し、その見えない道を進んでいかなければいけない。
かなりの勇気が試される部屋だ。
「大丈夫?僕が先頭で進もうか?」
「・・・大丈夫です。僕が先頭でなければ意味がありませんから。」
アレクサンドラは近くにあった1本の松明を持ち、剣で床のない空間をつつきながら床を探していく。
ヒュ・・・ヒュ・・・コツ。
どうやら見つけたみたいだ。
僕は彼の肩を掴み皆も僕の後ろに続く。
コツコツコツコツ・・・・・・・ヒュ。
「うわっ!?」
アレクサンドラは床から足を踏み外し落ちそうになるが、僕がしっかり肩を掴んでいたため落ちずに済んだ。
「・・・ありがとうございます。」
「大丈夫だよ。ゆっくりでも。落ちそうになっても後ろには僕らがいるから。」
「・・・はい。」
一度落ちそうになった事で彼はゆっくりと慎重に床を探しながら進んでいく。
その後も2度ほど落ちそうになるが、僕がしっかりと捕まえ、後ろの皆が僕を支えてくれる。
こうして何とか無事に次の階段にたどり着くことが出来た。
「忍耐力を示せ。」
「天井が落ちてくる部屋ですか。」
「そうだね。だけどゆっくりとみんなで声を掛け合って焦らずに進めば大丈夫だよ。」
「わかりました。」
彼はそう言いゆっくりと足を踏み出す。
すると天井は大きな音を立てて落ちてくる。
「アレクサンドラ!!3時の方向!!」
僕は叫んでアレクサンドラは声に従い急いで駆ける。
天井が完全に落ちた時には彼は何とか針のない空間にたどり着いたが、腰を抜かしてしまい座り込んでしまっている。
天井が上がり始め、僕は急いで彼の所に行きたたせてあげる。
「大丈夫かい?」
「はい・・・。ありがとうございます。・・・ここもなんだか「勇気の部屋」と呼んだ方がいい気がします。」
「ははは。確かにそうかもね。でもこの部屋で一番大事なことはやっぱり忍耐力だよ。焦って進んだら体は穴だらけになる。いかにみんなの位置を気にしながらゆっくりと、我慢しながら進んでいくかがポイントになるからね。」
「・・・じれったい部屋ですね。一気に進みたいのに。」
次の天井が上がってきて僕らはゆっくりと前に進む。
初めは自分のペースだけで進んでいたアレクサンドラは少しずつ周りを見始めて、僕らの位置、次の進む道を自分で見つけられるようになってきている。
少し時間はかかってしまったが何とか次の階段へたどり着く。
「チームワークを示せ。」
「ここで最後の部屋ですか。以前はどんなモンスターがいたんですか?」
「以前は戦ってないんだ。だから僕らもこの部屋だけは初めてだ。」
「そうですか・・・。では進みましょう。」
彼から質問をしてくるのはここで初めてだ。
単にモンスターの情報が知りたかっただけかもしれないがいい傾向のような気がした。
・空っぽナイト LV28×2
・加藤さん家の糸使い ×30
ここは動く鎧2体と加藤さんちの猫のようだ。
・・・加藤さんって誰だよ・・・。
「・・・どうする?今度も一人でやる?」
「もちろんです!!でないと英雄にはなれませんから!」
そう言ってアレクサンドラは駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます