第150話試練の塔再び、前編
水曜日
生産組の手伝いをしようとしていた僕らに意外な人物が訪ねてきた。
「すみません!!ここが「カンパニー」ホームでよかったですか?」
「えーと君は?」
「僕はアレクサンドラ・エレクトリカルと言います!この国の第二王子です!!」
「カンパニー」ホームに来たのはなんと第二王子様だった。
彼はクエスト「英雄を夢見た少年」で会って以来だった。
・・・会ったといっても彼自身は眠らされていてこうして話をしたのは今回が初めてだが。
僕はとりあえず立ち話もあれなのでと談話室まで案内する。
彼は王族でありながら一人でここまで来たそうだ。
そして綺麗な衣装に身を包んでいるわけではなく、銀の鎧に銀の剣を腰に下げている。
まるで本当の英雄の騎士のようだった。
身長は小さいが・・・。
「・・・それで?ここまでお一人で来た理由を話していただいていいでしょうか?」
「敬語はいらないです。今は一人の男として扱ってほしいんです。」
メイドによって入れられた紅茶に手も付けず、じっとこちらを強いまなざしで見つめてくる。
「・・・わかった。じゃあアレクサンドラ。理由を聞いても。」
「はい。その前にまずはお礼と謝罪を。以前助けていただいたのにお礼もできずに申し訳ありませんでした。あれから中々外出許可が下りずに来ることが出来ませんでした。本来なら真っ先にお礼を言うべきでしたが・・・。」
アレクサンドラは14歳とは思えないほど礼儀正しく、そして強い存在感を発していた。
さすが小さくても王族というわけだ。
「お礼と謝罪は受け取ったわ。色々事情があるでしょうからその辺は気にしてないわ。」
「ありがとうございます。それで今回は「カンパニー」に依頼に来たのです。」
「依頼?どんな?」
「僕と一緒に「試練の塔」まで行ってはもらえないでしょうか?」
「「試練の塔」に?でもあそこは新人騎士が行くような危険な場所だよ?」
「わかってます。だからこそ。僕は騎士になりたいんだ。」
アレクサンドラはゆっくりと、そしてはっきりと僕らに話しかける。
そこには強い意志を感じることが出来た。
「騎士に?でも確かこの国の騎士は15歳。つまり成人を迎えてっからじゃないとなれないはずだが。」
「そうなんです。だけど僕には時間がない。今すぐ力が欲しいんだ。英雄になれるくらいの力が・・・。」
「・・・何か訳ありなのね。理由は聞いても?」
「すみません。理由は話せないんです。だけどお父様、つまり国王様の許可は貰ってきています。「カンパニー」なら信用できると・・・。だけど騎士団が認めなくて・・・。だからお父様に相談してこっそり「カンパニー」に連れて行ってもらっちゃえって。」
・・・エレクトリカル王よ・・・、それでいいのか・・・?
大事な息子なんじゃないのか・・・?
ーーーーーーーーーー
クエスト【英雄を夢見る少年】発生
このクエストは断れば二度と受けられません。
次のあなたのセリフを選択してください。
1俺達に任せろ!
2しょうがないな・・・。依頼料は1億Gな?
3おい!!そんなことよりお前を誘拐して身代金を要求してやる!!
4な、なぁ。そんなことよりお城のかわいい子紹介してくれないか?
5断る!!お前のようなガキのお供なんてできるか!?ベビーシッター代よこせ!!
6それよりも今何色のパンツはいてる?
7君がまだ知らない新しい扉、開いてみたくはないか?
このクエストの残り時間は72:00時間です。
ーーーーーーーーー
なんで段々とBL路線に進んでいるんだ・・・。
僕らは迷うことなく1を選択する。
というか迷いようがないんだが・・・。
「ありがとうございます!ただ一つ問題が・・・。」
「どうしたの?」
「城門からでるのに衛兵の検問を通らなくちゃいけなくて・・・。僕は城をこっそり抜け出してきたのでばれるとまずいというか・・・。」
「・・・王様はその辺何か考えてくれなかったの?」
「「カンパニー」の皆に任せれば大丈夫、とのことでした。」
大事なところ丸投げかい・・・。
「・・・わかった。何とかするよ。」
「ウィル。何か考えが?」
「まぁね。じゃあ行こうか。」
僕らはアレクサンドラと共にホームから出発した。
「…ね?うまく行ったでしょう?」
「ほんとね。検問って意外とざるなのね。」
「・・・本当に。お父様に報告しておかなくちゃいけませんね・・・。」
僕がしたことは、なにも特別な事ではない。
ただムギとホップを召喚して荷馬車を引かせる。
そしてその荷物の中にアレクサンドラを隠しただけだ。
ただ一つ、今までエリアボスからドロップしたアイテム「寂しがりやなローブ」「隠れ上手なネックレス」「隠居人のネックレス」をアレクサンドラに身に着けさせた。
3つのアイテムには全て「隠密」スキルが備わっている為、付けているだけで存在感が薄く目立たなくなる。
後は僕らが行商人のふりをして通れば衛兵は何の疑いも持たずに素通りできる、というわけだ。
そのまま僕らは駐屯地を抜け、無事試練の塔までたどり着いた。
「・・・ここが試練の塔ですか・・・。」
「来るのは初めてなの?」
「ええ・・・。なんだか緊張しますね・・・。」
「ふふっ。大丈夫よ。私たちがついてるわ。」
「・・・そうですね。よろしくお願いします!!・・・では行きましょう!!」
アレクサンドラは剣を抜いて天に剣を向ける。
その姿はまさに小さな英雄のようだった。
僕らはその小さな英雄を微笑ましく見守りながら塔へと入っていった・・・。
「ここは試練の塔。塔を攻略するには一人ではできない。体力、知力、勇気、忍耐力、チームワーク。すべてを使い塔を攻略してみよ。さすれば君たちに大切なものを授けよう。」
試練の塔に入るとそこには懐かしい文字がそこにはあった。
「なんだか懐かしいな・・・。」
「そだねー。もう前に来たのが大分昔に感じるねー。」
「そうね。あの時はここの頂上で負けちゃったっけ・・・。」
「ん。動くことさえできなかった・・・。」
「双剣のリムルね。懐かしいわね。今回はアイツはいないけど。」
そう言えばこの塔で僕らは初めての敗北を経験したんだ・・・。
リムルは今どこにいるのだろう・・・。
次あったら必ずリベンジしてやる。
・・・できればまだ会いたくはないけど・・・。
「では進みましょう。」
アレクサンドラは僕らが物思いに浸るのを待ってから声をかけてくる。
よくできた子だ。
とても14歳には見えない。
「力を示せ」
初めの扉にはそう書いてあった。
「初めは確かアンデッドだっけ?」
「前回はそうだったんですか?ここの塔は毎回モンスターの種類は変わるそうですよ。」
「そうなの?もしかしてクイズも?」
「はい。見えない床や槍の天井などは変わらないらしいですが。」
「そうだったの・・・。ところでどうする?一人でやってみる?」
「・・・はい。一人で大丈夫です。邪魔をしないで下さい。」
「ふふっ。そう。頑張ってね。」
アレクサンドラはゆっくりと扉を開ける・・・。
・道化師見習い田中さん LV25
・田中さんのパペット人形 LV15×30
初めの敵は田中さん一家のようだ。
「行きますっっ!」
アレクサンドラは剣と小盾を構え突撃していく。
田中さん一家には疑問はないんだね。
アレクサンドラはしっかりと身体強化魔法を使っているがまだまだ魔力コントロールがなっていないように見えた。
パペット人形は玩具のような剣と槍を持って三列に並び、アレクサンドラを待ち構える。
アレクサンドラのLVは29.
ギリギリの戦いになりそうだ。
「はぁあああ「雷神衣威」!!」
アレクサンドラはいきなり「雷神衣威」を使った。
あのLVで使えるのか、と驚いたがすぐに僕も剣を抜き、皆もいつでも行けるように準備する。
あのLVで使ってしまったら数分とHPは持たないだろう。
アレクサンドラは上手く槍を払い一体目のパペットを薙ぎ払う。
が、その瞬間すぐに他のパペット達に囲まれてしまう。
「・・・くそっ!!」
アレクサンドラは二体目、三体目と倒していくが囲まれた状態にいるためうまく動けずにいる。
「クリス、ウィル。」
「了解。」
「仕方ないわね。」
エリザベスの声に従い、僕は駆け出し、クリスは矢を射る。
クリスの矢はアレクサンドラの背中に剣を突き立てようとしているパペットに当たり、パペットは光となって消える。
その空いた穴に僕は切り込んでいき左右にかまいたちを放って、アレクサンドラを狙っていた両側のパペットたちを倒す。
「・・・!?邪魔しないで下さい!!」
アレクサンドラは助けられたことに怒り、そのまま無理やり田中さん目掛け切り込んでいく。
が、それは無謀だ。
いくら「雷神衣威」を使っているからといって、相手とのLV差はほとんどない。
僕はアレクサンドラを無視してサポートに入る。
プレイヤーである僕らは死んでも大丈夫だが現地人はそうではない。
死んだらそこで終わりである。
彼らはこちらの世界で生きている。
死んだらそこで終わりというのは当たり前だ。
彼は何をそんなに焦っているのだろうか・・・。
僕のサポートで何とかパペット達を切り抜け、アレクサンドラは田中さんにきりかかる。
田中さんは武器を持っておらず、ひどく怯えた表情をしている。
「はぁあああ!!終わりだ!!」
アレクサンドラが勝ちを確信した瞬間、田中さんは背後からもう一体の隠し持っていたパペット人形をアレクサンドラ目掛け投げる。
パペットの持っていた剣がアレクサンドラの額目掛け振り下ろされる。
この位置からでは僕のサポートは間に合わないっっ!!
ヒュ・・・と音がしたかと思とパペットの額に矢が刺さる。
一瞬動きを止めたアレクサンドラは再び動き出しそのまま田中さんを切り裂いた・・・・・・・。
「・・・なんで邪魔したんですか!?一人でもできたのに・・・!。」
パペットたちは田中さんを倒した瞬間動かなくなり光となって得ていった。
恐らく操る人がいなくなったからだろう・・・。
「何でってさっきのあのままじゃ君は死んでいたよ?」
「そんなことはないです!!一人でできました!!」
アレクサンドラはサポートされた事に腹を立てているようだ。
「あら、一人でもできたっていっても最後なんて確実にやられていたじゃない。」
「・・・・・・・・。」
アレクサンドラは黙ったままエリーゼの治療を受けていた。
こんなんで大丈夫かなと心配になって来た・・・・・・・・。
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